4、王太子と王妃の器



 話を『婚約破棄宣言事件』に戻しますが、この『婚約破棄』については事前の根回しもなくダルダ殿下の口頭のみでしたので、卒業パーティーであれば無かった事にも出来ました。出席者は限られておりますもの、王家が箝口令を敷けば早々漏れる事はないでしょう。けれど、この時のパーティーでは他国の関係者も多く参加していたことから、到底箝口令は愚か撤回なども出来るはずもなく、その後の王家との話し合いにて、正式に婚約破棄が成り立ち、私は元婚約者となったのですわ。


 これで経緯はご理解頂けたかしら? …あら、何かしら? 私、可笑しな事を口にしましたか? 


 …あぁ、ダルダ殿下が王家におられる事に、『まだ』と言った事かしら。そうですわね…ここだけのお話しにして頂けるなら話しても…、ええ、ありがとう。


 先程話した婚約破棄ですが、どちらが有責で成立したと思われます? そう、その通り、満場一致でダルダ殿下の有責ですわ。もちろん、王家としての立場がありますので公表はしておりませんが、王家から私とソロシアン侯爵に賠償金や契約など諸々を手配して頂きました。


 流石にこの時の手配の詳細は話せませんがその内容の一つに、ダルダ殿下の廃嫡に関しても含まれておりますの。


 先に言っておきますが、廃嫡を願った訳ではありませんわ。その逆、ある条件を付ける事でダルダ殿下が早々に廃嫡されないように願い出たのです。元々、私と結婚出来なければ、ダルダ殿下は『王太子』の席を外され王位継承権のはく奪後、廃嫡される事が決まっておりました。それは婚約した当時からの決まり事ですから、経緯がどうあれ婚約破棄が整ってしまった以上、こちらから願い出なければ速やかに廃嫡の手続きが実行されていた事でしょう。


 どうしてそんな決まり事があるかと言えば、王家と一部の高位貴族が知っている事なのですが、我が王国の王家は、時折ダルダ殿下のような困った方がお生まれになられますの。性質でしょうか、王家は国王陛下を筆頭として勤勉で優秀な方が多いのですが、それとは真逆の怠惰で傀儡にも出来ないほどの無能を極めたかのような方がね。そのような問題ある『王太子』となる子が産まれたその世代は、不思議と優秀な王妃の器を持つ娘も必ず現れるので、問題の『王太子』とその『王妃の器を持つ娘』と結婚する事が決まりとなっているのです。


 ――ええ、そうですわ。私が、今代の『王妃の器を持つ娘』として認められておりました。


 特に何か印がある訳でありません。王妃としての務めだけでなく、ただただ王の代わりを務めることが可能なほど、優秀である事が最低条件ですわね。つまり、言い換えれば『王妃としての持つ娘』としての条件さえ揃えていれば、私でなくとも良いのです。


 ふふふ、それで先程言いました『ある条件』と言うのが、子爵家の娘が『王妃の器を持つ娘』であるか見極める期間を設けて、その期限までは廃嫡の手続きを見送る事、ですの。もしかしたら、ダルダ殿下が選ばれたあの方が、私よりも優秀で相応しい子であるかもしれませんでしょう? 


 ダルダ殿下と王太子妃となった子爵家の娘、かの婚姻から三か月ほど経っておりますが、肝心のモナ王太子妃様は、どこまで学んでいるのかしらね。あの方の出来にダルダ殿下の命運が懸かっております。せっかくの相思相愛ですもの、ダルダ殿下の分まで頑張って欲しいですわね。


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