7章 黒ギャルさんと再び黒幕捜し!?(好感度???)
①神崎さんと万引き
「失礼します」とお辞儀をして生徒会室に入ると中には生徒指導の
「げっ周防!?」
これまで身だしなみやら素行やらで散々お小言をもらってきた経験のある神崎さんが、周防先生の顔を目にした途端苦い顔になる。
「挨拶もせずに入って来たと思えば先生の顔を見るなりその反応とは。相変わらずだな神崎妹。姉とはえらい違いだ」
四十くらいで中肉中背の男性――周防先生がやれやれと苦言を漏らした。
「うっさい。余計なお世話だし」
にしても周防先生はわかるけど、なんで文化祭実行委員長の蛯原先輩までもがここにいるんだろう?
と、予想外な人物の存在に嫌な予感を覚えながら僕と神崎さんは間に机を挟み二人に相対するように腰を下ろした。
「さて、ここに来る間に周防先生にはメッセでお伝えした通りなのですが、今日警察から連絡があった我が校の生徒が行ったとされる万引き品の香水が私の妹の鞄から発見されました」
机の前に立った桔梗さんが神崎さんの鞄から件の香水を取り出し、おさらいとばかりに説明した。
「はぁ……。生徒会長たっての願いということもあって彼女に犯人捜しを一任してはみたが、やはり神崎、お前が犯人だったか……」
「は? やはりってなによやはりって。言っとくけど、あたしは万引きなんてしてなませんー」
頭痛がするとばかりに頭を押さえて呆れるように嘆息した周防先生に、神崎さんが不服だと前のめりに抗議する。
「だったらそこにあるお前の鞄から出てきた新品の香水についてはどう説明するんだ? お前が盗ったからそこにあるんだろ?」
「それはあたしだって知らない内にあたしの鞄の中に入ってってあたし自身が一番驚いてるつーか……。だ、だいたい、たまたまカメラに映ってた犯人像があたしと一致してるからって、そこの香水が盗られた香水だって決めつけんのおかしくない。あたしが予備の香水常用してる可能性だって全然あるわけじゃん。それこそ、これが間違いなく盗品だってどう説明するわけよ」
周防先生の糾弾に、神崎さんが負けじとばかりに応戦する。
すると、そのやり取りを聞いていた桔梗さんがため息をついて肩をすくめて、
「あほかお前は。そんなの、これをお店に持って行けば一発でわかることだろ。在庫の入出庫はレジで全部記録管理されているのだからな。麗子がこれを盗ったかはわからなくとも、これがそのお店から盗まれた物であるのはすぐわかる」
「えっ、嘘。お姉それマジ!?」
手を口に当て本気で驚愕する神崎さん。知らなかったんですね……。
「とにかく、これが本当に盗品かどうかは俺がこの後お店に持って行けば判明することだ。神崎妹も一緒についてこい。幸いなことに先方の店長は温厚な方で、若い頃はつい魔が差してしまうことがあるだろうから商品が戻ってきて犯人がちゃんと反省していると謝罪してくれれば、それ以上咎めるつもりはないと言ってくださっている。示談が完了したとなれば警察もこれ以上介入はしてこないだろう。もっとも学校側としては何かしらの罰を与える必要はあると思っているが、反省文で済むように他の先生に掛け合ってやるよ」
「……い、いやだし」
「は?」
「だってそれ、あたしがやったって認めろってことでしょ。そんなのふざけんなって感じじゃん。あたしやってないんだし。なのに謝りにいけだとかさ、そんなの納得できるわけないじゃん!」
神崎さんが声を荒げる。
「ほう。だったら証明してみせろ。お前が無実である証拠を。残念なことにこの状況では誰がどう見ても麗子が犯人だ。そうじゃないと言うなら、ここにいる皆が納得できるような材料をたたきつけてみせろ。それができなくてただ駄々をこねているだけだというなら、お前の置かれた立場がどんどんと悪化するだけだぞ」
腕を組み桔梗さんが厳しい表情で現実をつきつける。
「お、お姉……。そんなこと言ったって……」
肩を落とした神崎さんがなにかに縋るような目で桔梗さんを見つめるも、彼女の表情は実の姉とは思えないくらいに無表情のままで、
「おまけに事と次第によっては当事者だけの問題で収まりそうにないのが、今回の事件の頭が痛いところなのだよ」
「へ、それは一体どういう……?」
肩をすくめた桔梗さんの愚痴のような言葉に反応した僕は、思わず口を開いていた。
「それについては俺がここに呼ばれている理由だな」
「蛯原先輩が? それってつまり文化祭絡みってことですよね」
「ま、普通に考えてそれしかないよな。君も確か文化祭実行委員だったよな。えっと名前は……」
「山代です。二年の山代育真です」
「山代、俺達は今桜星祭が中止にならないように文化祭実行員皆一丸となって必死に頑張っている。それはわかっているよな」
「はい。僕も一応その一員の一人ですから」
「そこに来て今回の我が校の生徒の不祥事だ。この話しが公にまで広まれば、今お願いして回っている近隣の住人の方々にとって悪いイメージを与えるのは避けられないだろうし、信用と理解が得られないどころか最悪署名の撤回――なんてこともあるかもしれない。桜星高校の生徒の質自体が下がってきてるってな。それにさっき周防先生から聞いた話だと、一部の先生方の中から厄介な事態になる前に早々に文化祭の中止を宣言すべきだって意見も上がっているらしい」
「そ、そんな……」
蛯原先輩が、どうしてこんな時にとばかりに歯がゆそうな表情を浮かべる。
ほんの一部の人の素行不良が、組織全体の落ち度や評価となって真面目に頑張って来た人の成果を全て台無しにする。
そんなの間違ってるし、絶対にあってはならない。
けど、だけど、目の前で犯人扱いされている神崎さんは本当に身に覚えがないわけで――僕はそれを信じてあげたい。
「なにそれ。あたしが非を認めて早急に事態を収束させて学校としての誠意ってやつを示せばなんとかなるかもしれないってこと? ようするにそれって、あたしに桜星祭を成功させるための生け贄になれってことだよね」
「いや俺はなにもそこまで――」
「ああ、そうだ」
取り繕おうと言葉を並べる蛯原先輩の言葉を遮って、桔梗さんがきっぱりと断言した。
「状況が麗子が犯人であると指し示している以上、このまま根拠なくただ否定を繰り返したところでどうなる? お前は反省の余地なしとされ、謹慎・もしくは停学処分になるかもしれないのだぞ。それに麗子が駄々をこねた結果、最悪桜星祭の中止なんてことになってみろ。お前、この学校の大半の生徒から恨みを買うことになるぞ」
「だからって……。てかその言い方、お姉は実の妹の言葉より、学校側を取るんだね」
「あぁそうだ。なんせ私はこの学校の生徒会長だからな。生徒会長として、文化祭を成功させる責務がある」
険しい態度のままはっきりとそう告げた桔梗さんを前に、神崎さんは顔を俯かせてまるで飼い主に見捨てられた子犬のように表情を悲しげに歪ませた。
「…………そっか」
そう、今にも泣き出しそうな顔でぼそりと呟いた神崎さんを横目にして僕は、
――ぷちん。
と、僕のなかで何かが弾けたような音がした。
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