5、それぞれの理由


 あら、ダルダ殿下の廃嫡の手続きを見送らせた理由に疑問があるのですか? …そうですわね、今の王太子妃の素質を試す、だけでは納得しては頂けませんわよね。


 確かにもう一つ理由がありますわ。すごく簡単なお話ですが、私個人してもソロシアン公爵家としても、ダルダ殿下とは今後においてわずらわされたくなかったからですのよ。


 自分以外の者を見下す性質をお持ちのダルダ殿下の事ですもの、私との婚約があってこそ王太子としての立場が認められていた、なんて事実を知れば何をしでかすか…。もう一度、私と婚約を、なんて言い出しかねません。もしくは、王太子妃を我がソロシアン侯爵家の養女にして完璧な令嬢に仕上げろ、なんて騒ぐかもしれませんわね。あのダルダ殿下の行動は時として、悪い意味で予測不可能でもありますので、仮にも王族ですし念のために対策が必要でした。


 すぐに廃嫡とせずにそれ相応の期間を設ければ、ダルダ殿下の意識は王太子妃のみに向けられるでしょうからね。気に入らない私の事なんてもうお忘れじゃないかしら、ふふふ。


 後は何をお聞きになりたいの? …まぁ、そうでしたわね、国と添い遂げる事を決めた際の王家からの遠回しの謝罪について、ですわね。ええ、後でお話しすると言いましたものね。

 実は、その…それは、今の私の婚約者と関わりがありまして…。ええ、最初に問われても答えなかった訳、今はまだ私の婚約について正式な発表がされていない理由も関わってきますのよ。


 話は私とダルダ殿下が婚約していた頃に戻るのですが、あのままダルダ殿下の妻となった場合、どうあがいても私に負担が大きくのしかかってくることは明白でしょう? そこで国と結婚すると言う私の決意を受け止めて下さった国王陛下が、今後の私の負担軽減を理由に王家からの謝罪代わりの配慮として、優秀な相談役をと、ある殿方を手配して下さいましたの。


 それが、マージ・カオウ公爵様ですわ。国王陛下の実の弟君であられますし、当時からすでに『カオウ』の家名を授かって臣下として内政に関わる任についておられましたから、立場的にも侯爵令嬢であり王太子妃となる私の相談相手に相応しいと判断されたようですの。…ええ、ええ、おっしゃる通り本来ならあり得ない事ですわ。マージ様も未婚の身ですし、王家からの謝罪代わりの配慮の形でなければ、私も受け入れませんでした。いくら王家公認とは言え独身のマージ様とのお茶の席を定期的に設けるなど、よからぬ噂がたってもおかしくありませんもの。


 何故、王弟であるマージ様が私の相談役として選ばれたのか、ですか? 疑問に思われるのも無理はないですわ。当時、私もそう思って王妃様にお尋ねしたことがあります。私の実家の者以外に城内での私の強い味方となれる者を近くに置いておきたかったから、との返答がございましたわ。詳しく申しますと…ご存知のことだと思いますが、ダルダ殿下にご兄弟はおられませんが、国王陛下にはご兄弟が二人おられます。


 国王陛下のすぐ下の弟であられるノーキン・ハドウ様はすでに結婚しておられますが、軍人気質な性格上でも相談役としては論外。その奥方様は王妃様の女騎士として今尚仕えておられますので、私と予定を合わせる事が困難であるとこちらも相談役に適さないと判断されたとか。


 王妃様には姉妹がおられますが、王妃様自身が隣国から嫁いでこられた方ですので、他国の方を相談役として招待する訳には参りません。同盟国と言えど、国の内情は明かせませんもの。


 それらを踏まえまして、選ばれたのがマージ様でした。マージ様は異性ではありますが、王家出身で国王陛下の信頼があり、末の弟君である為比較的私と年が近く、内政に携わるので私が王妃となった際には確実に私の力になれる。王族としての振舞いも教育されておいででしたので、いずれ王妃となる私にとって最上だろうと。…かつての国王夫妻の胸の内では、これらの配慮以外の別の真意があったのでしょうね。今となっては気にしても変わりありませんが。


 ――ええ、そうですわ、マージ様が今の私の婚約者に当たりますの。

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