【4.馴致】

 そんなこんなで河合那雪は、昼間は教師、放課後は魔法少女という前代未聞の二足のワラジを履いて暮らすことになった。


 最初の頃は、敵を倒すことでいっぱいいっぱいだったが──日に数体のぺースで何度も暗禍と戦い、倒していれば、流石に1週間もすれば慣れてくる。

 魔力の方も、当初は敵と戦う10数分間変身を維持するのでやっとだったが、毎日雑魚狩り&ボス戦を繰り返しているようなものなので、5日目が過ぎる頃には、数時間変身したまま、かつ必殺技を数発撃っても、まだ余裕があるくらいにまで成長していた。


 それでも真面目な彼女は、中学校教諭という職業柄もあってか魔法の力を悪用せず、しばらく模範的魔法少女として日々を過ごしていたのだが……。


 ふと魔がさしたとでも言おうか、あるいは快活で陽気な月乃(ルーナ)の姿になっているせいで“心”が“体”に引っ張られたのか、いつしか外見年齢相応の茶目っ気が、心の中に湧いてきてしまったのだ。


 実は、小学生の頃から長身で、胸や尻の発育も良く、大人びた体型だった那雪は、当時から同世代の友人からは羨ましがられていたが、本人的にはウドの大木コンプレックスというか「どうせならちっちゃくて可愛いタイプになりたかった」という悩みがあった。


 その那雪にとって、ルーナ(月乃)は、まさに「自分がなりたかった理想の女の子」の具現なのだ。一時的にとは言え、その姿になれることに、彼女が喜びを感じなかったと言えば嘘になるだろう。


 それでも当初は、ルーナへの変身状態のまま、密かに通販で買った甘ロリゴスロリその他諸々の、ローティーンからミドルティーンくらいでないと似合わない可愛らしい系の服装に着替えて鏡に映し、悦に入る程度の可愛いモノだった。


 ──だが、次第にその“遊び”は徐々にエスカレートしていく。


 最初はまず、着替えたその“私服”姿のまま中学生の女の子として、街へ遊びに出かけるというものだ。


 部屋での個人ファッションショーと大差ないように思うかもしれないが、“ローティーンの女の子”としての姿を人目にさらし、なおかつその姿相応の態度で振る舞う──つまり「少女に成り切って他人を偽る/騙す」という行為に秘められた背徳性に、那雪はひどく興奮を覚えたのだ。


 さらにそれから、ルーナに変身後の姿を自室の鏡に映しながら、自らを“慰める”(意味深)ようになるまで、それほど時間はかからなかった。


 いや、いくら根は真面目とは言え、那雪とてまだ若い(実は昨年度赴任したばかりの新米教師だ)ひとりの女性なのだし、暗禍との戦いは過酷だから、何らかの形でストレスが発散したくなるのも無理のない話ではあろう。


 色々ハッチャケているとは言え、どれも他人に迷惑をかけるような行為でも、法律や社会規範に反するような真似でもないのだから、別段非難されるようなコトでもない──はずだ。年齢詐称(?)は周囲が勝手に誤解しているだけだから一応セーフだろう、メイビー。


 そう、“ココまで”ならば。

 しかし……。


 「んはぁ……あんっ…やぁ!」


──バタン!

 「せーんせ、遊びに来たよぉ……って、うわぁお♪」


 「きゃあーーーっ! み、見ないで! 見ちゃダメぇーーーーッ!!」


 うっかりアパートの自室に鍵をかけ忘れたうえ、鏡の前でオナニーしているところを月乃おしえごに見つかってしまったのは、河合那雪一生の不覚と言わざるを得ないだろう。


 * * * 


 「おやおやぁ。河合先生、こんな日曜の昼間っから、自宅にこもってひとりエッチですか~? それもわざわざ魔法戦乙女ルーナの姿で♪」


 からかうような月乃の言葉に、顔色が真っ赤になったあと真っ青になる那雪。


 「あ……あのあの……えっと……これはその…………」

 (おおお落ち着きなさい、那雪。ここは良識ある大人として毅然とした態度をとらなきゃ。ああでも、何て言い訳すればいいのかしら)


 思わず、その(何やらいかがわしいことされた感じにはだけた魔法少女衣装姿の)まま、ベッドの上で正座して、奉行所のお白洲に引き出された罪人よろしく、月乃本人の沙汰を待つ体勢になってしまう。


 ところが。


 「ダメダメだよ、ダメダメ! そんなんじゃ、ぜんっぜん、気持ちよくなれないから!!」


 なんとここで、月乃せいとから那雪せんせいに向かって、オ●ニーの駄目出しが入る。


 「へ!?」

 「ほーら、もいちど三角座りして、足をMの字に開いて。まずは太腿の内側から、人差し指と中指の腹でゆっくり撫でて気分を盛り上げるトコから始めるの」

 「あっ、はい」


 那雪とて、何が悲しくて10歳も年下の小娘に「正しい自慰の仕方」を教わらねばならないのか、という疑問が頭の片隅にないわけではないのだが、自信満々な相手の勢いと、元々が性的なことに疎い(無論この歳で処女だ)なこともあって、つい流されるままにその“指導”に従ってしまったのが運の尽き。


 結局、その後も主導権を握られたまま、“行き着くトコロ”までイって──いや、イカされてしまったのは、年長の女性かつ教師として如何なものか?


 まぁ、快感に不慣れだったことや元から百合そっちの素質があったこと、目の前の少女の姿を“借りて”いるという非日常性、さらには教え子との禁断のカンケイなどが複合的な要因となったからこそ、月乃はこうまでアッサリ快楽に沈んだのだろう。これをチョロインと呼ぶのは流石に気の毒だ。


 ちなみに、初回は“その程度”で済んだが、那雪がイく度に、ある程度呼吸が落ち着くのを待って月乃の“指導”は再開される。

 2度目はキスと乳房とうなじ(+耳)、3回目はお尻(不浄の門含む)攻略と、段々、女子中学生とは思えぬほど淫靡になってゆき、4回目にしてついに瓜二つな美少女ふたりがベッドの上でどったんばったん大騒ぎ──もとい、くんずほぐれつする段階にまで到達する。


 結果、この日、月乃と那雪の間に、“生徒と担任教師”、“先輩魔法少女(負傷中)と新米魔法少女”に続く第三の関係“恋人同士タチとネコ”が結ばれたのだった── 「大人としての良識」はどうした、中学教師?


 もっとも、そうなった原因として、年齢や立場、性格は大きく異なれど、月乃も那雪も、実の所、それぞれ心に満たされぬモノを抱えた、ある意味似た者同士でもあったから、というのもある。


 那雪は“優等生”の、月乃は“明るい人気者”の仮面をかぶって、自分の中にある虚無うつろを極力意識せず、他人にも見せないようにしていただけだ。


 そうでないなら──もし己が未来に夢と希望を抱いているならば、ただの少女/女性が、どうして魔法少女なんて危険な裏稼業を歩むことを、躊躇いなく選べるはずがあるだろうか。


 それを考えると、この環境下で(一般倫理的にはともかく)まがりなりにも心を許せる恋人ができたというのは決して悪いことではないのだろう。

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