⑥麗子side:もやもやな神崎さん
うーん、どうしよう……。
自分の部屋にいたあたしは、ベットの横を背もたれ代わりにしてスマホ画面と睨めっこしていた。
山代から送られてきたメッセに何て返そうか悩み始めてから、かれこれもう一時間くらいこんな感じで葛藤している。
このままじゃ駄目だ。ずっとお地蔵さん状態から脱出できなさそうだし、とりあえず入力してみてから考えてみよう。おし。
パターン1。
『じゃあもう本当に彼氏彼女になってみる?』
いやいやこれはありえないでしょぉおおお!
だってほら、相手はあの山代だよ。
落ち着けあたし、一旦深呼吸しよ。ふーはー。よし消去と。
パターン2
『はぁ、変なこと言わないでくれる。山代と彼氏彼女とかありえるわけないでしょ』
…………なーんかこれも違う気がするよね。
確かに事実ではあるよ。ついさっきそう決断下したばっかだし。
ただ、ここまでばっさり全否定するのもどうかと思うんだよね。
ほら、この世に絶対って言い切れるモノは意外と少ないわけだしさ。
うーん、消去。
パターン3
『何ならあたしが、山代が今後もそんな気分が味わえるように、可愛い子紹介してあげようか?』
……なに、これ。
自分で打っといてあれだけど、今まで一番ない気がするというか、メッセ見返してるだけで無性に腹が立ってくる。よくわかんないけど。
これは当然消去と。
「――あーもうやめだ、やめ。つーか男子に気使うとか、マジであたしらしくなさすぎる」
スマホをベットの上にぽふっと放り投げると、あたし自身もベットの上に寝転ぶ。
というかそもそも何であたしってば山代とライムしようとか思ったんだっけ。
確か……マミ達との約束に向けて準備してたら、ふと「そういえば山代今日何してんのかなー」的なことが無性に気になり始めて、それと同時に「そういえば山代ってマミやシホとしょっちゅうライムしてるんだよねぇ」とか思い出したら、何かいてもたってもいられなくなって、気がつけば山代とライムしてたんだよね。
……まぁ、何だかんだあいつとやり取りするのが悪くなかったからこうして夜までずっとライムしてたんだけど……。
『今日は一日、僕とライムしてくれてありがとうございました。なんか、本当に彼氏彼女みたいな気分が味わえて夢みたいだったと言いますか、身分不相応に彼女が欲しいなぁなんて思わされちゃいました笑』
最後のこの意味深なメッセはほんとなんなわけぇえええええ。
これ絶対遠回しにあたしのこと誘ってるよね。ワンチャンをあたしの口から引きだそうとしてる的な。
うん、こういう感じのやつ今までもそこそこもらったことあったし。
……まぁ、今までは全部鼻で笑ってスルーしてきたんだけど、なのに何故かこいつのメッセだけは無性にちゃんと返してやらないとと心が訴えかけてる気がしてならない。
というか、マミやシホにもこんな誤解しそうなメッセを送ってるんだろうか。
だとしたら心配よね。あいつってば今みたく時々ナチュラルに口説いてくる節あるじゃん。マミ達が誤解しないか純粋に心配というか。ほ、ほら、このあたしですらこんなドキドキさせられるわけだし……。
自分で言うのも何だけど、見た目のせいで百戦錬磨で恋愛経験豊富と揶揄されがちなあたしが実はファーストキスもまだどころか彼氏いない歴=年齢だったりするわけでしょ。だったらその逆が存在しても何もおかしくないんじゃないだろうか。
そう、見た目陰キャぼっちの山代が、彼女いない歴=年齢などではなく、実は女性慣れしてない陰キャを装って標的の警戒心を薄めて近づくのを得意としてきた、これまで数多の美少女の心を弄んできたヤリチンであっても――
例えば、今はぼっちってだけで、普通に昔は元カノがいたりとかして、あたしと同じよう綺麗だとか歯の浮くような台詞の数々を――
もやっ。
なんだ、この想像したらめっちゃムカムカする感じ。
ま、確かにそうなったら山代は全女性の敵みたいなもんだし、苛立つのもおかしくはないのかな。
あーもーほんとにこの話は終わり終わり。
気を切り替えて、明日のことを考えるとするか……はぁ。
あたしが明日やらなきゃいけないことを頭に思い浮かべると、それはそれで億劫だとばかり自然とため息が漏れ出た。
土曜のゴローとのやり取りで、今度こそあの裏アカの主が、陰口を叩くまでにとどまらずゴロー達にあたしを襲わせようとした犯人が、ついにわかってしまった。
そう、一連の事件の犯人が、サユリ――木村紗有里であることを。
決定打になったのはゴローのあの発言。
「――お前、遊んでるように見えて実は処女なんだってな」
ゴローはこの話を協力者から教えてもらったと言っていた。
そんな話を知っているのは、中学時代から一緒に連んでいてあたしの恋愛事情が実はまっさらなのをよく知るサユリしかいない。
桜星で出会った他のみんなには特段自慢することでもないから聞かれてない以上は口にしてないつーか。神崎麗子が超遊び人のビッチだという悪評が早々に一人歩きしていったのもあって、漫画家が大なり小なり絵がうまくて当然という先入観みたく、う、噂どこまでかはともかくあんな身なりだし処女であることはないだろうって思われるようになったってわけ。
けど何でよりによってサユリなんだろう。一番の気が合う親友だと、あたしの方はそう思っていたのに。
ただ、最近変だとは思っていた。
一緒にいても何だか妙にそわそわしている時があったし。それに、極めつけは塾を理由にあたしの誘いをちょくちょく断るようになったこと。
悪いけど、勉強とかサユリのキャラじゃないし。何か他に理由があるのはバレバレのようなもんだった。ぶっちゃけ、本当に塾なのかすら怪しい。
かなりショックだし。こうなる前に、もっとどうにかならなかったのか感がハンパない。
それでも、人を使ってあたしを襲わせるような所業に出たようなやつと、それも無関係なシホを巻き込んだ行動は到底許せるわけがないし。正直、もう再びくだらないことで笑い会える関係になるのは絶対にムリ。
明日あたしは放課後、サユリと面と向かって喋って決着をつける気でいた。
これはあたしとサユリの問題。
けど――
一応、山代には放課後までに相談しようと思う。
心配してくれるって。
守ってくれるって。
頼りになってくれるって。
ずっと味方でいてくるって。
あいつは爽やかな笑顔でそう言ってくれたから。
……流石に「決め手はあたしが実は処女である秘密を知っていたこと」とか馬鹿正直に打ち明けたりはしないけどね。恥ずかしいし。
おまけにあたしの中でヤリチン山代説が浮上している以上、鼻で笑われたらなんかむかつくでしょ。
うっ、あたしってば、また気がつくと山代のことばっか考えちゃってる。
もーマジでいみわかんない!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます