4c.スクールメイツ(その3)

●ケース3.生徒書記の放課後


 星河丘学園は──来年度から共学化する予定とは言え──現時点ではあくまで男子校である。

 その男子校のプールを、鮮やかな紺色と白の競泳水着に身を包み、しなやかなフォームで水をかく影があった。

 言うまでもなく、生徒会書記の1年生、天迫星乃である。


 「ぷはぁッ! どーですか、先輩?」

 「うむ、前回よりさらに0.1縮まってるぞ。調子良さそうだな、天迫」


 1年生ながら、星乃はこの水泳部有数の優秀なレギュラー選手である。

 星河丘はいわゆる“お坊ちゃん学校”であり、一部を除いてあまりスポーツ関連は強くないのだが、いくつかの個人競技では設備の優秀さもあいまって稀にインターハイクラスの選手を輩出することもあった。

 そして、水泳部においては久々に星乃がその期待をかけられているのだ。


 一年生がいきなりレギュラーともなれば、普通周囲から妬まれそうなものだが、星児の場合、元々屈託がなく人懐っこい(そして、理雄の教育のせいか目上には比較的礼儀正しい)性格のおかげで、そういう陰湿な扱いはほとんど受けていない。

 まして、今のように「どこからどう見ても可愛らしい女の子」である星乃の姿になってしまえば、なおさらである。


 「それにしても、天迫が女になったと聞いたから、てっきりタイムが落ちるかと思いきや、むしろ絶好調じゃないか」


 すでに引退しているため、コーチ役を買ってでてくれている3年の先輩が感心したように言う。


 「アハハ、女になったって言っても皮膚かわだけのコトらしいですからね。それに、ボク、女の子らしい凹凸とは無縁ですし……」


 自分で言ってて、ちょっと落ち込む星乃。


 「い、いや、いいんじゃないか? 天迫は今でも十分女らしいし可愛いと思うぞ、うん」


 3年生とは言え、男子校育ちで女の子に免疫がない。星乃のような未だ子供子供した娘相手でも、シュンとした様を見ると狼狽えるものらしい。


 「先輩って──もしかして、ロリコン?」

 「ば、馬鹿野郎! 年上をからかうな!!」

 「えへ、ごめんなさーい! じゃ、今日はこれであがります」

 「ああ。寒くなってきたから体冷やして風邪ひいたすんなよー」


 ベンチに置いたジャージを羽織り、トテトテ……と姿に見合った愛らしい足音を響かせて女子更衣室へと駆けて行く星乃を、優しい目で見送っていたその先輩は、直後に後輩達からロリコン疑惑で質問責めにされることになるのだが、それはまた別の話。


 体育館に隣接して設置された室内プール(しかも夏場は天井がオープンする豪華仕様)から、女子更衣室に駆け込んだ星乃は、更衣室の隅に一基だけ設けられたシャワールームに入った。

 手早く水着を脱いで温水に設定したシャワーを浴びる。


 「はわぁ~、やっぱり気持ちいいなぁ」


 この時期、プールの水温もそれなりには上げられてはいるのだが、やはり熱いお湯の心地よさにはかなわない。


 「女の子になって良かったことのひとつって、お風呂が以前にもまして気持ちよく感じられることだよネ」


 おそらくは、肌が敏感になったことと関係しているのかもしれない。


 「敏感って言えば……」


 無邪気な彼女に似合わぬニヘラとした笑顔を浮かべる星乃。

 どうやら、若菜との情事ことを思い出しているらしい。


……

………

…………


 キッカケは、ほんの些細なフザケ合いだった。

 それまでだって何度か一緒にお風呂に入り、冗談交じりに“今の体”にタッチすることもあった。

 ただ、その時は偶然にも理緒や桃子が先に風呂から上がってしまい、ふたりきりだったのだ。


 「あれ、どうしたの、星乃ちゃん? 強く握り過ぎた?」


 そのせいで、いつものような歯止めが聞かなかった──と言うのは、言い訳だろうか。


 「ち、ちがうんです! なんだか体の奥がぁっ、あ、熱くて……」

 「ちょっ、その表情は反則──あんっ! さ、触っちゃダメ!」


 自分でシた時も薄々気づいてはいたのだが、今の身体、とくに肌はすごく敏感なのだ。

 単に皮膚感覚のみならず、快楽に対する体の感度までも、大幅に強化されている。

 予想は出来ていたのだが、元々が同性(本来も、今の姿も)同士ということでガードが低すぎたのが災いした。


 「だ、だめよっ……このままだとおかしくなっちゃうわ……早くあがりましょっ……」


 お湯の中で火照った体では冷静な判断はできない。そう考えた若菜の言葉は、残念ながら少しだけ遅すぎた。


 「わかばさん……」

 「な、なに、星乃ちゃ…んむっ!?」


 若菜は急に唇を奪われた。抵抗しようとしたが、まるで力が入らない。


 「んっ……はむっ……ちゅるっ……」

 「や、やめて……ほひのひゃん……」

 「わかばしゃん……すき……」


 文字通り舌足らずな言葉を交わしながら若菜と星乃の舌が絡まりあい、糸を引く。

 最初は抵抗していたはずの若菜も、いつしか自分からキスを返し、逆に覆い被さるようにして星乃の唇を貪っていた。


 しばしの沈黙と吐息の末、キラキラと輝く唾液の端をかけてふたりの唇が離れる。

 ふたりとも顔が真っ赤になっていた。


 「ゴメンなさい、若菜さん。でも、ボク……」

 「いいのよ、星乃ちゃん。あたしも気持ちよかったから。ねぇ……」


 妖しい輝きを放つ若菜の瞳から、星乃は視線を外せない。


 「んひゃ……あぁっっ!」


 先程までとは立場が逆転し、開き直って積極的になった若菜が突然星乃の乳首を触ったのだ。星乃は膝が震え、風呂の中に沈みそうになった。


 「わ、若菜さぁん……んあっ!」


 腕の中で悶える可愛い後輩の姿に、若菜は徐々に感情が高ぶっていくのを抑えられなくなっていた。もはや我慢の限界だった。


 「ウフ、星乃ちゃん──可愛いわよ……ひあっ!?」

 「お、お返しですっ……んっ……あっ……」


 負けじと星乃も若菜の豊かな乳を掴み、こねくり回していた。


 「ふあっ……んっ……んふぅ……」


 互いの乳を両手で揉みしだく。そのたびにふたりは甘い声をあげた。


 「ふ、ふふっ、星乃ちゃんかわいいっ……じゃあ、ここはどうかなっ」

 「ふえっ? んああああああぁぁーーーーっ!!」


 若菜が星乃の秘部にそっと触れる。

 それだけで若菜は軽くイッてしまい、風呂の中に倒れこみかけるのを慌てて若菜が抱きとめた。


 「ほ、星乃ちゃん──大丈夫?」

 「ぅぅ……若菜さん、ひどいよぉ──ボク、足腰に全然力入らないし」

 「じゃあ、いったんお風呂からあがろっか」

 「はぁい」


 どの道、こんな場所でシテいては落ち着けない。

 そのため、ふたりはいったん風呂からあがることにした。

 そのまま脱衣所で体を拭き始めたふたりだったが……。


 (ちょ……なんでこんなに体がビンカンに……?)


 中途半端に燃え上がらされた性感のせいか、タオルと体が擦れるたびに、声をあげてしまいそうになり、星乃はなかなか拭けずにいた。


 「あらあらぁ~?」


 振り返ると、ニヤリと人の悪い笑みを浮かべている若菜の姿が。

 この顔には、星乃は心あたりが嫌と言うほどあった。

 若樹時代からもよく見た、この生徒会長が他人を嬉々としていぢる時の表情だった。


 「星乃ちゃん──拭いてあげよっか?」

 「い、いや、自分で拭けま…すぅっ!?」


 彼女の返事に構わず、若菜は星乃の体を拭き始めた。

 柔らかなタオルのパイル地に撫でられただけで、ゾクゾクとした快感が星乃を襲う。


 自分で拭くのでさえ、ほのかに感じてしまうのだ。ましてや他人に拭かれては……。

 トロ火で炙るようにじわじわとした快楽が、ゆっくりと星乃の全身を包み込んでいった。優しく拭われる髪の毛一本一本ですら、性感帯になってしまったような気がする。


 「あっ! そう言えば、ココも綺麗にしないとねぇ♪」

 「わ、若菜さ、んっ! そ、ソコはっ、ヒィーーーッ!」


 結局、ふたりとも「体を拭くだけ」のはずが、色々ヤってしまい、すっかりグッタリとしてしまった。未だ呼吸が整わず、ハァハァと荒い息を漏らしている。

 と、そこでクチュンと可愛らしいクシャミをする星乃。


 「──ここじゃ寒いし……続きは部屋でしましょうか、星乃ちゃん♪」

 「うんっ♪」


 手早く夜着を身に着けたふたりは、仲良く手をつないで若菜の部屋へと向かったのだった。


…………

………

……


 「クチュンッ!」

 シャワールームの中で、あの日のような可愛らしいクシャミを漏らしたことで、星乃は我に返った。


 「おっと、このままじゃあ風邪ひいちゃう。お腹も空いたし早く着替えて部屋にかーえろっと」


 いかにも元気な彼女らしい言葉を漏らしつつ、脳裏では「でも、明日はお休みだし、若菜さんと思う存分……でへへ」と年頃の乙女らしからぬ(いや、ある意味、とても「らしい」のだが)妄想を思い浮かべている水泳部のホープなのだった。

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