⑦帰り道柏木さんと
「今日は付き合っていただきありがとうございました」
ドラッグストアの帰り道。最寄りの駅を目指して歩く中、僕は晴れやかな笑顔で柏木さんにお礼の言葉を述べた。
神崎さんはああ言ってたけど、僕の素直な気持ちとしては状況が複雑なだけに塩対応出門前払いも全然あっただけに、誰かが着いてきてくれることは本当に心強かったというか、それだけで大助かりだった。
それに柏木さんが監視カメラに映った犯人の脚に着目してくれなければ、僕は絶対神崎さんのふともものほくろのことを思い出さなかっただろうし、柏木さんは今回のMVPと言っても過言ではないというか、うん、きっと神崎さんだって後で話せばわかってくれるはず。
「へへっ、こんなのお礼を言われるまでもないよ。前にも言ったけど、委員長としてクラスメイトが言われもない罪で処罰されようとしているのが見過ごせなかったというか。それに、山代君には恩があるからわたしにできることなら力になりたいなぁって」
柏木さんがちょっと照れくさそうにはにかむ。
ちなみに神崎さんが万引き犯じゃなかったことについては、理論的に立証できたこともあって、店長さんの方からも学校側に一言連絡をいれてくれるらしい。これで神崎さんは謹慎から解放されることだろう。まぁその証拠として、本人の許可なしにあられもない姿を見せてしまったわけだけど……ほんと、どう謝ろう……。
それと、店長さんにはその変わりとして絶対に真犯人を見つけ出して欲しいと再度の念押しをされた。ここはちゃんと頑張らないと。
「それよりもさー。そろそろあのことについて聞かせて欲しいなぁ」
「へ? あのことと言うのは一体……」
「しらばくれようとしても駄目だからね。山代君が神崎さんの裸の自撮り写真を持っていた件について、きっちり説明してもらうから」
眉をひそめ、逃がさないとばかりの鋭い視線。
「もうまどろっこしい探り合いはなしにズバッと聞くけど、山代君と神崎さんはもう既にそういったお互いの全てをさらけ出し合うような深い関係だったり――実は付き合ってたりするの?」
「ち、違います。これはその、以前色々とあって神崎さんから何かお礼をしたいと言われた際、僕が冗談でえっちな写真を送って欲しいと言ったら本当に送られてきてですね――」
僕はこれ以上変な誤解をされないようにと、事の経緯を懇切丁寧に説明した。
「はえー。そういうことだったんだ。にしても、山代君は恐ろしい人だねぇ。ぱっとみ人畜無害みたいなキャラなのに、人の弱味につけ込んでちゃっかりやることやろうとするなんて」
越後屋おぬしも悪よのうとばかりに柏木さんがほくそ笑む。
「違いますから! 今説明したばかりですよね。別にお礼なんていらないという意味合いも兼ねてこういう時神崎さんのような陽キャならこういった冗談を交ぜるのではと思い立った結果、何故か真に受けられてしまったと」
「そりゃねぇ。山代君のキャラ的に冗談言うような人じゃあないからねー」
「だとしても普通は断りますよね。それとも僕がそう思ってるだけで、ギャルってそういうものなのですか。違いますよね」
「まぁこれに関しては山代君だったからってのが一番でかそうだけど……そっか、神崎さんにとってそれだけ本気ってことなんだ……」
柏木さんは顔を下に向けてなにやらぼそりと呟いたと思うと、何故かふと立ち止まって、
「あれ、どうかしましたか?」
「ねぇ山代君。一つお願いがあるんだけどいいかなぁ?」
そう口にした柏木さんは胸の前でぎゅっと手を握り、真剣な表情をしていて、
「は、はい。なんでしょうか?」
「明日も文化祭実行委員ってお休みだったよね」
「はいそうですね。厳密に言うと、明日は職員会議の場で蛯原先輩達と生徒会による第一回目の文化祭についての話し合いがあるとのことで、僕らのような会議に参加しない生徒は事実上お休みになるといった感じですが」
話しによると、文化祭を開催するかどうかは遅くても一学期の終わりまでには結論を出すとのことらしい。スムーズにことが運べば明日の会議で即オッケーが出るかも知れないとのことだが、万引きの件もあって厳しそうではあるけど、こればかりはもう吉報を祈るばかりだ。
「それでね、山代君は明日の放課後って空いてたりする?」
「へ? ……そうですね、明日は特にこれといった予定はありませんが」
まぁ暇なのはいつものことなんだけど。なんで人に予定を尋ねられた時って、普段は忙しくしてるみたいなニュアンスで返しがちになっちゃうんだろうね。
なんて僕がどうでもいいことを考えている一方で、柏木さんは胸に手を当て真剣な顔で僕の顔をじっと見つめてきて、
「じゃあさ、明日はわたしとデートしない?」
「………………はい?」
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