04
さて、そもそも俺はなんだって軽音部へ赴いたのか。
生徒会長、生島一成の指示はこうだ。
――なんかトラブってそうだから、処理できそうなら処理して来ること。無理そうなら事情を把握してこっちに報告する――。
さて、これをそのまま相手に伝えて、円満に物事が進む可能性はどれほど高いだろうか。言うまでもない。俺ならおととい来やがれと答えるだろう。
さて、それではどうするべきか?
答えは判りきっている。他者とのコミュニケーションが容易なわけがないので、どうにか自分の言葉で話すしかない。
「えーっと……さっきも言ったけど、生徒会の者っす」
「知ってる。副会長でしょ。2-Aの桃井英志。役員選挙で投票した覚えもないのに、いつの間にか生徒会副会長になってた」
ツンとしたすまし顔でロック少女は答える。
こっちは相手のことを知らないのに、相手がこっちのことを知ってる状態は、生徒会に入ってからは割と慣れてきた。
「うちの生徒会はメンバー全員と顧問の了承があればスカウトってシステムが使えるらしいんで、俺は会長にスカウトされて生徒会に入ったわけ」
「選挙なしで?」
「選挙で選んだやつらが選んだやつだからいいっじゃん、ってことだろ。もう一回選挙するのも手間だし……っと、悪いんだけど、そっちは……」
「2-C、
「そうだっけ?」
「いや、嘘」
「なんだそりゃ」
思わず苦笑いしてしまう。その間に結城は床から立ち上がり、スカートを手で払ってから、俺に視線を合わせた。
やや吊り目がちで、黒目が大きい。最初に感じた「迷子になって泣きそうになってる」ような印象は、もうない。気の強そうなロック女子。
「それで、副会長がなんの用なの?」
「あー……うちの会長からの話なんだけど、軽音部でトラブりそうになってるって話をどっかから聞いたらしい。そんで生徒会の使いパシリである俺が
「ふぅん、生徒会長が。だったら『余計なお世話』って言っておいて」
「それでいいなら、そうするけど――」
そこまで言ってからわざとらしくタメをつくり、続ける。
「――うちの会長が手を貸せって言うんだから、たぶん手を借りた方がいいってことなんだろうと思うぜ」
「どういう意味?」
ぎろりと睨まれてしまったが、別に大した意味はない。
しかし、だ。ここで踵を返すのもなんだか違う気がする。ドアを開けたときに見た結城の表情や雰囲気は、手を借りる必要がないって感じではなかった。
ここで手を引くと三日くらいもやもやした気分になりそうだし、後から軽音部でトラブルがあったと耳にすれば、そこからさらに二日は嫌な気持ちになるだろう。
だったら仕方ない、少し強引にでも手を取ってもらうことにする。
「うちの会長が『なんかある』っつーなら、たぶんなんかある。でも、今なら『なにもなかった』で済ませられると会長は判断したわけだ。ここで俺の手伝いを断ると、いざなんかあったときに、生島一成はかなり冷たい男になるだろうな」
まあこれは嘘じゃない。
事実には基づいてないが、俺の個人的な予想だ。
せっかくチャンスをやったのに――くらいのことは、会長なら言うだろう。なにも知らない部外者を派遣してチャンスもクソもねぇだろと思うけど。
「…………」
結城は少しの間、俺を睨んだまま沈黙を置いた。
眉根を寄せ、腕組みをして、爪先でコツコツと床を叩く。
黙って睨まれ続ける趣味もないので、俺はなんとなく軽音部室をぐるりと眺め回した。女の子の部屋じゃないので構わないだろう。
部室のつくりは、文化部の狭い方のそれだ。黒台高校の文化部は部員数や活動内容に応じて部室が割り当てられる。俺の所属している文芸部は人数が多いので広い方、軽音部は人数も少なく、活動内容も学校から支援される類のものではないので、順当に狭い方が割り当てられたのだろう。
教室を三分割したくらい、だろうか。
構造的にはワンルームみたいな縦長で、大抵の文化部であればロッカーがあり、真ん中に長テーブルをふたつ並べて、パイプ椅子が置かれている。
軽音部に長テーブルはない。
代わりにあるのは、壁際に並ぶ楽器だ。一番奥には電子ドラムが置かれており、エレキギターやベース、アコースティックギターがむき出しで並んでいる。小さなアンプも置かれているが、あまり使ってなさそうだ。
「ねえ……別に、桃井のことを信じるわけじゃないんだけど」
ボールペンで絵を描くみたいな慎重さで、結城が沈黙を破った。
俺は別に構わないと肩をすくめ、先を促す。
「手を借りて、解決すれば、大きな問題にはならない。そうでしょ?」
「今のところはまだ大きな問題じゃないんだろ?」
「……そう、かも。たぶんそう」
「手は貸すし、まだなんも話を訊いてないからなんとも言えないけど、俺としても問題をわざわざデカくするのは面倒だし、会長もそう思ってるから俺をパシらせたんだと思う。そっちだって問題がデカくなるのは望むところじゃない。だろ?」
「……うん。じゃあ、話す。それで、手伝えるなら手伝って」
「そのために来た」
はっきりと頷き、俺は壁に立てかけられていたパイプ椅子を勝手に開いて腰を下ろした。結城は微妙に嫌そうな顔をして俺をちょっと睨んでから、同じようにする。
それから、結城は言った。
「ギターが一本――なくなってるの」
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