③クズ男の再来

「いやー遊んだ遊んだ」


 すっかり空があかね色にに染まった頃。


 喫茶店から出た神崎さんが、伸びをしながら至極満足げな表情でそう告げた。


 喫茶店では学校内のあるある話に愚痴などを談笑して楽しく過ごした。一緒な学校にいるだけあって、意外と共通する話題があるんだなと驚いたというか――いやこれは単に神崎さんのコミュ力がずば抜けてるだけだよね。あんま過信しすぎないようにしないと。


 にしても最近、普通に神崎さんと喋れるようになってきている自分がいるけど、これ冷静に考えると凄いことだよね。


「そうですね。楽しかったです」

「ほんと? ならいいんだけど。なんか結局、お礼のつもりがあたしばっか楽しんでいた気がするからさ」

「いえいえ、そんなこと。普段お一人様の僕にとっては誰かこうして遊ぶってのが新鮮で、それに楽しんでいる神崎さんの姿を見てるだけで僕の方は十分癒やされたと言いますか。今日はとっても充実した休日になったと思います。はい、世の男性にとって美少女の笑顔に勝る清涼剤はありませんからね」


 心の底からのお礼の言葉を述べる。

 が、何故か神崎さんはまるで歯に物が詰まったような神妙な顔つきになっていて、


「……山代さぁ。そういうの、あんまよくないからね」

「へ? そういうのとは」

「だ、だからその、気安く女の子のこと美人だとか褒めるとか――」


 そう神崎さんがいつになくしどろもどろになっていると、


「おーおーお二人さん、久しぶり。偶然だねぇ」


 嫌に粘りけを感じる声が到来した。

 声のした方を振り向くとそこには、ゴローさんが複数の屈強な男達と一緒にチンピラの如き下卑た視線を向けていて、


「いやーほんとうにこの前はどうも。聞いたぜ、あのサツへの電話、ブラフだったんだってな。お前やるなぁ」


 見下すようにあざ笑うと、ゴローさんの仲間達がつられて笑い出す。

 この前より数が多いせいか、優越の滲む絶対的な自信があふれ出ているようだった。


「あんた、何でこんなとこにいるのよ。どうやってあたしらの居場所かぎつけたわけ」

「さぁ、何でだろうな。やっぱり俺とレイコは運命ってことじゃねぇか。ってことで俺はお前に深ーい話があるんだけどさ、もちろん付いてきてくれるよな」


 駄目だ神崎さん。

 この人絶対に話とかそんな穏便なことで終わる空気じゃない。


「か、神崎さんがこいつらについて行く理由なんかどこにも――」

「おっと。お前には聞いてないんだ。黙ってろ」


 ゴローさんへの行く手を阻むように、ゴローさんの仲間が僕の前方を取り囲む。

 神崎さんは僕を一瞥すると、苦渋の決断をするよう重たげに口を開いて、


「……わかった。けど、行くのはあたしだけでいいよね。あんたが用があるのはあたしで、そいつは関係ないでしょ」

「ああ、もちろんだとも。俺はノーマルだからヤローにはこれっぽちも興味ないからな」


 神崎さんが素直に従ったことが嬉しかったのか、ゴローさんは勝ち気に笑って頷いた。


「……じゃあね山代。そういうことだから。つーかこれやっぱ返す。いらない」


 淡々とそう告げた神崎さんが、唖然とする僕にぼんとさっきプレゼントしたぬいぐるみの入った紙袋を渡すと、ゴローさんの方へと向かって歩き出す。


「い、いっちゃ駄目だ神崎さん」

「はぁ? これはあたしの問題だからあたし自身でケジメつけるし。あんたには関係ないことだから。それともあんたにこの場を何とか出来るわけ?」

「…………そ、それは。けど、それでも僕は言って欲しくなくて――」

「とか、言ってるけど。どうする?」

「……ほっとけばいいから。さ、どこ行くのかしんないけど、さっささと案内して」

「へいへい」


 ゴローさん達に連れられ、神崎さん達が去って行く。


 当然僕は追おうとしたのだが――


 行かせないとばかり、ゴローさん達の仲間が僕の周囲をぐるっと取り囲んだ。


「――っ。あの、どいてくれませんか。邪魔なんですけど。というか、ヤローには興味ないんじゃなかったんですか」

「ざんねーん。俺達はお前に興味津々なんだなぁ。この前のお礼をたっぷりしないといけないしな」


 そういえばこの人達どこかで見たことあると思ったら、廃工場の時も一緒にいた人達か。


「さて、ひとまずここだと人の目に付くからあっちに行くとしようぜ。もちろん、お前に拒否権なんてないからさ」


 路地裏に顔を向け、げへへとゲスな笑いを浮かべる男達。


 ――ぷちん。


「ああもうこんなゴミみたいのに構ってる場合じゃないのに」

「は? お前今なんつって? 調子にのるのも大概に――」

「早く神崎さんを助けにいかないと!」

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