届かない背中
私のお墓の前で立ち尽くしている光星くん。その表情は哀しそうで、今にも泣き出しそうだった。
お願いだからそんな顔しないでよ。
少ししてから持ってきた花束を供えようとしてしゃがんだ。その瞬間、光星くんの動きが止まった。手紙が置いてあることに気づいたようだった。
実はお墓にも手紙を置いた。お墓があるお寺で紙とペンがあって良かった。さすがに家で書いてから、ここまで運んでくるのは時間オーバーになってしまう。
この手紙は最初で最後のラブレターだ。そして、捉え方によっては光星くんに対する呪いになってしまうかもしれない。愛ではなく、呪いを残すことになるかもしれない。
それでも私は書く必要があった。光星くんには前に生きてほしいからだ。私のことを引きずらないで、一生懸命に生きてほしい。
それに、きっと光星くんなら呪いと捉えることはないと信じているからだ。
光星くんが手紙に向かって手を伸ばす。その手は見て分かるくらいに震えている。光星くんの緊張が私にまで伝わってくる。
震えながらも手紙を掴もうとしている。できないのは分かっているが、手を添えて手助けしてあげたい。私にできるのは見守るだけだった。
手紙を掴んだ光星くん。ゆっくりと開けて読み始めた。
私の想いを詰めた手紙。この内容は私と光星くんの2人だけの秘密だ。例え、閻魔大王が訊ねてきても言うつもりはない。きっと、光星くんも同じことを考えている。
幽霊になってしまった私の想いは消えてしまうと思っていたが、光星くんに届けることかてきた。それだけでも嬉しかった。
光星くんには幸せになってほしい。この私の気持ちを手紙には込めている。別に私以外の人を好きになってもいい。それで光星くんが幸せになるのだったら。
好きな人の幸せを願うことはごく普通のことだ。
光星くんは泣いていた。ずっと泣いていた。小さい子供のように泣いていた。
私は「そんなに泣かないで」と言う。けれど、光星くんには届かない。私ができることは見ていることだけだ。
残酷だ。好きな人がこんなにも泣いているのに、私はどうすることもできない。何をしても届くことはないのだ。
意味がないのは分かっているが、私は後ろから抱きしめた。少しは光星くんも落ち着くかもしれない。
いや、この行為は私のエゴだ。光星くんは知る由もない。そんなこと分かっている。分かっている。それでも私は抱きしめ続けるのだった。
何分経ったのか分からない。この時間は悠久のように感じ取ることができるくらいだった。
やがて光星くんはポツポツと言葉を口にした。
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