第6話 ある少女の訪問
勝の1件以来、ノッコの虐待の実態暴露の功績については都からも表彰され、NPO法人として都のNPO法人紹介サイトにもノッコのことが記事として取り上げられネットに載った。それ以来ノッコのNPO法人はNPO関連の業界の間では有名になって、それらに関心のある人たちの間でもネット上で噂が広まった。それらの噂を聞いて、いじめで悩む人やひきこもりの人たちが何人かノッコを訪れてきて、彼らをいくらか立ち直らせることにも成功した。
リナもそのことを知ってノッコの携帯に電話をかけてきた。
「ネットで記事読んだよ。ノッコすごいじゃない」
「まあねー」とノッコは思わず得意げにそう答えた。
「まあ、何にしろこれでようやく軌道にのるじゃない」
「ありがとうリナ」
「私は応援してるから」
「うん」
「でも、よくあんな不良の子が色々話してくれたよね」
「まあね・・・私も最初は参っちゃって。でもね、私ね自分から色々と思ってることとかぶつけてみた。そしたらね・・・何か心を開いてくれた。」
リナはノッコの説明が漠然としていたが何となくで意味は分かった。
「すごいじゃない。」リナはそういった。
「でもね・・・前から言おうと思ってたんだけどさ・・・社長にはNPOのこと絶対にばれないようにした方がいいよ」
「え、何でよ?別にいいじゃない」
「あのね・・・社長はいまだにあなたのこと売り込もうと必死に動いてんのよ。そんなこと知れたら何言われるか分かんないよ。とにかくばれないようにしな」
「ばれないようにって・・・どうしろって言うのよ」
「とにかく必死に隠し通すのよ。何か言われてもしらばくれるのが一番」
リナの予想は当たって白川からノッコに電話があり、呼び出された。昼過ぎに会社近くの喫茶店「ゼクシオールカフェ」で待ち合わせをすることにした。
「いきなり、呼び出してすまないね、ノッコ君」
「いえ、そんな」
ノッコはアイスティーを白川はカフェラテを頼んでいた。
白川は少しだけカフェラテを飲むと
「ネットで知ったよ。何かNPO・・・みたいなのを始めたんだって?」
白川の情報網の広さにノッコは驚いたが、リナに言われた通りしらばくれようとした。
「知りません。何かの間違いかと思います・・・」と言った。
白川は少しだけ笑いながら
「嘘ついてもダメですよ。ちゃんと調べてあるから。いやね・・・世論調査というと大げさだけど・・・君のネット上での評判をマーケティング目的でリサーチするので、色々と検索してたんだ。そしたらね・・・君のNPO法人がヒットして出てきた。NPO法人ピアノのノッコって・・・君しかいないよね?サイトの代表者のプロフィールどう見ても君だし」
ノッコは嘘がつけなくなったので何も言えなくなってしまった。
「いや、それは色々ありまして・・・」
「都からも表彰されてるんだって?始めたばかりなのにすごいじゃないか。すごいことだが・・・でもね・・・今は大変な時期だから・・・正直そういうのはあまりよくないんじゃないかと思う」
「よくない?いえ・・・でも私よかれと思ってそのNPOを始めたんです。それに・・・仕事には支障がでないようにやっているつもりです」
ノッコは必死に反論しようとしたが白川はため息をついた。そして鞄から何か資料を取り出してテーブルの上に置いてノッコに見せた。
「これは?」ノッコは聞いた。何やらグラフのデータだった。
「君のここ数年の売り上げ全データをまとめたものだ。見てもらえば分かると思うけど・・・毎年どんどん減っている。アメリカでの売り上げはしばらく安定していたが、それも落ち目になってきている」
ノッコはその資料を見て少しショックを受けた。自分でも知っていたが、改めてグラフで見るとその売り上げ低迷の状況が一目瞭然に分かった。
「この状況が続けばうちとしてもかなり厳しくなる。うちの利益もそうだが、君自身も困るだろ?今はまだ大丈夫だが・・・今後売り上げがさらに急激に落ち込むようなことが仮にもしあったとしたら・・・君の契約更新の話も怪しくなってくる。もちろん今すぐにそんなことは起きないだろうけど・・・。私は君をスカウトしたものとしてそんな状況できるだけ阻止するように動くけどね。でも社長としての権限だって無限ではないからね・・・会社の方針全てを僕が決められないことだって出てくる可能性もある」
ノッコは何も言えなくなってしまった。
「ボランティアをするのも社会にとっては大変いいことだ。私もそれは分かっている。でもね・・・うちとしては音楽の仕事を精一杯やってそれに専念してほしい。ここ最近ライブの数も減ってきているから、今年から来年にかけてめいいっぱいやってほしい」
ノッコは困った顔をして黙ってしまったので、白川は
「ごめん・・・もう仕事だから会社に戻らないと。今日はわざわざこっちに来てもらってすまなかった・・・とにかくよろしく頼みます。では」そう言って喫茶店を出て行った。
白川から色々と言われてノッコは複雑な心境になってどうしたらいいのか分からなくなってしまった。しかし、NPOが軌道にのってしまった以上、社長には申し訳ないけどノッコはNPOを会社には黙ってひっそりと続けることにした。
金沢貴子がノッコのアパートに来たのはそれから何週間か立った後だった。ネットの噂とホームページを見て貴子はノッコにメールをしてきたようだった。「ホームページを見て連絡しました。人生に悩んでいるので今度会いたいです。」と書いてあった。ノッコは「アパートに直接お越しください」と返事をして、地図を添付して住所もメールで伝えた。
次の週の金曜日の夕方に貴子はノッコのアパートに来た。
「こんにちは、はじめまして」
「こんにちは」と貴子は玄関口でそういった。
「どうぞ・・・入って」
ノッコがそう言うと貴子は遠慮深そうにリビングに入った。
「どうぞー、ソファにかけて。今お茶出すから・・・ちょっと待っててね」
そう言ってノッコはキッチンでお茶を入れていた。
しばらく貴子は黙っていたが
「あの・・・すみません金曜日の夕方なのに」と遠慮がちに言ってきた。
「あーいいのよ・・・金曜日の夕方以降は仕事しないって決めてるし」
ノッコは金曜日は仕事を大体夕方までに終わらせて夜は大体ビールを飲んでいた。
「あの・・・私・・・部活とかがあって・・・金曜日の放課後が一番よかったので」
「そっか、貴子ちゃん・・・あ、ごめん貴子ちゃんでいいよね?貴子ちゃんまだ高校生だもんね」メールの自己紹介を軽く見た限りでは貴子は公立高校に通う高校1年生のようだった。可愛い雰囲気の子だったが、見た目も話し方も至って真面目で大人しい感じの子だった。
ノッコは寝ほりはほり聞くのはどうかと思ったが、さりげなくいろいろと聞くことにした。
「貴子ちゃんは・・・何で私のホームページ見てくれたの?」
貴子はうつむいていたが
「私・・・実はノッコさんのファンなんです」と言った。
ノッコはその発言に少し驚いた。ホームページで多少ノッコの噂は広まりつつあったが、それでもシンガーソングライターとしてのNokkoを知ってアパートを訪れてくれる人は今まであまりいなかった。ノッコは途端に嬉しくなった。
「そうなんだ!・・・でも最近の子でジャズなんか聞くの珍しいよね。あ・・・いや・・・なんか私のこと知ってるなんてちょっと嬉しいな・・・なんて」
貴子は
「はい、私、特にジャズが特別好きってわけじゃないんですけど・・・女性のシンガーソングライターとかにものすごく憧れてて・・・あの・・・私学校では合唱部とブラスバンドやってて音楽が大好きなんです。ノッコさんのCDも買ってます」
貴子は音楽系の部活を掛け持ちするくらいの音楽好きな女の子のようだった。
「そんなだ・・・・へー・・・ブラスバンドと合唱かー。すごいね。貴子ちゃん音楽が好きなんだね。CDも買ってくれてるなんて嬉しいです。でもブラスバンドか・・・私なんか音大入る前はそういう部活何にもやってなかったよ・・・。すごいよね。じゃあ貴子ちゃん音楽の基本とかは完璧なんだね。もしかしてさ・・・将来は音楽系に進みたいとか?」
貴子は少しだけ・・・だんまりした後に
「進めたら・・・いいんですけどね・・・」とつぶやいた。
ノッコはよく分からなかったが
「まあ、とにかくちょっと弾いてみようよ。こっちにピアノあるからさ。せっかくきたんだし、ね?」と誘ってみた。
「はい」といって貴子はピアノの方へ行った。
ノッコは
「何か教えながら弾こうか・・・あ、でも貴子ちゃん音楽得意なら自分で弾けるか。何か好きな曲とか・・・弾いてみたら?」
貴子はしばらく黙っていたが
「何か弾いていいですか?」と言ったので
「もちろん」とノッコは言った。
貴子はピアノの前に座りしばらく鍵盤に手を置いていたが、少ししたら弾き始めた。
貴子はピアノを弾き始めた。
ノッコはしばらくそのピアノを聴いていたが、すぐに貴子の上手さが分かった。
貴子が弾いている曲はJUJUの「明日がくるなら」だった。貴子は哀愁ただよう悲しい曲をいとも簡単に弾いていた。ノッコもこの曲は知っていたが貴子の上手さに感動して聴いていた。テクニックとかではなくて貴子の感情のこもった弾き方にただ感動した。
やがて貴子は弾き終わった。
「すごいじゃない・・・これ、全部自分でアレンジしたの?」
「はい、全部ってわけじゃないですけど・・・You tubeとかのピアノ演奏の動画とか聴いてそれを参考にして・・・」
ノッコは感心した。
「すごいね・・・これだけ自由自在にアレンジできるってすごいよ。なんかCD聴いてるみたいだった」
ノッコは本心からそう言った。貴子は少し照れくさそうに
「ありがとうございます」と言った。
「何かほかにも弾けるの?聴いてみたい」とノッコは言った。
貴子はノッコに言われたの他にも色々と弾いた。
「すごーい。何か感情がこもってるよ。ポップスってさ・・・テクニックも大事なんだけど感情がこもってるかが大事なんだよね。貴子ちゃんにはそれがある」
貴子は恥ずかしそうにピアノの前でうつむいていた。
「これだけ弾けたら楽しいでしょ?私も感動しちゃったよ」
ノッコがそう言うと
「あの・・・私・・・門限あるから、帰ります」と貴子は言った。
時計は夜の7時を過ぎていた。
「ああ・・・門限か・・・そうだよね、貴子ちゃんまだ高校生だもんね」
「あの・・・ありがとうございました・・・楽しかったです・・・また来週も同じ時間に来ていいですか?」と貴子は聞いてきた。
「もちろん」とノッコが言うと
「では、失礼します」と貴子はいながらアパートを出て行った。
ノッコは貴子の悩みのことを少し聞きたかったが聞けずじまいだった。
その後、しばらく毎週金曜日の放課後に貴子はノッコの家に来た。貴子は音楽が好きだということもあり、ノッコの教える通りにメロディー作りやコード進行もすぐに覚えて自分で作曲までもできるようになってしまった。才能とセンスのあるように感じた。それ以来貴子は楽しそうになり、毎週ノッコに楽しみに会いに来た。ノッコもそんな風に楽しそうにピアノを弾く貴子を見るのが楽しかった。
ある日の金曜日の放課後いつものように貴子はノッコのアパートに来たので、ノッコはピアノでポップスやジャズの弾き方や作曲を貴子に教えていた。そんな中で貴子が突然、
「ノッコさんはポップスでどんな曲が好きなんですか?」と聞いてきた。
「え、ポップス?」
「はい、ノッコさんのジャズのことはよく知っているんですけど、影響受けたポップスの曲とかってどういうのなんですか?」
貴子は熱心そうにそう聞いてきた。
ノッコはしばらく考えていたが
「そうねー・・・私がジャズを始めたきっかけはガーシュウィンなんだけど、ポップスはよく分からないわ。でも・・・今思い出すと・・・カーペンターズのGoodbye to loveが昔好きだったなー」
と言った。
「そうなんですか?私もそれ好きです。ノッコさんは何で好きなんですか?」と貴子は聞いた。
「うーん・・・何ていうかな・・・愛にさよなら・・・なんて・・・なんてはかないだろう・・・みたいな。人ってさ・・・みんなどこかしろ愛を求めているじゃない?なのに自分から愛にさよならを告げてしまうのが、孤独というか何ともいえずはかないっていうか・・・・。そういうのが何か悲しみがわくって言うか。なんかカレンの声がそれにものすごい合っていて悲しみが漂うっていうか・・・」
貴子は黙って聞いていた。
「あとね・・・最後のコード進行・・・ギターソロが出てくるところのコード進行が素晴らしい!CからG/Cに行くあたりとかもう悲しくって仕方がなくなる」
そう言いながら、ノッコは思い出したようにGood bye to loveを弾き語りで弾き始めた。弾き終わると、貴子は
「すごーい」と言いながら拍手をした。
貴子は続けて聞いてきた。
「ねえノッコさんは、なんで音楽の仕事を始めたんですか?」
ノッコは自分でも何て説明したらいいか分からなかったが、話し始めた。
「私ね、音楽って・・・奇跡だと思ってるの。一見メロディーのフレーズでしかないものが・・・こんなに人に感動与えられるものって・・・もう奇跡としか思えない。奇跡の神様が美しいメロディーを私たちに与えてくれる気がするの。私は作曲してるけど、ただ奇跡の神様がくださったメロディーを自分なりに表現しているだけかもしれない。でも、私は・・・ただそれを表現するだけじゃなくて、そのメロディーで何らの形で人に感動を与えたいって思った。私自身が音楽で救われたように自分も他の人を音楽で救いたいって思ったの。奇跡の神様が私にそのメロディーを与えてくださったのなら私もそれを人に伝えてたくさんの人を救えたならって思った。そうじゃないと奇跡の神様に申し訳ない気がした」
貴子はしばらく何も言はなかったが
「すごーい、やっぱり音楽っていいですよね。私も・・・ノッコさんみたいに・・・将来音楽の仕事がしてみたいな」と言った。
「音楽の仕事?」
「はい」
「へー、作曲とか何か?」
貴子は少しだけ黙っていたが、
「ノッコさんみたいに、そんな作曲はできません。でも・・・実は・・・私・・・歌手になりたいんです」と言った。
「いいじゃない!・・・応援するよ。」ノッコは貴子がそう言ってくれて嬉しくなった。
「でも・・・私の親は・・・反対してます。うちの親は・・・厳しいから・・・音楽に全く理解がないから。小さいときピアノ習ってたのだってお母さんが教育のためって私に何となくやらせてただけだから・・・」
と貴子は下を向いて残念そうに言った。
「そんなの、私だって最初は親に反対されたよ!でもね・・・熱心にやってたらそのうち理解されたの。だから貴子ちゃんも熱心にやってたら絶対理解されるって。大丈夫、私が保障するから」ノッコは励ますようにそう言った。
貴子は嬉しそうにノッコを見て「私も弾き語りやっていい?」と言った。
貴子はNokkoの曲の「It’s me」を弾き語りで弾いた。発売してそんなに日は立ってないのに貴子がその曲を知っていたのがノッコは嬉しかった。
「It’s me はかなき自分 It’s me 隠れた自分 It’s me 誰にも明かさない自分 そんな過去忘れて思いきり語り合おうよ それこそIt’s me」
一瞬緊迫して聴いていたが、弾き語りが終わると、貴子の歌のあまりのうまさにノッコは感動してしまった。歌はプロ並みにうまかった。
「すごい・・・・・うまい!すごいよ、貴子ちゃん。私なんてさ・・・歌プロなのにあまり上手くないから、レコード会社の社長から「ノッコはあまり歌の入ってるCD出させないよ」、なんて言われるのよ」と言ってノッコは笑った。
「うちの社長そういうことずけずけ言うんだから」
貴子は嬉しくなって「歌手に・・・なれますか?」と聞いてきた。
ノッコは迷わずに
「なれる!頑張れば絶対になれるよ」と言った。
貴子は嬉しそうに微笑んだ。しかし、門限の時間になると
「あ、もう門限だ」と残念そうに言った。
「あ、そうだよね」ノッコもそううなずいた。
「あのさ、今日・・・帰りたくない」と貴子は急に言い出した。
「え?どうしたの?・・・・何か・・・あった?」とノッコは聞いた。
貴子はしばらく気まずそうにうつむいていたが、
「あ・・・ううん、なんでもない」と言ってそそくさと玄関の方へ行った。
「え、そう?」
不思議そうにノッコは玄関まで貴子を見送ると貴子はお礼をしてアパートを出て行った。
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