【番外編:弟嫁語り -ルイハトモヲヨブ-(前編)】※R-15注意

-1-


 よっ、久しぶり! 忙しいところ、わざわざ呼びだしてスマン。

 だが、こんな事、お前くらいにしか相談できんからな。

 礼代わりに、ここの支払いは俺が持つから、何でも好きなモノ注文してくれ。


 さて、話を始める前一応、最初に言わせてくれ。


 「俺は、断じてホモでもショタでもない!」


 ──ないと思う。


 ──ないんじゃない、かな?



 三段活用的に自信がなくなっていくのには理由があって、近頃、気になってる(恋愛的な意味で)相手が、その──なんだ。


 あ! おいおい、顔色を変えて席を立つなって! 勘違いするなよ、お前が対象なワケないだろう。

 フゥ~、だが、幼馴染のお前が満更知らない相手でもないんだよ、コレが。


 あ、思い当たるフシがあるって顔してるな。うん、たぶん、ソレ正解。

 そう──よりにもよって、俺の大事な大事な弟の由理(よしのり)に、こんな感情を抱くようになっちまったんだよ!


 あれ? 何だ、お前、全然驚いてないな。むしろ「いまさらかよ」って言いたそうな顔して──え、「まさにそう言うつもりだった」って?


 なんでだよ!

 そりゃあ、4年前、高校入った直後にウチの両親が事故で亡くなって以来、俺はあいつと二人、兄弟肩を寄せ合って暮らしてきたさ。そのなかで、俺が由理にやや過保護気味に大事にしてたことも、まぁ、認める。


 そして、由理が、まだ中学3年生だってのに、掃除やら洗濯やら家の中のことを、高卒で働いてる俺に代わってキッチリやってくれる、とてもいい子だってのも、コトあるごとに吹聴してたさ。


 だから、ブラコンの汚名はあえて受け入れよう。

 けど! それはあくまで、弟に対する兄としての愛情だよ!!


 そうだよ、そのはずなのに……あの日以来、俺の脳裡に“あの光景”が焼きついて離れないんだ!

 え? 「あの光景って何か」って?


 ──ふぅ~。仕方ない。呼びだして相談に乗ってもらってる手前、言わないワケにはいかんだろうしな。

 て言うか、大体お前にも責任の一端はあるんだぞ!


 何、面食らった顔してるんだよ。

 ほら、2年ほど前、俺がお前に相談したことがあっただろ。

 由理のヤツが──その、母親の服を着て密かに女装してるみたいだ、って。


 その時、お前は「まぁ、早くに母親を亡くして、家庭内に女性的な要素が乏しいぶん、それらを持ち出して代償行為で心の隙間を埋めてるんだろう。下手に騒ぎたてず、ソッとしといてやれ」って、アドバイスくれただろう。


 だから、俺も「そーゆうモンか」と納得して、見て見ぬフリを決め込んできた。


 小学校卒業して以来、由理が髪の毛を伸ばしてるのにも、男女兼用っぽい──というか、明らかに女の子寄りの私服を買ってくるのにも、最近家ではコッソリ女物の下着を着てるらしいことにも、あえて何も言わなかったさ。


 最初は驚いたけど、近頃は「まぁ、似合ってるからいいか」と海のように広い気持ちでスルーできるようになってたし。


 ん? 何呆れた顔してんだ? 「極論過ぎ」? 「限度ってものがある」?


 ──まぁ、そう言われると、俺としても、ちょっと放任し過ぎたような気がしないでもない。


 と、ともかく! 最近では弟というより妹に近い感覚を由理に対して抱くようにはなってたけど、それだってあくまで“兄”としての感情だったんだよ!


 なのに……クソッ! 

 どうして、俺はあの夜、目を醒まして水を飲みに部屋を出ちまったんだ!


 ああ、お察しの通りさ。

 あの晩、すでに寝てるだろう由理を起こさないように、忍び足で廊下を歩いていた俺は、由理の部屋から声が漏れてることに気付いちまったんだ。


 もしかして、由理は悪い夢でも見てうなされてるのか!? 

 そう思って、様子をうかがった俺のコトを誰も責められないだろ。

 けど、部屋の中では……。


  * * * 


 しばらく見ないうちに由理の部屋は、パステルピンクの壁紙やカーテンでコーディネートされ、キャラクター物のクッションやぬいぐるみなども複数置かれた、まるっきり“年頃の女の子の部屋”そのものになっていた。


 本棚に並べられた少女向け小説や少女マンガ、あるいはマガジンラックに綺麗にまとめられたティーン向けのファッション誌、さらに亡き母の寝室から移動させたらしい姿見などが、その雰囲気を助長している。


 「ふぁン……お、お兄ちゃぁん!」


 そして、その部屋の西側の隅、清潔そうな水色のシーツがかかったベッドの上で、寝間着姿の可憐な少女が、写真立てを手に想い人の名を呼びつつ、“ひとり遊び”に励んでいた。


 ──いや、「少女」ではない。


 背の半ばまで覆う綺麗な黒髪や華奢な手足、日焼けとは無縁そうな白い肌、何より校内美少女コンテストを開けばTOP10に入ること間違いなしの愛らしくも儚げな容貌の持ち主ではあったものの、ある部位が、誰が見ても美少女と言うであろう人物の性別を物語っていた。


 うっすらと透ける素材でできた薄桃色のベビードールからのぞく細い肩も、白いニーハイソックスに覆われた形の良い太腿も、それに続くムッチリしたヒップと対照的にキュッと締まったウェストも、すべてが“彼女”の性別を“思春期の少女”だと告げているのに。


 ただ1点、白と水色のストライプのショーツに覆われた“彼女”の股間の不自然な盛り上がりだけが、“彼女”が本当は“彼”であるという残酷な事実を証明していた。


 「好きィ……好きなのぉ~」


 けれど、その事実を誰よりも如実に知りながら、青年──“彼女”の兄であり、たった今、くるおしげに名を呼ばれた男性は、ドアの隙間から覗き見るその光景から目を離せなかった。


 「くふぅン……切ないよぉ~」


 今にも口づけんばかりに写真立て(おそらく青年の姿が写ったもの)に顔を近づけつつ、左手で自らの体の数少ない──ひょっとしたら唯一とも言ってよいかもしれない男性的な部位を、ショーツ越しにもどかしげに刺激するその姿は、とてつもなく淫らで……同時に真摯なものを感じさせる。


 青年は、我知らず唾を飲み込みながら、その光景から目が離せなくなっていた。


 恋人を作る暇も、風俗店に通う金もなく、20歳前の若い性欲をもてあましているとは言え、どちらかと言うと青年は性的な欲求に淡白な方であった。


 しかし、今、自らの名前を呼ぶ“少女”(困ったコトに、本来の性別を知っているにも関わらず、そうとしか思えないのだ)が、自慰に没頭する姿は、これまでに悪友らに見せられた、どんなエロ本やアダルトビデオの類いよりも、青年の欲望を強く揺さぶった。


 ──このまま此処で見ていたら、自分は取り返しのつかない行為(こと)をしてしまうのではないか?


 その懸念と躊躇いに押されて、何とか視線を部屋の中からもぎ離した青年は、当初の「水を飲む」という目的も果たさず自らの寝室にとって返し、ベッドに入って、すべてを忘れようとキツく目を閉じた。


 ──無論、それは無駄な努力であり、悶々とした挙句、ようやく陥ちたその夜の夢の中で、青年は、“少女”の身体を思うままに貪り蹂躙することになるのだが。



-2-


 「──ヒィック!」


 お~、すまんスマン。ちょっと急ピッチで飲み過ぎたな。

 いやぁ、なんつーか、「酒! 飲まずにはいられないッ!!」て気分だったもんで。


 え? 「その翌日はどうなったのか」?

 ──あ~、そうだな。ここまで相談に乗ってもらった以上、キッチリ話しておくべきだよな。


  * * * 


 妹──もとい、弟である由理の"痴態"を目撃した夜の翌朝、当然のことながら兄である青年、安藤浩之は、睡眠不足の冴えない頭で目を覚ますハメになった。


 “あんな夢”を見たため、朝起きた時、慌てて布団をめくってみたところ、幸いにして“液漏れ”はしていなかったのが救いだろう。

 これで、万が一、パンツの中がガビガビになっていたりしたら、ヘソを噛んで死にたい気分になったに違いない。


 「おはよ、お兄ちゃん♪」


 ボーッとした頭のまま、パジャマ姿で台所へと移動した浩之は、こちらはビックリする程清々しい雰囲気の(まぁ、理由は見当がつくが)由理の笑顔に迎えられた。


 数年前から安藤家の台所(というか家事全般)を掌握している由理は、今朝も朝食の準備をしていてくれたらしい。


 「お、おぅ、おはよう、由理。今日も早いな。日曜日くらいゆっくり寝てればいいのに」


 ザックリとした白いセーターと、最近はもはや隠すこともなくなったスカート姿(今日はふくらはぎ丈のライトグレーの三段ティアードスカート)の上から、フリル満載のエプロンを着け、おたまを手にしたたその姿は、まさに“幼な妻”という形容がふさわしい。


 艶やかなストレートロングの黒髪をきれいに梳かし、家事の邪魔にならないよう首の後ろでエプロンと同じ色合いのリボンで結んでいるのも、清楚で非常に似合っていた。


 「うん。でも、お兄ちゃんには、あったかい手料理を食べて欲しいから」


 嗚呼、なんと健気なコなのだろう!

 これが本当に“妹”ならば、「今時珍しいほど、よくできた娘に育って、兄貴、感激!」で済む話なのだが、このプリティーガールの生物学的性別が♂であることが、浩之の心中に戸惑いと躊躇いと言い知れぬ感情を引き起こしてしまうのだ。


 それでも、その頑張りを褒めてやりたくて、浩之は何とか言葉を探す。


 「ああ、いつもありがとう──由理は将来いいお嫁さんになりそうだな」


 口に出したときは違和感がなかったものの、次の瞬間、盛大な後悔に苛まれる。


 (何、バカなこと言ってるんだ俺は!)


 常識的に考えれば、男のコである由理が「お嫁さん」になる可能性なぞ、0に等しいはずなのだ。


 しかし……。


 「え、ホント!? 本当に、そう思う、お兄ちゃん?」 


 思いがけないほど真剣な目で由理にその言葉に食いつかれては、浩之としても「さっきのはちょっとしたジョークだ」と流すことができなくなる。


 「あ、うん、まぁ、少なくとも、俺はそう思うぞ」


 仕方なく、「あくまで一般的な評価ではなく、個人的な印象だよー」という方向に軌道修正して、何とかこの場をやり過ごそうとしたのだが──この場に限って言えば、コレはトンデモない悪手だった。


 「お兄ちゃん……うれしぃよぉ(うるうる)」


 いや、むしろクリティカル過ぎたと言うべきか。頬を赤らめ、情熱的な潤んだ目で極上の“美少女”に見つめられては、昨晩のこともあって、浩之も平静を装いきれない。


 「あー、その、なんだ。きょ、今日の午後は何か予定があるか、由理?」


 こういう場面に慣れていない悲しさで、とにかく新たな話題で、浩之は気まずい場面を乗り切ろうとする。


 「え? あ、うん。お洗濯して、お庭とか玄関とかのお掃除したら、とくに何もないけど……」


 唐突な話題転換に戸惑ったのか、「いや~んな雰囲気」が霧散する由理。


 「だったら、久しぶりにふたりで出かけてみないか? 名波町にできたテーマパークの無料券を、会社の先輩にもらったんだが」

 「! いくッ、行きたい!!」


 無邪気な笑顔になる由理を見て、浩之は「ああ、やっぱり、まだまだ子供だよな」とほのぼのした気分になった。


 「よーし、じゃあ11時に出発だ。早く終わるように、掃除は俺も手伝うぞ」

 「うん、それじゃあ、お兄ちゃんにはお風呂掃除、頼んでいい?」

 「よしきた、任しとけ。ピカピカにしてやる」


 おどけて腕まくりしつつ、内心「ウンウン、これが正しい、兄弟の休日の過ごし方だよな」と満足げに頷く浩之だったが……。


 「ルンルンルン♪ おにーちゃんとおーでかけ、ゆーえんちデ~ト♪」


 うれしそうに鼻歌を歌いながら、洗い物を始めた由理を見て愕然とする。


 (し、しまった──もしかして、俺、墓穴を掘った?)


 無論、シスコンもといブラコンな浩之に、「おでかけ」を中止するという選択肢は思いついても選べないのだった。


  * * * 


 ん? ああ、もちろん、その日はふたりで有栖川ファンシーランドに行ったぞ。

 あんなに楽しみにしてる由理の期待を裏切るわけにはいかんだろーが。


 外出時の由理の服装か? うーん、確か水色のブラウスに白いアンゴラのカーディガンを羽織って、ボトムはちょっとアイドルグループっぽい赤いチェックのミニスカート、だったかな? 


 足には薄手の黒いストッキングを履いて、靴はスエードのロングブーツだったな。結構ヒールがあるのに綺麗な足取りで歩いてるから、ちょっと感心した覚えがある。


 髪型は、いつもみたく下ろして自然に流しつつ、前髪には白いレース飾りのあるカチューシャをはめてたな。由理のキューティクルつやつやの黒髪との対比で、よく似合ってたぞ。


 いまにして思えば、うっすらとだけど化粧もしてたのかもな。唇がいつもより鮮やかな桜色だった気がするし。


 え? 「なんでそんな細かいトコロまで気が付いたのか」?

 そりゃ、お前──えーと、なんでだろう。


 い、いや違うぞ! 断じて「唇柔らかそーだなー」とか「アレにキスしたらどんな感触なんだろーなぁ」とか思って、凝視してたワケじゃないんだからな!


 「コイツ、もう手遅れでは?」みたいな視線で見るんぢゃねぇ!!



-3-


 ああ、ファンシーランドに行ったあとの話か?

 そりゃ、お前、フツーにデートしたに決まってるだろ。

 「デートの相手が弟という時点で普通じゃない」? ご、ごもっとも。


 そ、それはともかく!

 まぁ、なんだ。その名の通りどれもリリカル&メルヘンチックにデコレーションされた乗り物──ジェットコースターだのメリーゴーランドだのコーヒーカップだの観覧車だりのに、ふたりでいろいろ乗ったことは確かだな。


 え? お化け屋敷か? 一応入ったぞ。もっとも、由理が恐がって、ずっと俺にしがみついたままだったから、アイツの身体の体温とかいい匂いだとかに気を取られて、俺は恐怖を感じる余地もなかったんだけどな。


 あとは──お互いのクレープをひと口ずつかじったり、トリプル盛りにしたアイスをつまづきかけて落っことした由理に、俺の分を食べさせてやったりしたのも、兄妹、もとい兄弟ならではのお約束だよな。


 「──どう見てもバカップルです、本当にありがとうございました」?

 な……それくらい、仲の良い兄弟なら普通にやるだろ!?


 「それで、遊園地から帰った日の夜は!?」って? いや、別に何もなかったゾ──なに、も……。


  * * * 


 「ふぅ~、まいったなぁ」


 午後10時過ぎ。居間のこたつで、(二十歳の誕生日はまだ2ヵ月程先なのに)貰い物のウィスキーをチビチビとロックで飲みながら、浩之は、今日の由理との“デート”でのことを思い出し、深い溜め息をついた。


 楽しくなかったワケではない。むしろ、逆だ。今まで、どんな友人(女友達含む)と行ったどんな場所よりも楽しかったのだ。


 それだけではない。

 今日一日、由理のことを考えなかった時間はほぼないと言っていいくらい、彼の関心は“彼女”へと向かっていた。


 (あ~、認めたくはないが、認めざるを得ないか……)


 自分が、妹みたいな弟に夢中であることを──恋愛的な意味も含めて。


 「どーしたもんかねぇ」


 幸か不幸か、昨夜の秘め事を見る限りでは、“両想い”といっても良さそうだが……。


 しかし、ココで自分からそんな茨の道へ踏み込んでよいものだろうか? 由理のことを思えば、自分の気持ちをグッと堪えて、まともな道に引き戻してやるべきではないか?


 なにせ、相手は、“血を分けた肉親”かつ“同性”なのだ。せめてどちらかなら、彼も躊躇いを振りきれただろうが、そうするには流石に業が深すぎた。


 「──ま、ココでうだうだ悩んでても、答えは出ねぇよな」


 思い切って由理と腹を割って話しあってみるべきかと、グラスに残った酒を一気に飲み干して立ち上がる浩之。

 思い立ったが吉日と、その足で2階に上がり、弟の部屋を訪ねる。アルコールのせいか、普段より少々短絡的になっているようだが。


 「おーい、由理ぃ、ちょっと話したい、ことが……」


 一度あることは二度あるとはよく言ったもので、彼の最愛の偽妹おとうとは、パールピンクのブラ&ショーツに太腿までの黒ストッキンクのみというあられもない格好で、ベッドの上にいた。


 「──ふぇ? お、にぃ、ちゃん?」


 しかも、左手で自らの右の乳首を摘みつつ、右手をショーツの中、それも陰茎ではなく明らかにもっと後ろ、具体的にはお尻の方へ忍び込ませ、“どこか”を弄って快感を得ているようで、トロンと蕩けた目で呆けたように、兄の顔を見返す。


──プツン!


 あまりに唐突に度を超えて扇情的な場面に遭遇すると、人間、驚くとか慌てる以前に、自制心のタガとか枷とか言われるものが見事に破壊されるということを、浩之は己が身を持って知ることになる。


 「由理ぃ!!」


 由理が事情を完全に把握する前に、伝説のルパンダイブもかくやというすさまじい勢いで、浩之はドアから一足飛びにベッドの前に移動して、そのままの偽妹おとうとの華奢な肢体を抱きしめ、唇を奪う。


 「ふぐッ! ……んん♪」


 最初こそ目を見開いて身体を強張らせていたものの、すぐに目の前にいるのが兄の浩之であることに気付いたのか、途中からは“彼女”も積極的に唇を押しつけてくる。

 

 「──ッはぁ……」


 やがて、ふたり唇が一時離れ、唾液な糸が由理の口元から垂れ下がった。


 「ん……おにぃちゃんのつば……」


 それすらこぼすのがもったいないとでも言うように、赤い舌ペロリと唇を舐める様子を見て、浩之は我に返った。

 

 「ご、こめん、由理! だが、あんまりお前かが可愛過ぎて、つい……って、言い訳だな、こりゃ。本当にすまなかった。許してくれ」

 「ううん、大丈夫だよお……だって……ボクもお兄ちゃんのことが……大好きだから」


 !


 立ち聞きなどで知ってはいたが、面と向かって言われると破壊力が段違いだ。


 「ああ、俺も、由理が好きだよ」


 浩之は由理を抱きしめる。小さくて可愛い、妹そのものな弟を。


 「なぁ、由理よしのり……いや、ユリ」


 弟であるはずの「少女」を、幼い頃に冗談交じりに使っていた愛称で呼ぶのは、彼なりの気遣いだ。


 「また、その名前で呼んでくれるんだね♪ なぁに、お兄ちゃん?」


 嬉しそうな“彼女”の笑顔を見て、それが正解であることを浩之は確信する。


 「──俺の恋人になりたいか?」

 「う、うんっ。なりたい……なりたいよ!」


 愛しい人のその返事を聞いて、浩之の覚悟が決まった。


 「よし。じゃあ……恋人同士でする気持ちいいこと、しような」


 浩之は、右手を下着姿の由理のお腹から下腹部、さらに両腿の間へと滑らせた。

 そのまま、前面の盛り上がりにかすめるようにして、薄桃色のショーツを引き下ろす。


 「きゃん!」

 「おお、すごいな、ユリ。お前のココ、まるで女の子のアソコみたいにビショビショに濡れてるぞ」


 思わず、そんな言葉が口をついて出る。


 「お、お兄ちゃん──恥ずかしいよぅ」

 「あ、あぁ、悪い。ちょっとがっつき過ぎたな」


 慌てて手を緩める。


 「あはっ、でも、ボク嬉しい。お兄ちゃん、ホントにボクのこと、求めてくれてるんだ」


 どんなに女の子の格好をしても、自分は本物の女の子じゃないから──由理が面と向かって浩之に想いを打ち明けなかった理由も、まさにそこにあった。


 もし、“彼女”が本物の妹だったなら、血のつながりも気にすることなく、早々に兄のベッドに夜這いを仕掛けていたに違いない。


 しかし、“彼女”は生物的には紛れもなく♂で、また、兄の性的嗜好が極めてノーマルなものであることも重々承知していた。故にその想いを胸に秘め(まぁ、時々自慰などで発散はしていたが)、一生打ち明けることはないと思っていたのだ。


 それなのに、今こうして男の徴を前にしても、兄は怯むことなく自分のことを「ユリ」と呼び、オンナノコとして愛してくれている。


 「当り前だろ」


 浩之は屹立している自らの“分身”を、スラックスの上からそっと由理に触れさせる。


 「きゃっ! お、お兄ちゃんのココ……カチカチになってるぅ♪」


 悲鳴とは裏腹に、由理の目には嬉しそうな光が踊っていた。


……

…………

………………


 「早速感じているんだな、ユリ。いやらしい子だ♪」


 「ああっ、ダメ、見ないで……お兄ちゃん、ボクのソコ、見ないでぇ!」


 「だいじょうぶ、大事な大事なユリを嫌いになったりしないよ。いつもの礼儀正しくて甲斐甲斐しいユリも大好きだけど──俺の腕の中では、エッチでいやらしい、雌猫みたいなコでいていいんだ。だって、ユリは俺の恋人だろう?」


 「い、いーの? ホントにいいの? ボクいやらしいコになっちゃうけど、愛してくれる?」


 「ああ、もちろん──だから、安心して、ふたりでイキまくろうな、ユリ」


 愛する偽妹(おとうと)を、最愛の恋人(おんな)として、

 思いっきり抱きしめ、犯し、貪り、感じさせる悦び。


 ──ああ、それは、なんたる最高の悦楽か!


 「あっ……熱ぅい……お兄ちゃんのが……あぁぁぁ、ボクぅ……ボクぅ………こんなことされたら、に、妊娠しちゃうよおおっ♪」


  * * * 


 あ、いや、な、なんでもないぞ。

 「顔色が悪い」? 「どこか具合でも悪いのか」って?

 あ~、うん、まぁ、何と言うか、ちょっとな。


(やべぇ。道理で、あの翌日から、由理が上機嫌かつ、俺にベタベタ甘えてくるはずだ。

 いくら多少酔ってたとは言え、どーして今の今まで忘れてたんだ、俺?

 いや、酔いつぶれた挙句の夢オチという線も……)


 え? 「此処の払いはいいから、早く帰って寝ろ」?

 ──すまん、恩に着る。この埋め合わせは必ずするから!

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