⑤またまた様子がおかしい神崎さん
日曜の僕は目が覚めると、まるで全身を針で刺されたみたいに地獄のような筋肉痛が襲ってきた。
どうやらスマホに残されていたメモによると、とうとう僕はゴローさんとやり合ったみたいだ。
それ自体はまぁ来るべき時が来たって感じだ。遅かれ早かれ、あの人が神崎さんから手を引く気はない以上、決着はつけなければいけないと思っていたから。
けどあの状態になると、手加減という概念がすっぽり抜けちゃうからなぁ……。
神崎さんへの粗相はとても許せたものではないけど、それはそれとしてゴローさんの容態がちょびっとだけ心配かも。
これは僕の抱えるオーバーヒートという体質がもたらしたある種の副産物。
昔からこの人は許せないと思った相手と真っ向から衝突したり、助けを求めている人を放ってはおけないなど、オーバーヒートモードになって自分の本心の赴くまま行動した結果、大なり小なり似たような乱闘騒ぎに巻き込まれる展開が多かった僕は――
気がつけばいつのまにか、喧嘩がめちゃくちゃ強くなっていた。
経験の積み重ねもあるのだろうが、どうにも僕はそっち方面の才能がずば抜けて凄かったらしい。
何というか、一度スイッチが入ると見えるのだ。
敵の動きや死角、それによって僕がどう動けばいいかの最善手が、スローモーションで僕の脳内に全て入って来る感じに。
ひょっとするとオーバーヒートなる負のアビリティを植え付けられた僕に対する、せめてもの自己防衛能力、ともすれば神様のお心づけなのかもしれないけど……あんまり喜べるべきことではないよね。
それと知らないうちにパワーアップって、何か少年漫画みたいで格好いいって思うかもだけど、自分の身体がよくわからないことになってるって結構恐怖だからね。
起きたら見覚えのない傷があったり、今日みたいにあちこち謎に痛かったりとか、何度経験したことか。
ただそんな僕でも、少なくとも1年以上ぶりになる乱闘はブランクも伴って肉体への相当なオーバーワークになったらしく、ご覧の通り身体が完全に悲鳴を上げてしまったらしい。ま、そうだよね。たぶん僕がやったのは、いきなり準備運動なしで二〇〇メートル泳ぎ切るようなものと似たような行為だろうし。っ! あいたたたた。
そんなこんなで動く気になれず寝たきりで過ごすことになった日曜。
僕は丸一日漫画を読んだりアニメを見てのんびり過ごしつつ――神崎さんとライムのやり取りをして過ごした。
よくわかんないけど、朝起きた時から神崎さんがやたらとライムを送ってきていて、気がつけば一日中やり取りをすることになったのだ。
『おはよー山代。昨日はありがとね。今日はこれからマミとシホと遊ぶ予定! お気に入りのコーデ貼っとくよ』
『マミ達と夏物探し! ねぇ山代はキュートなあたしとセクシーなあたし、どっちを選ぶ?』
『ちょっち一息。シホがこの間ノゾミに教えてもらったとかで初めてきたお店だけど、チーズケーキがマジうんまー! 今度一緒に行こう』
『無事帰宅! ということで戦利品のおさらいに、山代が選んだキュートな神崎麗子さんをここでサプライズ』
『おやすみの前にご報告だよ。昨日、山代がとってくれたぬいぐるみは、あたしの抱き枕代わりにしようされることになりました!』
それも、何故か出先で撮ったと思われる神崎さんの自撮り写真が随時一緒に送られ来る形で。
こ、これは……一体何が起こったんだろう。
そういえば神崎さん、僕が星野さんや根屋さんとライムしてると知った時、とてもつまらなさそうにしてたけど、ひょっとしてこれはそれに対抗してとか――
いやいや何考えているんだ僕は。神崎さんに限ってそんなことあるはずないだろ。
たぶんこれはあれだ。神崎さんなりのお礼に違いない。一日カノジョ持ちの気分が擬似体験的出来る的な。
うん、きっとそうだ。
よし、その厚意にはきちんと答えないと。
『今日は一日、僕とライムしてくれてありがとうございました。なんか、本当に彼氏彼女みたいな気分が味わえて夢みたいだったと言いますか、身分不相応に彼女が欲しいなぁなんて思わされちゃいました笑』
神崎さんからのライムを待つ間、僕は神崎さんから頂いた自撮り写真を今一度拝見していく。
特にこのジェラピケ姿で僕がとったパンダのぬいぐるみを幸せそうに抱く神崎さんとか、一番やばかった。
そりゃクラスの女ボスであるあの神崎さんが、カノジョみたいに振る舞ってくれるのは最高のご褒美だってわかる。けど僕だって男の子なんですからね。僕の選んだ方を勝ってくれたり、こんな無邪気に振る舞われたら、勘違いしても知りませんよ、もう!
ちなみに新田さんは彼氏とデート、木村さんは塾の特別補講で今日は別行動だったらしい。
それにしても神崎さんからの返信が遅いな。
ってあれ、いつの間にか既読がついてる。これってもしかして既読スルーってやつですか。
ショックだなとうな垂れた瞬間、誤操作で会話画面を上にスライドさせてしまって――
「ん?」
神崎さんから送られてきていたとある写真に目が止まった。
「あれ、これって……」
さっき見た時は何も思わなかったけど、改めて見るとおかしいような……。
「ひょっとすると僕、犯人の正体がわかったかも……」
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