私の後悔
私は死んでしまっていた。
それも呆気なく、走馬灯のようなものもなく、私の人生は一瞬にして終わった。
■
ある夏の日だった。
生理が止まって病院に行くと「おめでとうございます」と言われた。光星くんの子供を妊娠したことに対しての嬉しさが大きかった。
すぐ報告しようとスマホを出した。けど、メッセージで送るのは味気ないように感じた。色々と考えて、サプライズで報告しようと思った。
決めたなら即行動。サプライズ報告するために、光星くんの大好物のハンバーグの材料を買うことにした。
私の作戦は、豪華な夜ご飯を作って驚かせてから妊娠の報告をするというものだ。
材料の買うためにスーパーに行き、入口付近でカートを取ろうとした瞬間だった。
突然だった。
車が突っ込んできた。
何が起こったのか分からなかった。物が散乱している周囲。聞こえてくる叫び声。そして、動かない私の体。
知らない人の「大丈夫ですかっ!?しっかりしてください!!早くっ!救急車!!」が最後に聞こえた言葉だった。
私はその一瞬で命を失った。私だけじゃなくて、お腹の子供も死んでしまった。
その後いつの間にか私はスーパーにいた。足はなかった。そして、体は少しばかり透けていた。
私は幽霊になっていた。
よく怖い話とかに出てくる幽霊は特定の場所から動けなくなっていることが多かったが、私は特に制限もなく自由に動くことができた。
だから真っ先に光星くんの所に向かった。光星くんが私の後を追わないか心配だったからだ。
家は真っ暗で静かだった。カーテンを開けていないようで日光が入っていなかった。不安になった。
リビングには光星くんがいた。私が生きていた時のような元気な姿はなく、ただ無気力に家の中にいた。
それから私はずっと光星くんと一瞬にいた。
光星くんは朝起きて、何もすることなく過ごして、夜ご飯食べて、寝るだけの生活をしていた。
見ていて苦しくなった。こんなの光星くんじゃない。生きる屍のようになっていた。これでは死んでるのと変わりない。
私が光星くんに何かできないのか考えるようになった。
幽霊になってから7日目。
少しの時間なら物を掴むことができるのに気づいた。1日に掴める時間は10分程度。この僅かな時間にできることを考えるしかない。
そうだ。
光星くんに手紙を出そう。
すぐに行動をした。
回りくどくなるが、光星くんの仕事場に手紙を置いた。家にいきなり手紙があると怪しまれる可能性があるからだ。だから仕事場経由で手紙が届いたという設定にした。
書いた内容はただ1つ。
『お墓に会いに来て』と書いた。
もう前を向いてほしかったからそう書いた。
私は死んだ存在。けど光星くんは生きている存在。使い回されているフレーズになるが、私の分までいきてほしい。
その願いを込めた。
同僚から手紙があると言われた光星くんは飛びついた。そして、次の日には電車に乗って私のお墓に向かっていた。
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