第29話 儀式への道すがら
「おはようございます、ビアンカ様」
「おはよう!ごめんね、朝早くから……」
「いえ、構いません!これが私の仕事なので。ビアンカ様のご用意ができることが嬉しいのです!」
まずは、体を清めますとお風呂に連れていかれる。
「お湯は、もぅはってあるから浸かるわね!」
ちゃぽんとお湯に浸かると、体を洗っていってくれる。薔薇の花びらを浮かせてくれているので、とてもいい匂いがする。
その匂いに包まれながらゆったりしていれば、ニーアが清めてくれる。
「今日は、肌のマッサージは、してはいけないのですよね?」
「そうね……帰ってきてから、お願いしてもいいかしら?」
「はい!でも、今日は、こちらに戻る予定はないのですよね?」
「そうね……今日は、城に泊まることになっているわ。晩餐とかいろいろあるのよ。ドレスは、セプトの部屋に用意されているらしいから、儀式が終わったら、そちらに向かうことになるわ!」
わかりましたと頷き、儀式用のドレスを用意してくれた。
真っ白な薄い布を縫ってあるだけの簡素なもの。本来なら、儀式の間のすぐ近くで着替えるのだが、私ははるか遠い鳥籠から向かうことになった。城の中ではあるが、今日は、馬車で移動するらしい。
清めたばかりで、城まで歩いて行くとなると……そこそこ遠いので汚れてしまうだろう。
「準備が整いましたか?」
部屋で待っていたのは、カインだ。今日は、儀式であるので、正装していた。
「カイン、その正装、素敵ね!近衛のかしら?」
「えぇ、そうです。ビアンカ様の護衛としてついて行きますので、どうぞよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
ペコリと頭を下げ、元に戻ると二人でクスクスと笑ってしまう。
それ程、多く一緒にいたわけではないが、カインからの信頼度のおかげかうまく付き合えている。
「それでは、聖女様、儀式へ向かいましょう!」
「その、聖女様っていうの辞めて欲しいわ……」
「わかっていますけど、慣れておいた方がいいですよ。これから、社交界へ出れば、否応なしに『聖女様』ともてはやされることになるでしょうから?」
「それなら、社交界にでないって、こともできるかしら?」
「無理だと思いますよ。セプト様の婚約者内定は、国内外に大きく知らしめてますからね……伝説の聖女との婚約だと」
「嘘っ!そんなに大々的に?」
「はい、で、ないと、公爵家が納得いかなかったようで」
私は、セプトに初めてあった日のことを思い出した。重い腰をあげ、せっかく公爵令嬢との婚約が決まりかけたときに、私が空から降ってきたそうだ。セプト以外、私に触れることができなかったから、婚約者が自動的に決まったと言っていたような……気がする。そのころ、セプトのことをよく思っておらず、あんまり、真面目に聞いてなかったので、もうおぼろげであった。
「鳥籠の外も静かでいいところよね……」
「何百年前の聖女様が、自然を好んだそうで、王宮のはずれに隠れ家的な聖女の家を作ったそうです。今ではすっかりその役目も違うものになっていましたが、本来の使い方に戻ってよかったです!」
私は振り返り、鳥籠を見た。生活が一通りできるよう何から何まで整っているこの屋敷は、かなり広い。
少しだけ歩いたところに馬車が停まっていたので、カインにエスコートされ馬車に乗る。ニーアも馬車に乗ることになっているので、乗り込んできた。
扉を閉め、出発!いざ、行きたくもない儀式のために、鳥籠から王宮へと出発した。
カタコトと馬車は走ること少し……
「緊張、なさってますか?」
「うぅん。緊張なんてしないよ!ただ……嫌だなって」
「この儀式さえ終わってしまえば、殿下の婚約者として、王族に連なるようになるのですよね?」
「そうね、でも、王族になりたいわけでは、ないんだけどね……あの鳥籠で、そっとしてもらって、のんびり過ごすのもいいわよね……って、私の我儘かな?」
「はい、全女性の憧れではあると思うので……王子様の妃になるのって」
「ニーアの夢を壊すようで申し訳ないけど……そんなにいいものではないわよ?常に見られているから、気を抜けないし、王子がダメなところは、やんわり窘めたりするとウザがられるし……」
「そうなのですね……でも、殿下とは、仲良さげにされているので、私は安心して後ろから見てられます」
ニーアにそんな風に見えているのかと思うと、私は苦笑いをしてしまう。
私は、車窓そ見ると近づいてくる王宮に懐かしさを覚えた。
「もうすぐ着きますよ!ビアンカ様」
「ありがとう、カイン」
「さっきの話、俺も仲良さそうだと思ってました。あんなふうに笑うセプト様は、知らないですからね!末永く仲良くしてあげてください!友人からのお願いです!」
「もぅ、私にあの面倒なのを押し付けないでよ!」
私が膨れ、カインとニーアが笑うと馬車が停まる。
「何を笑っているんだ?」
「あなたとの仲がいいって、二人にからかわれたのよ!」
馬車の扉を開けてくれたカインは、まだ、クスクスと笑っている。
セプトが馬車から下ろしてくれる。
トンっと降りると、見上げる王宮。手を翳し、太陽の反射から顔を隠した。
「そんなに薄いのか?」
「儀式用のこれ?」
「あぁ、肌が透けるようじゃないか?これを羽織っていけ。これから、回廊も歩くんだ。すれ違う文官どもに見せてやらなくてもいいだろう?」
着ていた正装用のジャケットを私の肩にかけてくれる。ほんわり、セプトの香水の匂いが鼻をくすぐってく。
急に近くにいるよう感じて、どきりとした。
「……ありがとう」
「いや、いいんだけど、顔赤くないか?」
「赤くないよ!セプトの目がおかしいんじゃない?」
私はジャケットに袖を通す。ぶかぶかのジャケットを着ると、セプトが、んって手を差し出してくる。その手を取り、歩き始める。
見慣れない私を王子であるセプトがエスコートし、後ろに正装したカインとニーアが続く。
王宮では、格好の噂の的となった。
それすら、今は、耳にはいれないように、ただ、まっすぐ前を見据える。
さぁ、儀式だ。
私は、この儀式を経て、セプトの正式な婚約者となる。
この先、何があっても、この手を離さないと誓うのかと思うと、不思議な気持ちになった。
2度目の儀式。
今度こそ、その誓いが、死を二人が別つまで果たされることを願うのであった。
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