6、今の婚約者とこれからの私
マージ様とはダルダ殿下との婚約破棄の前は、信頼できる方として親しくも節度あるほどほどのお付き合いでしたわ。それが…正式にダルダ殿下との婚約が破棄された以降、マージ様から
…ふぅ、落ち着きましたわ。それで、そのマージ様は、王宮内で私の次期王妃として学ぶ姿勢を良く見かけておられたとか…、いつからか、その、私の隣に居たい、と願うようになられたとかで……。そうですわね、私がダルダ殿下の婚約者でさえなければ、と何度も思われていたとか。なかなか諦められず、婚約者を持とうと思わなかったとか、…ええ、色々マージ様のお話をお聞きしましたわ。
告白を受け入れるかどうかは、私次第でした。立場を利用して無理矢理に婚約と結婚を通すことはマージ様ならば可能でしたが、私の意思を尊重したいと、おっしゃって下さり…お父様とお母様も私の判断に任せると、言って下さいましたもの。
はっきり言って悩みましたわ。だって、私の愛はこの祖国に捧げると、思っておりましたから。今更、一人の殿方をまともに愛せるのだろうかと。恋愛なんて夢物語に思えていましたからね。でも…。
――毎日、花束を贈られました。流行のドレスや、品のある装飾品も。直接贈られることもありましたが、使者から届けられる場合は、必ずマージ様の手紙が添えられておりました。
――気晴らしにと一緒に、演劇を見に行きました。見終わった後、個室のあるカフェで演目や役者の感想、舞台のポイントなど存分に語り合いました。
――夜会の出席は控えておりますが、個人的なお付き合いがある貴族方からのお茶会のお誘いや、ちょっとしたパーティーなどは出席しておりまして、その私の相手を務めて頂きました。約束した時間より少しばかり早めに我が家へ迎えに来て下さり、帰りもわざと馬車を遠回りさせながら送ってくださいました。
――会う度にいつも褒めて頂きますのよ、私の外見も中身も。ソロシアン侯爵令嬢としても、一人の女生としても。
マージ様によって捨て置かれていた私の心が、満たされて行くように感じました。きっと、それが愛なのだと思います。私も同じように…、いえ、それ以上にマージ様を満たしたいと思った時、招いた我が家の庭先で優しく微笑むマージ様がおられたの。私の返事は、思わずそのままその時に。
ええ、マージ様のあまりの喜びようにその日の予定は全て後日にと後回しになってしまいましたわ。次期王妃として常に冷静であれ、感情に振り回されず適切に判断し物事を進めよと、あれだけ学んできましたのに…感情のままに動いてしまいました。後悔はちっともしておりませんけどもね。
――そういった経緯を経て、今に至る、という訳ですわ。
婚約の手続きは当然として、国王夫妻への報告もすでに済ましておりまして、あとは正式に発表するだけなのですが、婚約破棄後すぐに相手と結婚したダルダ殿下の件もあり、しばらく見送ることになりました。私とマージ様は正式に婚約を破棄した後でのお付き合いとなりますので、対面上も法律上も何ら問題はないのですが、私達を良く知らない国民の間でダルダ殿下の結婚が記憶に新しい内に発表してしまいますと、私達がダルダ殿下と同じように思われてしまいかねませんし、仕方がありませんわね。
そういう理由がありますので、私の婚約者については当面心の内に留めておいてくださいませね。そう遠くない内に発表されると思いますが、もう少し根回し等色々と必要ですもの。
これから、私が何をしたいか? …それが最後の質問でよろしいの? そうですわね……、マージ様とお出かけしたいわ。市街だけでなく、それぞれの領地を見て回ってみたい。以前にダルダ殿下の代理として一部の領地へ視察に出向いた事がありますの。三か月ほどの期間でしたが、重要な務めであると思っていても、書類上のみしか知らなかった未知の町や村を、実際に見て回る解放感はとても好ましく思えましたわ。もしマージ様が隣に居て下されば、もっと有意義な時間になっていたと思いますの。もう代理もなにもありませんから、ゆっくり町々をぶらりと見て回り、旅先の宿でその日の出来事を一緒に語り合えたら素敵ですわね。………あら、何かしら?
――しんこんりょこう…? え?! わ、私はそんなつもりでは…!!
もう、からかわないで下さいな。…この話も、いつか執筆される話に出すおつもりなののかしらね。…執筆する予定はない? 今はそうでもその手に持ったメモ帳と筆ペンからはとても意欲を感じるのだけれど…。まぁそうね…もしも今後、私の事を執筆する条件の一つとして、この一文を入れてもらえるかしら。
『心を拾われ、満たされ、救われた令嬢は、幸せとなった』
――書きやすいように文脈は変えても良いけれど、必ず入れて下さいませね。お忘れなく。
【完】
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