第漆話 かなめ・12歳、職業:女子高生
【開幕/みゆき・16歳、職業:男子小学生】※R-15注意
「ハァ、ハァ、ハァ……」
まだまだ残暑が厳しい9月の上旬だというのに、その部屋の主はドアも窓も閉め切って、ひとり部屋に籠っていた。
ドアを入った真正面には勉強机があり、棚の上には教科書類が並べてある。
また、机の前の椅子に黒いランドセルがかかっており、壁の一面には、ロボットアニメと特撮ヒーローのポスターが貼ってある。どうやら小学生の男の子の部屋らしい。
さらに向かい側の壁にかかったユニホームや、部屋の片隅に転がっているサッカーボールからして、どうやらこの部屋の主はサッカー好きのスポーツ少年といったところか。
「ハアハア……この布団の匂い──へへっ♪」
しかし、その部屋の主は今、机の脇のベッドの上に寝そべって“ひとり遊び”の真っ最中だった。
無論、小学生だって早熟な子ならオナニーくらいする。ユニホームのサイズからして5、6年生くらいだろうから、覚えたての自慰行為に夢中になっていてもおかしくない。ないのだが──どことなく、“彼”の様子は変だった。
うつ伏せに布団に突っ伏して、まるで何かに酔ったように懸命に深呼吸を繰り返す。
あるいはゴロンと仰向けになり、部屋の中を見回して「イヒヒ……」と不気味な笑いを漏らす。
さらに、壁から外したサッカーユニホームを顔に押し付けながら、半ズボンとブリーフをズリ下げ、性器を弄ぶ。
いや、待った! サッカー少年にしては妙に生白い肌も奇妙だが、それ以上におかしなコトがある!
“彼”の下半身には、男なら老若問わず存在しているはずの突起物が見当たらない。代わりにそこにあるのは、薄い柔毛におおわれた割れ目──平たく言うと女性器だ。
よく見れば、Tシャツを着た胸もほんの僅かだが膨らんでいるように見える。
それでは、この“少年”は、単なる男装趣味の少女なのだろうか?
──実は、それも正解ではなかった。
「くはっ! あたしが、ショタっ子に──アイツの立場になってるかと思うと……ひはっ! そ、それだけで感じちゃう!!」
少女は、いつものように胸などをいぢろうとする手を自制し、“突起”への刺激に専念する──まるで、それが自分の男性自身であるかのように。
「おほっ! ち、チ●チン、あたしの……オレのチンチ●、シゴくと気持ちいいよぉ!」
ワザと卑猥な言葉を口にしつつ、慣れない男性的な愛撫に没頭していると、精神的なものもあるのか、本当に感じてきたようだ。
程なく、“少年”のふりをした少女は、ビクンビクンと身体を震わせて絶頂に達した。
「ククク……やった! ついにク●トリス──ううん、チ●ポだけでイケるようになったゾ!」
下半身丸出しのまま、ムクリとベッドの上に起き上がった“少年”は、下腹部に飛び散った粘性の高い液体を指先ですくい上げながら、ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべていた。
「ははっ、今頃、アッチの──あの子の方はどうしてるかねぇ」
それなりに整った容貌の少女なのに、その笑みはひどくいやらしく歪んで見えた。
* * *
彼女──早川美幸(はやかわ・みゆき)が、その奇妙なアイテムを見つけたのは、ほんの偶然だった。
パッと見はちょっと地味な文学少女風の(同時に名門学園に通う高校一年生でもある)美幸だが、実はバリバリのヲタク少女でもある。
いや、男性向けアニメを好んで見つつ、少年同士の関係に想いを馳せる彼女は、むしろ腐女子と言うべきか。もっとも、まだ自分で描く域までは踏み込んではいないようだが。
そんなインドア派な彼女のヲタ関連以外の数少ない趣味が、フリーマーケット巡りである。と言っても、遠出することはめったになく、近所で開かれる2、3のフリマを覗きにいく程度なのだが。
その日も、冷やかしに近い気持ちで、自宅近くの公園で開かれたフリーマーケットを覗いてみたところ、中にひとつ、妙に気になる品が出品されていたのだ。
「“鳥魚相換図”? 何て読むんだろ?」
古ぼけた2枚の水墨画は、しかしなぜか彼女の琴線に触れたのだ。「ティンと来た!」というヤツである。
「あ~、それは「ちょうぎょそうかんのず」って読むらしいよ。なんでも、さる旧家の家宝だったとか」
黒いフード付きパーカーを着た軽薄そうな店番の青年が、見かけによらず落ち着いた口調で説明してくれる。
「家宝って──こんな小汚い水墨画が?」
別段、日本画に詳しいわけではないが、教科書などで見た狩野何某とかのソレと比べても、明らかにその絵の技術は稚拙で、さほど値打ち物とは思えない。
「ははっ、確かに、ソレの美術品としての価値は大したことはない。せいぜい1万円かそこいらさ。でも──それには特別な付加価値があるんだなぁ」
悪戯っぽい笑みを浮かべた青年が説明してくれたその絵の“機能”は、にわかには信じ難いものだった。
この2枚の絵を枕の下に敷いてひと晩眠れば、目が覚めた時、そのふたりの“立場”が入れ替わると言うのだ。
「正確には、「入れ替わってるように見える」と言うべきかな」
「どういうこと?」
「つまり、AさんとBくんが、この絵を使うと、その後、本人達以外の人には、Aさんの姿がBくんに、Bくんの姿がAさんに見えるようになるらしいね」
万が一それが本当なら、とてつもない値打ち物だ。
美幸にだって変身願望くらいはある。ブスとは言わないまでも十人並みのルックスしか持ってない自分が、たとえば全校生徒の憧れの的の美人生徒会長と入れ替われたら──なんて考えただけで胸が熱くなる。
お小遣いをもらったばかりで懐が暖かったこともあって、美幸はついソレを5000円で買ってしまった。
もっとも、青年いわく、このアイテムにはいくつか発動のための必要条件があるらしい。
多少のズレがあってもよいが、大体同じ時間帯に寝ること。
使用の前に両者の口頭での合意が必要とされること。
たったこれだけだが、これでは見知らぬ他人に勝手に使うと言うのは難しそうだ。
それに、本当に効果があるのか、事前に実験しておく必要もあるだろう。
しかし、実験相手については美幸には心当たりがあった。
ちょうど今、夏休みということで県外から家に泊まりがけで遊びに来ている従弟がいるのだ。
浅倉要(あさくら・かなめ)という、小学6年生の元気な男の子で、多少世間知らずなきらいはあるものの、ショタ趣味もある美幸からすると、「すごく美味しそうなコ」だ。
無論、リアルで年端もいかない従弟に手を出すと色々マズいので、ごく普通に“親戚のお姉ちゃん”をしているのだが、無意識に好意的に接しているせいか、要は美幸のことを「お姉ちゃん」と呼んで慕っていた。
──あの子なら、あたしの言うことを聞いてくれるはず。
そう確信している美幸は、
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