その5)恋人同士でするコト (※R-15表現注意)

 <兄's View>


 (クソッ! どうなってるんだ、一体……)


 弟の女装した姿である“ゆき”は、さっきまででさえ十分に女の子らしかった。百戦錬磨とは言わないまでもそれなりに女性経験豊富な俺が、ドキッとして惑わされそうになるくらい。


 けど、トイレから帰って来た“彼女”は、明らかに様子が違った。


 先ほどまでが「少しでも汚すのを躊躇われるような幼き無垢なる聖少女」だとしたら、今のゆきは「清楚な白き花弁が目に眩しいが、それでも花芯から漂う馥郁(ふくいく)たる雌の香りが男を魅惑して止まない一輪の花」だ。


 ──え、何を言ってるかわからない? うん、俺も!

 要はそれだけ混乱しているのだと思ってくれ。


 しかし、この魅了効果は同性(?)には効かないのか、好実は平気な顔でゆきと言葉を交わして、はしゃいでいる。

 結局、集中力と思考力が欠片もなくなった俺がビリでボードゲームは幕を閉じた。


 (ダメだ! こんな状態のままでいたら、俺は自分の理性に自信が持てなくなる)

 「好実、そろそろゆきを送って行かないといけないから……」

 「えー、そうなの? まだ4時前なのにィ」


 残念そうな好実だったが、タイミングよく電話がかかって来た。どうやら、友達が誕生日のお祝いをしてくれるらしい。


 ちょうどいいので、俺は愛車に好実とゆきを乗せ、まずは好実をその友人達のところへ送り届ける。


 続いて、本来はゆき──柚樹も、かりんの店にでも送って、いつもの格好に戻してもらうべきなのだろうが……。


 その時、俺の脳裏からは、助手席に座る“高代ゆき”という少女が、本当は自分の弟であるという意識は、ほとんど消え去っていた。

 俺は無言でハンドルを切り、自宅へと向かった。


 * * *


 何となく予感はあった。

 ──いや、期待していたのかもしれない。


 なぜなら、想像の中で“ゆき”としてのボクの“お相手”は、いつも兄さんだったから。


 何かを堪えるような(元が同性だけにボクにもその意味は分かった)顔した兄さんは、家へとクルマを走らせ、助手席から降りたボクの手を引いて、無言のまま家に入る。

 けれど、そのまま二階へと上がり、3つ並んだボクたちの部屋の前まで来たとき、一瞬立ち止まり、ギリッと奥歯を噛みしめたのち、ボクにこう言ったんだ。


 「──ほら、柚樹、自分の部屋で着替えろよ」……って。


 「お、俺は……ちょっと用が出来たから出かける。鍵は閉めちゃっていいぞ」


 え? いっちゃうの? 本当に?

 ボクの事、大切にしてくれてるんだ。でも……。


 「──ゆ、き?」


 気がついたらボクは、兄さんの手を掴んでいた。


 「やぁ……いっちゃ……やだぁ」

 「お、おい、ゆき、手を……」


 放せと彼が言い終える前に、上を向いて兄さんの口にボクの唇を押しつける。


 (あぁ……わたくし、ファーストキスをお兄様に捧げたのですね)


 例によって心の呟きが乙女ちっくに変換されるけど、もぅそれは気にならなかった。

 一瞬驚いた顔をしたのち、兄さんはボクを思い切り両手で抱きしめてくれた。


 「バカ、お前、せっかく俺が珍しく紳士を貫こうとしてんのに」

 「ウフフ……雄馬お兄様に無理は似合いませんわ」

 「はは、違いない」


 ふわりとその逞しい両腕でお姫様だっこの形で抱き上げられると、そのまま今度は兄さんの方からキスしてきた。

 差し入れられた彼の舌が、ボクの口内をなぞっていく。初めての体験なのに、気が狂いそうなくらい気持ちいい。


 口づけを交わしたまま、兄さんは足で自室の扉を開けると、ボクを抱き上げると、その中へと入る。


 「知ってるか? 欧米では、結婚式のあと、新郎は新婦をこんな風に抱っこして新居に入るという習慣があるんだぞ?」


 唇を離して、兄さんが耳元で囁く。


 「あら、それでは、わたくしは、これからお兄様のお嫁さんにされてしまうのですね?」


 ふざけて言ったつもりだったのに、兄さんの顔は恐いくらいに真剣だった。


 「ああ、その通り」


 言うが早いか再びボクの唇を貪った。

 舌を絡め、互いの唾液を交換して飲み干す。


 「あぁン……何だかじんじんする……体中がじんじんして、おかしいのぉ」

 「可愛いぞ、ゆき」


 可愛いと、綺麗だと彼に褒めてもらうだけで、身体の芯が熱くなっていく。

 まるで、身体だけでなく脳までもとろける感じ。

 兄さんの言葉だけでも、ボクの体は反応するようになっている。


 そのまま、優しくベッドの上に横たえられ、今度は軽いキスののち、兄さんの手がボクの体中を撫で回し始めた。


 「ふわぁあっ……」


 不思議。気持ちが高ぶるほど、体中がおかしくなっていくみたい。彼の手がボクのどこをなぞっても、刺激が、快感が伝播して、気持ち良さに狂ってしまいそうになる。


 「感じやすいんだな、ゆき。ますますいぢめたくなるぞ」

 「やぁん……い、いぢめないで、お兄様ぁ……は、恥ずかしい……」

 「肌、凄く綺麗だ」

 「あひゃっ! くうんっ……ひゃうっ……気持ち……いいよぉ……」


 襟元をはだけられ、黒い下着に包まれた胸元が露わになる。


 「ほぅ、黒か。意外だったけど、よく似合ってる」

 「ひゃ! ん……ホント?」


 “彼”の舌がボクの首から鎖骨、そして胸元のあたりを這う。

 耳やうなじなどの敏感な部分を舐められると、身体が勝手にびくんっと小刻みに痙攣してしまう。


 「可愛いさくらんぼだ」


 その一方で、お兄様はわたくしのブラジャーをズラし、ペッタンコの胸を愛撫し始めました。


 「あぁ……ダメぇ、見ないでぇ……」


 わたくしの制止も構わずにお兄様の手は、優しく、けれど大胆にサワサワとわたくしの未成熟な胸を弄んでいます。


 「やぁ……む、むね……むねぇ……ふあぁん、やだ、やめて……」


 わたくしは、予想だにしなかった未知の感覚に、翻弄され、途切れ途切れに悲鳴、いえ喘ぎ声をあげることしかできませんでした。


 そして──それすら、ただの前菜はじまりに過ぎなかったのです。


……

…………

………………


 何度も連続して小さなエクスタシーが生まれて意識がふっと途切れかけるのですが、決定的なソレには至りません。

 そのクセ、押さえられたアソコから出た透明な粘液が、糸を引いて際限なくシーツに垂れ続けます。


 (あぁ、死ぬ、死んじゃう……気持ちよすぎて、もう死んじゃいます! でも、でも──死んでもいいっ!!)


 身体の芯が熱くなり、頭の奥が痩れて意識が薄れます。

 このまま続けていたら、わたくしは壊れてしまうかもしれません。

 今の状態のままずっと快楽に溺れていたいという気持ちもあるのですが、それではこのまま戻ってこられなくなりそうです。


 「お、お願いです、お兄様! これ以上されたらっ! わ、わたくし、おかしくなっ……ひあああっ!」


 けれど、ジレンマに揺れるわたくしの心に、お兄様は悪魔のように甘美な誘惑を囁きます。


 「いいんだよ、おかしくなっても。ゆきがどんなにエッチでいやらしいコに壊れちゃっても、俺は大事にしてあげる。毎日エッチなことしてあげるから。

 ──だって俺達は“恋人同士”だろ?」


──ぞくぞくぞくっ!


 妄執すら感じられるその愛情の籠った言葉に、わたしの理性が一気に沸騰してしまいました。


 「あ、あ…あン…あぁぁ……(ダメ、なのにぃ)」


 けれど、その誘惑は余計に甘美で。


 「くっ、俺も、そろそろ限界だ、ゆき。イクぞ!」

 「はい、わた、くしも、イク、イッちゃう、イっちゃうのぉぉぉーーーーッッッ!!!」


 背中をガクンガクンと波打たせたながら昇りつめ、深奥部に愛しいお兄様の”熱”を感じながら、次第に脳裏が真っ白に塗りつぶされ……。

 ついに、わたくしはそのまま意識を手放しました。

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