【エピローグ/そして2年の月日が流れ】 ※R-15注意

 ──ちょっとした好奇心による、イトコ同士の立場入れ替えから、2年程の歳月が流れた。


 「はぁ、まだまだアッちぃなぁ……」


 地元の公立中学に進学した浅倉要は、今年2年生になり、サッカー部のレギュラーとして先輩同輩後輩を問わず頼りにされている──のだが、今日は珍しく練習がオフと言うことで、自宅の居間でデロ~ンとだらしなくダレていた。


 家の中でこそ、このように見る影もないが、いったんフィールドに出れば、センターバックでありながら攻撃にも参加するリベロとして、試合の流れをアグレッシブルにコントロールする彼のプレイぶりは、少なからずサッカー関係者の注目を集めている。


 整ったマスクと、それに反してざっくばらんな性格は、女性の人気も高く、公式大会ともなれば、同じ中学以外の女子が応援に駆けつけることすらあった。


 もっとも、当の要本人は中学入学時に同じクラスになり、またサッカー部にマネージャーとして入部した海老名咲奈との関係で手いっぱいなようだ。

 ふたりは長らく「ケンカ友達以上恋人未満」な関係を続けていたが、夏休みの合宿の際、ようやく互いの想いを伝えて、晴れて恋人同士になっていた。


 とはいえ、つきあい始めてひと月と経っていないため、セックスどころかキスさえまだ告白時の1回だけしかしていない。

 そうなると、なまじ恋人がいるだけに悶々として、自室で暇ができるとついアソコに手が伸びてしまうのも、中学生というヤりたい盛りの男の子なら無理もないトコロではあった。

 ──純粋に生理学的に考えれば、“彼”にその傾向が当てはまるのかは少なからず疑問ではあったが。


 ここにいる少年・浅倉要は、実はカナメ──つまり、本来は「早川美幸」と呼ばれていた少女にほかならないのだから。


 そう、結局カナメとミユキのふたりは、元に戻らなかったのだ。


 最初の何回か──例の敬老の日や、その次の年末年始などは、戻る予定を立てていたのだが、その度に何らかの用事やトラブルが重なり、気が付けばいつの間にか一年が過ぎていた。

 その頃になると、どちらからともなく元に戻る事に関する話題を避けるようになる。


 さらに翌年(つまり今年)の正月に、“彼女”が艶やかな振袖姿で、年始の挨拶に来た浅倉家の面々を出迎えた時、カナメは「ああ、ミユキねぇも、このまま生きていくことを受け入れたんだ」とハッキリ悟った。

 無論、“彼”はすでにだいぶ前からそのつもりだった。なにせ約束の日の不都合の半分は、彼自身が仕組んだ意図的なモノだったのだから。


 そして、ふたりが互いの立場を完全に受け入れたのち、あの不思議な絵──「鳥魚相換図」はいつの間にか美幸の自宅の机から姿を消していたのだ。まるでそんなモノは始めからなかったかのように。


 しかしながら、今の“彼”を見た人間は、カナメが女であった──否、今でも性染色体的には一応XXで♀に分類されるとは、およそ信じないに違いない。


 2年前の夏には150センチ代半ばしかなかった身長は、この2年間で10センチ以上伸びて165センチを上回り、まだまだ成長する気配が濃厚なのだ。

 日頃のサッカーの練習で鍛えられた体は、しっかりした骨格が形成されたうえで引き締まった筋肉に覆われ、やや細身ながら周囲の男子の平均を軽く上回る筋力や持久力、敏捷性を示しており、女性の体格とはまるで別物だった。


 さらに言えば、元々かなり貧乳気味だった胸部の膨らみは今や完全に消え失せ、しなやかな筋肉に覆われている。手も節くれだって大きいし、靴のサイズも26センチと身長に比してやや大きめだ。髪も部の方針で短めのスポーツ刈りに揃えている。


 どこからどう見ても、「将来イケメンの素質のある、やんちゃなスポーツ少年」といった風情だった。


 そして……。


 「お、そう言やぁ、そろそろテレビ中継が始まる頃かな?」


 思い出したようにテレビを付けると、都内の体育館で行われている高校女子の新体操の全国大会中継が、ちょうど始まったトコロのようだ。


 「かぁーーーっ、やっぱり高校生にもなると発育いいねぇ。クラスの女子なんかコレに比べりゃあ、まだまだお子様だぜ」


 何やらオジンくさい評を述べつつ、身体の線もあらわなレオタードを着て躍動する“年上”の少女達の肢体に鼻の下を伸ばすカナメ。

 2年前からその傾向はあったものの、今や完全に“健全なる男子中学生”としてのスケベ心を備えているようだ。


 「お、そろそろミユキねぇの番か」


 彼の言葉通り、テレビが次に映し出した可憐な少女の画面下のテロップには「東京都・早川美幸」の文字が表示されている。


 無論、言うまでもなく、“彼女”はミユキ、すなわち本来は浅倉要として生きていた少年である──だが、カナメ少年と同様、彼女の性別が♂であるなどと疑う人間は皆無に違いない。


 ミユキは元は12歳なのだから現在14歳、つまり本来は伸び盛りのはずなのに、いまだ160センチにも届いていない。おそらく157、8センチといったところだろう。


 また、骨格も華奢なままで、そのせいか筋肉や脂肪のつき方もきわめて女らしく優美だし、舞台用の化粧をしていると思しき顔立ちも、新聞で「遅咲きの桜姫」と評されるにふさわしい美少女ぶりだ。


 そして、最大の謎はその胸部だ。

 決して巨乳という程ではないが、歳相応に女らしい膨らみ──乳房がその胸で揺れている。桃色のレオタードの襟元から、綺麗な谷間が見えているのでパッドやヌーブラというワケでもないだろう。


 股間にも、男性の徴による膨らみは一切見当たらない。例の絵図による幻覚(あるいは認識阻害)は同じ当事者であるカナメには効かないはずだから、見たままミユキが女の身体に(少なくとも一見してわからないレベルで)なっていると考えるしかなかった。


 「やべッ、勃ってきちゃったよ……」


 そんな風に、“従姉”の股間や胸、あるいは太腿、うなじ、ふくらはぎなどなどを凝視していたせいか、カナメの股間が“元気”になってしまったようだ。


 両親とも姪っ子(=ミユキ)の応援に出かけて、家人の目がないのをいいコトに、カナメはソファに腰掛けたまま、ペロンとショートパンツをトランクスごと引き下ろした。


 カナメの股間では、濃いピンク色の突起物がピンと立ち上がってその存在を主張していた。

 大きさは親指よりふた回りほど大きいくらいだろうか。勃起してコレなら男性器としては短小な部類に入るが、実はコレ、元は美幸であったカナメの陰核だと知れば、異様なサイズに肥大化していることがわかるだろう。


 あの夏の日、そこ(本人いわく「オレのチ●チン」)を刺激してイクことを覚えて以来、カナメはそれによる“男としての自慰”の虜になっていた。

 女性の特有の器官には一切触らず、もちろん胸も刺激せずに、ただひたすらにソレをしごいて達することによる鋭く尖った男性的快感は、カナメの心身に、奇妙に倒錯した充足感をもたらしていた。

 思えば、その頃からかもしれない。カナメの身体が、男性的に変化し始めたのは。


 (男性ホルモンがドバーッと出るようになったのかねぇ)


 ま、理屈はどうでもいいけど──と頭の片隅で思いつつ、“従姉”も含めた先ほどテレビで見た新体操選手達の裸を脳裏に思い描いて、慣れた手つきで股間を刺激するカナメ。


 とくに元の自分の立場になり変わっているミユキのコトを考えると、異様なくらい興奮するのだ。


 (い、今なら、オレがミユキねぇに挿入して犯しちゃうコトもできるんだ──元は男の子だった美少女を、元女のオレが……!)


 そう考えただけで、背筋がゾクゾクしてたまらない。カナメの興奮は急速に高まり、ついに絶頂に達した。


 すっかりなじんだ、股間から透明な液体が勢いよく噴き出す感覚。

 しかし、どういうワケか今日はいつもと少し違ったように感じた。

 単なる液体があふれ出すのではなく、まるで水鉄砲から水を発射するかのような……。


 けだるい余韻に浸りながら、自らの股間に視線を落としたカナメは、そこにある異常を認めて「あっ!」と声をあげた。


 「はは、そう……そうなんだ」

 (もしかして、ミユキねぇにも、同じコトが?)


 そんな風に想像すると、またカナメの“チ●チン”が元気になってきた。


 コレで自分も近い将来、躊躇いなく恋人相手に童貞を捨てることができそうだ──なんて考えていたカナメだったが。


──ピンポーン!


 「やっほー! 愛しのサクナちゃんが遊びに来てあげたわよ~!」


 玄関チャイムの音ともに、インターホンから、その恋人の声が聞こえてきたので思わずソファからズリ落ちる。


 「わぁ! さ、咲奈か!?」

 「??? 何慌ててんの?」

 「な、何でもないなんでもない! ちょっと待て。今部屋片付けてから行くから」


 さすがにオ●ニーしていた直後の姿を、恋人とはいえまだ深い仲になってない女の子に晒すのは気まずい。

 周囲に散らばるティッシュその他をアタフタと片付け始めるカナメだった。


 * * * 


 「……」


 演技が終わり、半ばトレードマークになっている薄いピンク色のレオタード(だから「桜姫」なのだ)の上に、学校指定のジャージを羽織ったミユキが、ブルッとその身を震わせる。


 「ん? どしたの、みゆみゆ?」

 「──なんか、誰かがイヤラしい目で私を見てたような気がする」

 「あはは、まぁ、いつものコトじゃん。新体操なんてしてる限り、仕方ないよ~」


 と、男の欲望に存外寛大な奈津実に比べて、元男だったにも関わらずミユキの方は渋い表情だ。


 まぁ、男とは言っても精通もまだな(ひょっとしたら自慰もロクにしてなかったかもしれない)状態で、そのまま女子高生をやるハメになったので、“男性の欲望”というモノにリアリティを感じないのかもしれないが。


 「そうは言ってもねぇ。男はすべからくスケベなモンだよ? それは、みゆっちの彼氏の富士見くんだって同じで、一皮むけばケダモノ……」

 「ち、違うもん! 輝くんはケダモノじゃなくて紳士だもん!!」


 むきになって否定するミユキを、「はいはい、御馳走様」と適当にあやす奈津実。


 (それにしても、元は小学生の男の子が、こ~んなに女らしく清楚可憐な美少女に成長するとは、ね)


 当事者以外で唯一ふたりの事情を知る奈津実は、「人生ってわからないモンだよねぇ」と嘆息する。


 幸いつい先日、3年間同じクラスになった友人の少年がついにミユキに告白し、“彼女”も真っ赤になりながらソレを受け入れたので、今後この、スペックは高いがどこかあぶなっかしい親友の面倒をみる仕事は、彼に任せればよいだろう。

 どちらも気があるのはバレバレで、傍から見ていてもどかしかったので、肩の荷が下りた気分だ。


 問題は、ミユキの身体についてなのだが……。


 (まぁ、色々意味でみゆっちも“女”として成長はしてるみたいだし、大丈夫でしょ)


 ニマニマ笑いながら、親友の近頃発達の著しい部位を凝視していると、奈津実の視線に気づいたのか、ミユキが微かに頬を染めながら胸を両腕で隠す。


 「な、奈津実ぃ~、視線がエッチだよぅ」

 「にゃはは、減るものではなし、よいではないかよいではないか~」


 少女達のじゃれあう声が、控え室に響く。


 ──で、恋人を迎えに来たくだんの富士見少年は、控室のドア越しにその会話を偶然耳にしてしまい、鼻血が出そうになるのを慌てて堪えるハメになるのだった。


-おしまい-

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