第2話 食べ物
殺風景な部屋だ。
部屋の中には、洗面台と便器とついたて以外、何もない。
ついたては排泄中の姿を外から見られないようにするためのものだ。
目の前には鉄格子。
俺は今、塀の中にいる。
車にはねられた後、公然わいせつ罪で逮捕されたのだ。フルチンで走っていたからな……
俺をはねた車は、軽トラック。あまりスピードを出していなかったからか、たいした怪我にはならずに済んだ。
俺を追いかけてきた連中がどうなったかは知らないが、ここにはいないようだ。
連中は牛、豚、鶏、鮭、海老……そして、女。
……女以外、全部食材じゃないか。
最近、何を食べたか、思い出してみる。
焼肉……黒毛和牛の肉をふんぱつして買った。美味かった。
ポークカレー……ルーは辛口でスパイシーなものを選んだ。これも美味かった。
鶏の唐揚げ……生姜とにんにくを効かせた唐揚げ。これも美味かった。
鍋……鮭と海老、野菜、豆腐を入れた鍋。これも美味かった。
女は……そう、あの時の女だ。
以前、農道を歩いていた時のこと。
向こうから若い女が歩いて来た。
俺好みの美人だった。
長い髪の毛、整った顔立ち。背はそこそこ高い。
ブラウスにロングスカートという、ありふれた服装。
露出度は全然高くないのだが、くびれたスタイルは隠しきれていなかった。
いい体をしているということが、服の上からでもはっきりとわかる。
女を見た途端、股間が反応してしまった。
肉の棒が、熱く固くなる。
俺は我慢できなかった。
思わず女に飛びかかった。
「きゃっ!」
女は声を上げたが、構わずに押し倒した。
服を引きちぎり、体中を撫でまわし、揉みしだく。さらに舐め回す。
「きゃあああああーーーっ!!! 誰か! 誰か……」
ことあるごとに女は悲鳴を上げ、抵抗してきたが、その度に俺は殴り、大人しくさせようとした。
顔も含め、女の体には痣が増えていった。
女がだいぶ大人しくなったところで、俺は熱いものを体の中から発射して、女の体の中にぶち込んだ。
改めて女の顔を見る。
両頬に紫色の痣があり、鼻と口からは血が流れている。
涙が流れている目。そこからは絶望と悲しみ、恐怖、怒り、そして恨み等、様々な感情が入り混じっているように思える。
「……」
女は言葉を発しなかった。
だが、復讐する気マンマンであるように思えた。
「……ヤバイな」
このままだと警察に捕まって人生が終わるかもしれない。
――殺そう。上手くやれば隠し通せるかもしれない。
思いついた時にはすでに女の首を絞めつけていた。
女の顔色が少しずつ変わっていく。
女がぐったりと動かなくなると、女の下半身から悪臭が漂ってきた。
俺は女の死体を家に持ち帰った。
――どのようにして始末しようか。そうだ!
俺は牛刀を手にした。
死体をかっさばき、できるだけ細かくした。
肉片と化した死体を冷凍庫やクーラーボックスに入れて保存。
毎日取り出しては、塩と香辛料をかけて焼いて食べた。
可能な限り、死体のボリュームを減らしたかった。
だから、死体を食べることにした。
思いのほか美味かった。
やがて死体は骨と皮と体毛だけになった。
何枚にも断ち切った皮は、重ねて束にしてまとまった状態で保管してある。
もちろん、骨も体毛もひとまとめだ。
――ずいぶんとコンパクトになったな。よし!
俺は死体を新聞紙と布でくるんで庭に埋めた。
公然わいせつ罪で逮捕されたのがケチのつきはじめだった。
警官から犯行の動機を問われた時に「便所からいきなり何匹もの動物と女が現れ、そいつらに追い回された。排便した直後のことだったから、ズボンはおろか、パンツを穿く暇すらなかった」と答えたのだ。
警官達は最初、「ふざけるんじゃない! まじめに答えろ!」と腹を立てている様子だったが、俺が何度も「俺は本当のことを言っている。いたってまじめだ!」と答えると、警官達はこれ以上追及しなくなった。
代わりに俺ん家に家宅捜索が入ることになった。
――俺の言うことを本気で受け止めたのか!?
警察が何を考えているのか、俺には知る由がない。
だが、俺ん家に何かあると睨んでいることは確かだ。
――これはヤバイ。
予感は的中した。
庭から死体が見つかったのだ。それもあっさりと。
聞いたところによると、どうやら警察犬が「ここほれワンワン!」と言わんばかりに探し当てたらしい。
さらに悪いことに、家の中から髪の毛が見つかった。
DNA鑑定により、あの女のものだと判明した。
ますます悪いことに、ルミノール反応により、あの女の血痕も見つかってしまった。解体した時に飛び散ったやつだ。きちんと掃除したのに……
「どうして、こうも簡単に見つかるんだよ……」
俺は両手と
orzという有名なアスキーアートのように。
こうして俺は死体遺棄と強制性交殺人の罪で再逮捕された。
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