第30話 いざ、儀式!
王宮の一番奥へと向かう。
そして、1番質素な扉の前に立った。
見覚えのあるような、王宮に私は少々気持ちが泡立つ。
「どうかしたのか?」
「いえ、既視感というのですかね……?私が知っているお城とよく似ているものですから……」
「そうか。なら、儀式が終わったら、後で散策をしよう。どうせ、俺の部屋に行ったら、着替えもあるんだし、晩餐に出るようにも言われてる。晩餐までには、時間もあることだし」
「えぇ、とにかく、今は儀式のことだけを考えますわ!」
ノックをして、ニーアが扉を開けてくれた。
ここから奥へと進めるのは、儀式を受ける私とセプトだけだ。
「ありがとう。ニーアたちは、ここで待っていて」
「はい、ビアンカ様、お気をつけください」
私は、苦笑いをして、付き添ってくれたカインとニーアと扉の前で別れた。
中に入ると、扉が閉まり、急に真っ暗になる。
「この儀式の部屋は、依然と変わっていないのね?」
「あぁ、そっか……2回目か」
「そうね、この陰湿な石で囲まれた廊下が、特に嫌だったのよね……」
「俺は、初めてだからな……暗いから、足元は大丈夫か?」
「蝋燭とかは、持って入らないの?」
「あぁ、ダメだって言われてる。何故かはわからんけど……」
「じゃあ、これなら……いいわよね!」
パチンと指を鳴らすと、小さな光の玉が現れた。光源をとるべく足元を照らすようにすると、よく見える。
「便利だな……蝋燭がダメな理由って、もしかしたら、魔力の関係だったのかもしれないな?」
「魔力の?」
「ビアンカがしたように、光があれば、転ぶこともないだろう?兄上たちも儀式に臨んだけど、令嬢がこけたりして泥だらけになったらしい。あまりにもみすぼらしかったり、転んだ血で儀式用のドレスを汚すことがあったら、儀式は取りやめになって、その令嬢は妃にはなれなかったんだ」
「それじゃあ、その女性はどうしたの?」
「側室として迎えられた。今じゃ、兄上の寵姫なんて呼ばれているけど……元々、王妃に1番近い女性だったんだ。内心では悔しいんじゃないかな?」
「そんなことで、妃になれないだなんて……可哀想ね。あっ、ついたみたい!あの扉の先が、儀式の間よ!」
エスコートされていた手に力が入る。私よりも、セプトの方が緊張しているようで、クスっと笑った。
「調べられるのは私よ?セプトが、心配することってないんじゃない?」
「いや、ビアンカが妃になってくれないと困る」
「どうして?」
「……それは、儀式が終わったら話そう。行こうか」
「えぇ。その前に、これ、返しておくわ!儀式には、着ていちゃダメなのよ」
借りていたセプトのジャケットを返す。お互いに身だしなみを整え、確認し頷きあう。
扉を開くと、目の前には、両陛下と侍医が、私たちが入ってくるのを待っていた。私はその場で、淑女の礼を取ると、ほぅっと陛下が声を漏らす。
「第三王子セプトとその婚約者候補ビアンカ・レートを連れてまいりました。儀式を始めてください」
セプトが始まりの言葉を言うと、王妃から私に身に纏っているものを脱ぐよう指示をされる。ここには、侍女も入れないので、自分で脱ぐしかないのだが、幸いなことに、一枚しか来ていないのですぐに脱ぐことができた。
「では、こちらに……」
侍医が呼ぶところへ行くと水槽がある。小さい頃は、この水槽がとても大きなものに見えたが、今見るとそうでもないなと思える。これから、この中に浸かるのだが、水槽の中の水は、魔力の通った聖水だった。
やっぱり、これに浸かるのね……
変わらない儀式にうんざりしながら、侍医に言われるがまま、水槽に入る。
もちろん、中は水だ。冷たいので、こっそり、お湯にしてしまった。
ここで、聖水の色が変われば……妃になれない。浸かってちゃぷちゃぷして、水槽に潜った。
全身を浸けないといけないのだ。
水槽の中で豪奢な金髪が、ゆらゆらとたゆたう。
「ビアンカは、儀式のことを知っておるのか?」
陛下がセプトに問いかける声が聞こえてきた。予め何かを聞かれた場合の話もセプトとはしておいた。
「もし、儀式のことを聞かれたら、素直に答えていいわ。元王子の婚約者だったと」
「いいのか?」
「えぇ、もちろん。この儀式の本当の意味までは、今の王室には伝わっていないでしょ?」
「この儀式に意味があるのか?」
「えぇ、あるわ!聖水の色が変わらなければ妃になれ、何種類かの色ならば、側室なら許されるみたいな感じで、伝わっているのではないかしら?」
「確かに……」
「無色は、誰とも閨を共にしていない。青は、王子と共にした。黄色は、王子以外の誰かと。赤は複数の誰かとって感じね」
「そんなことまでわかるのか?あれって、聖水だったよな?儀式のたびに、一回一回捨てるのか?」
「えぇ、そうよ!水槽があるんだけど、それが魔道具なの」
セプトに話しておいてよかった。使い方を知らないと、結局、何のための儀式かわからない。
打ち合わせ通り、水槽の前にセプトがくる。
「セプト、何故そこに?」
「これは、王子と婚約者候補がこのようにすれば……すぐにわかるらしいので。あまり長く、ビアンカを晒したくはありませんから」
セプトが水槽に手を翳す。私も同じ場所に手をあてがった。
水槽自体が、発光し小刻みに揺れ、やがてヒビが入る。
そこからは早い。粉々になる水槽。零れだす聖水。その中から、私は出た。
「ぎ……儀式用の魔道具が!」
粉々になった水槽に、目を白黒させた両陛下と侍医。
落ち着き払ったセプトは、中にいた私を抱きかかえ外に出し、そっと着ていた上着をかけてくれた。
「砕けてしまいました……どうしたら……」
へたり込む侍医の肩を叩いた。
「心配しなくても、水槽も聖水も元に戻りますよ?」
「へっ?」
「ほら、下から少しずつかけらが集まってきていますでしょ?」
そういうと、両陛下と侍医はじっくり観察していた。私は脇に寄せられ、タオルで体を拭き取る。
「今なら、魔法を使ってもいいかな?」
「あぁ、いいぞ!誰も見ていない」
風と火の魔法を同時に使い、体を一瞬のうちに乾かす。
着てきた儀式用のドレスを着て、その上からセプトのジャケットを羽織った。
「陛下、儀式は終わりましたので、ビアンカと共に下がります」
「あ、あぁ、もう良い。聖女よ、すまなかったな。嫌がっていたと聞いていたのに」
「いいえ、滅相もございません。もう終わりましたので……これにて、失礼致します」
「あぁ、また、晩餐のときに……」
伝説の聖女は、儀式を終え、セプトの名実ともに婚約者となった。
後日、城中だけでなく、国民にも聖女の存在を発表し、王室への期待が膨らんだ。
それと同時に、第一王子が王太子にという流れから、第三王子に王太子をという声が大きくなった。
伝説の聖女が婚約者となった今、セプトへの期待も大きくなったようだった。
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