⑧様子がおかしい神崎さん
朝の教室。
謎の疲労感が僕を支配していた。
どうやら昨日、また僕はオーバーヒート状態になったらしい。
シホさんが連れさられた廃工場とやらが気になり、様子を窺いにいったら来ないと言っていたはずの神崎さんがやって来て、乱暴されそうになった神崎さん達を助けなきゃと思った直前までは覚えている。
けれど、その後の家に帰るまでの記憶がもうすぱっと抜けていた。
一応寝る前の、ギリ記憶がある時の僕が作成した、重要なことをピックアップしてスマホに書きためておいたメモ。それから神崎さんとのライムのやり取りの内容から朧気ながらに状況は飲めている。
……この前の時は久しぶりすぎて忘れてたみたいだけど、よかったちゃんと今回はメモが作ってあって。
それらによると、どうにも根屋さんは例の裏アカの犯人ではなかったらしい。
ゴローさん達と根屋さんが街で出会ったのも偶然ではなく、この真犯人がゴローさんにもたらした情報によるものって話だ。
現に根屋さんは今日の放課後の予定をあの昼休みのお手洗いに行った際、星野さん含めて残る犯人候補の二人に話していたとのこと。
そして本当の裏アカの犯人は神崎さんをけしかけるよう、喫茶店で優雅にお茶している様子をツブヤッターに写真であげ、それを目にした神崎さんが怒りと焦りで動く様子を楽しんでいたと。
神崎さんから送られてきたライムにもあったけど、まーあんなの目にして冷静にいろって方が無理だよね。
仮に神崎さんが裏アカのつぶやきに気付かずに一日が過ぎたとしても、そこには友を見捨てた薄情な神崎麗子という事実が残るというのだから末恐ろしい。
ふぅ。少し憶測な部分も混じってるけど、整理するとこんなところかな。大方はあってると思うけど……。
メモやライムに残された会話などの情報から、何があったのか大凡の出来事を推測するちょっとした探偵ごっこ。
これも長年この体質と向き合って来たからこそなせる技。こんな苦労、誇らしげに語るのもなんだかなぁって感じだけど。
裏アカの件もそうだけど、どうやらもう一つ面倒な悩みが増えたみたいなんだよね。
恐らく神崎さん達に教えてもらったのだろう、スマホ内にいつの間にかブックマークされていたとあるツブヤッターのページを開く。
アカウントの主は、例のゴローさん。
つまるところ、敵を知り己を知れば百戦危うからずってやつだ。来たるべきに備え、有益な情報がないかを探っていた。
メモには「あの様子だといずれ復讐に来るだろうからその時は返り討ちにしてやれ」とか物騒なこと書いてあったけど、どんだけ血気盛んなんだ昨日の僕は。
「あんさぁ。あたしあんたに余計なことに首つっこまないでって言ってたよね」
「へ?」
いつのまにか背後に立っていた神崎さんがムスッとした顔で僕のスマホを覗き込んでいた。
「そんな見てるだけで吐き気覚えそうなもん見つめて何考えてるのか知んないけど、あたしに恩を売ってワンチャン狙ってるなら、無駄なことだからね」
「は、はぁ」
「……けど、一応助けてはもらったんだし、そこに対してはお礼は言っとく。……昨日はありがと。それなりに感謝してるから」
「へ……あ、うん」
「けど、妙な勘違いはしないでよね。見た目で緩そうとか思ってるかもしんないけど、綺麗とか美人とか言われただけで靡くような、あたしそんな単純な女じゃないし。それにぶっちゃけあたし、恋愛は大本命と出会うまではしないって心に決めてるから。いい、そこんとこ、よーく覚えといてくれる?」
「は、はい。わかりました……」
有無を言わさない圧に、僕は半ば反射的に頷いてしまう。
「そ。わかったんならいい。――ってことで残念でした」
おどけるように手を振って自分の席に座った神崎さんが、僕の目にはどことなく意固地に気丈に振る舞ってように映って、
「ったく。いきなりあんなこと言われたら調子狂うなって方が無理だし」
少し頬を赤らめた神崎さんがそっぽを向き、明後日の方向へと呟く。
えっ、これってどういうこと? 昨日の僕、何言ったの?
ちょ、昨日の僕、何か重要なことメモるの忘れてませんでしたか!?
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