⑨麗子side:おさまらないモヤモヤ
山代が明日柏木とデートする。
彼の口からそのくそつまらない話しを聞いた直後から、あたしの全身を言いようのないモヤモヤが支配していて、それは現在に至るまで収まっていない。
あの後、あたしは体調不良を理由にして山代との電話をすぐに切っていた。
もちろん体調不良なんてのは嘘。理由は明白、あれ以上会話を続けていたらこのふつふつと湧いてくる苛立ちを山代にぶつけてしまいそうな気がしてならかったから。
……うん、悪いのは山代じゃないもんね。全部勘違いして勝手に舞い上がってるあの女のせいだ。恐らくあたしがいなくて山代が寂しい思いしている今がチャンスとばかりに言い寄ったとかそんなところでしょ。このあたしですら、山代の声が聞きたいなとか思っちゃったくらいだし、あたしに気がある山代からすればその寂しさは比じゃなかったはず。その心の隙間につけ込むとか、マジでありえない!
「――ってなわけで、第一回勘違い女から山代を守る会を開始したいと思います」
「いやいや一体どういうわけなん!」
ファミレスのテーブル席にて。
あたしが真剣な顔をしてるってのに、サユリが荒々しく声を上げてつっこんできた。
山代との電話の後、あたしは急いでサユリに連絡を取った。
緊急で相談したいことがあるから近くのファミレスに来て欲しいと。
そうして呼び出したサユリに、あたしは何があったのかを説明し、現在に至るわけなのだけど、
「まったく、緊急の相談ごととか言うからこうやって急ぎ駆け付けてあげたっていうんに。てっきり万引き犯に関してかと思ったらこんなしょうもないこととか、ほんま堪忍してや」
呆れたとばかりに眉をハの字にして肩をすくめるサユリ。
ちなみにマミとシホにも招集をかけたんだけど、二人はバイト等用事があるとのことで捕まらなかった。
「は? しょうもないってなに? こっちはめちゃくちゃ真剣なんですけど」
「おおっ、レイコってばこっわ。声のトーンがガチじゃん」
「いい。山代が好きでもない女に言い寄られて困ってんの。山代は優しいから正直に邪魔って言えてないんだと思うし、それに文化祭実行委員を一緒にやってるせいで気まずくなるのを恐れてるってのもありそう。そう言った山代の性格や状況につけいる隙を見出してくるとか、敵はかなりの策士、あなどれないわ。とにかく、友達が困ってるってのに見過ごせるわけがないっしょ」
腕を振り上げ豪語するあたし。
一方でサユリはあたしとは熱量が百八十度真逆と言った白けた視線でドリンクバーから取ってきたコーラをちゅーっと吸っていて、
「もーサユリってば真面目に聞いてる?」
「あーはいはい。ちゃんと聞いてますよー。ようするにレイコは、自分がクラスにいない間に二人が仲良くなったのではと気が気でならないと」
「ちょっ、全然聞いてないじゃん! ……ちなみに話題にでたから一応聞くけど、そこんとこどうだったわけ?」
「んー教室で会話してたり、仲はよさげだったなぁ。まぁあの子がイメチェンして以降、男子ったら年上のチャラ男に~だとか勝手な妄想してあからさまに距離をおくようになったから、それもあってうちのクラスで今一番彼女と仲のいい男子は山代かもしれんね」
「は? なによそれ……ん、ちょっと待って! サユリ、あたしをはめようとした真犯人の正体わかったかも。いるじゃんめっちゃ身近に一人。犯人の条件に該当してなおかつあたしがいなくなることで得するやつが」
「あーはいはい。そのくだりはとっくに終わったから」
「な、なによ終わったって……」
子供の戯言とばかりに軽くあしらおうとするサユリの態度に、あたしは不満げな視線を送る。
まぁあたしも本気で柏木が犯人だとは思ってないから別にいいけど。だって柏木の匂いって、あの子と接した後の山代に会ったら一瞬で気付いたぐらいには特徴的だし、そんな彼女があたしの鞄をまさぐっていたとなればわからないはずないもんね。
「それで、レイコは山代が柏木さんとデートするって知ってどうしたいって言うん?」
「もちろん阻止するに決まってるじゃん。だって山代はこんなの望んでなく本心では不本意なんだからさ。あたしが助けてもらった分、今度はあたしが山代を助ける番ってね」
にっと白い歯を見せてやる気の丈を露わにする。
が、そんなあたしを前に、サユリは何故か頭痛がするとばかりに頭を押さえ、深いため息を吐いて、
「あんなぁ……一応聞くけどそれ、山代本人がそう言っていたわけじゃないんよね?」
「ん? ま、まぁそうだけど。でもそんなん聞くまでもないじゃん。だって山代はあたしに気があるわけで、好きでもないやつにデートに誘われるのはただただ鬱陶しいだけだってサユリも似たような経験あるでしょ」
あたしにとってのゴローがそうであったように、サユリは美人だし、あたしと一緒にいる時もよくそういった声をかけられてウザがっていたのを見ているだけに共感はあるはず。
つーかそんなのクラスで一番男子から告白を受けていたあの柏木が一番わかってると思うんだけど、ようするに恋は盲目ってやつだよね。ほんと困る。
「けど、山代自身から嫌だとか行きたくないとかそう言った類いの言葉を聞いたわけではないんよね?」
「そ、それはまぁ……でもそれは山代があたしらと違って言いたいことをズバッと口にするタイプじゃないじゃん。だからきっと今回も同じように言えてないだけで――」
「でも、ここぞって時は誰よりも強い意思で動いてるやん。ほら、レイコが冤罪で困ってる時にあの怖いレイコの姉ちゃんに真っ向から食ってかかったみたいに」
「うっ、それは……」
「わたしは山代が本気で嫌ならちゃんと断ってると思うんよ」
レイコの諭すような物言いに、あたしはわかるけど納得がいかないと不服のこもった視線を向ける。
「それに今回あんたがこんな早く助かったのは、どうも柏木さんのおかげでもあるみたいやさかい、今回くらいは多少大目に見てあげてもええんとちゃう?」
「……へ? それ一体なんの話し?」
「あ、せか。レイコは知らんかったんやった。今回レイコを助けるための情報共有の場としてうちらイツメンに山代と柏木さんを加えたギャル探偵団なるライムグループを作ったんやけどなぁ。そこでの話しによると、今回のお手柄は山代と一緒にお店に行った柏木さんのお陰らしいで」
やるなぁ委員長と微笑するサユリ。
「は? 山代と一緒に柏木がお店に行った……」
対するあたしはちっとも笑えるような状況ではなかった。
なにそれなにそれなにそれ――なによそれ!
確かに山代からは昨日電話した際、明日ドラッグストアに向かう時柏木も一緒についてくることになっているとは聞いてたよ。
けどあたしは断ってほしいとお願いして、山代は「わかりました」って言ってくれてたよね。
じゃあなに山代はあたしに、嘘ついたってこと……。
そう考えた瞬間、不意に胸の奥にずきっと鈍い痛みが走った。
お、落ち着けあたし。山代にだってきっと理由があったに決まってる。ほら、早くあたしに会いたい一心で猫の手も借りたい的な感じで柏木に頼ったとか。
結果的にはおかげさまであたしは今こうしてサユリとファミレスでくっちゃべることができるようになってるわけで――それは感謝すべきなのかもだけど、そうやって困難を一緒に突破したことで二人の間に変な絆が生まれてるかもしれないわけで――モヤっ
「……もうわけわかんない」
あふれ出る感情がふと言葉となってポロリと零れ落ちる。
と、そんなあたしのことをサユリは何故か子供をみるような暖かな目で見つめていて、
「ひとまず明日は、妨害とかそんなんは抜きに、二人のデートをこっそり観察してみたらどうや? しゃあなしにわたしも付き合ってあげるし」
「は? いやそんなの観察して一体あたしになんの得が――」
「そうすれば鈍いレイコもやっと自分の素直な気持ちに気付けると思えるんなぁ」
茶化すように苦笑を浮かべるサユリ。
な、なによ、その素直な気持ちって……。
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