2章 クラスの女ボスのパシリになりまして(好感度20%)
①黒ギャルさんの新たなお願い
「――へ? 僕がパシリとして神崎さんのグループに加わる……ですか?」
それは星野さんと神崎さんが仲直りした次の日。
二限目が終わった休み時間のこと。
三限目の物理が物理室での授業ということで、他のクラスメイトが移動を始める中、さっきの授業中に神崎さんから「教室に残ってて」とライムのメッセが飛んできていた僕が指示通り残っていると、誰もいなくなったのを見計らって神崎さんがそんなことを切り出してきた。
「そ。こうなったからにはもう、あんたにはとことん裏アカ犯人探しに付き合ってもらうことにしたから」
「わ、わかりました」
「具体的に言うと、マミ以外にもあたしの友達と絡んでもらって、どう感じるか知りたいんだよね。悔しいけど、あんたのお陰でマミが白だってわかって、おまけに喧嘩別れせずに済んだのは事実だし。んで、これはそのためにあたしらと一緒にいても不審がられない口実作りってわけ。ぼっちの山代は、クラスでボスみたいな立ち位置にいるあたしと席が隣になったことから目をつけられちゃった的な」
それ、自分でさらっと言っちゃえるとこが神崎さんのすごいところだよね。
この裏表のなさは、神崎さんのよさでもあるけれど、星野さんの件みたく無意識に誰かを傷つけてないかちょっと心配。
「ってことで、ヨロ。まー悪いようにはしないからさ」
「あの、ちなみにそれ、僕には何のメリットがあるんですか?」
「んー学年でも指折りで美人なあたしと、毎日一緒にいられる的な」
それも自分で言っちゃいますかね?
「あたしさぁ、こう見えてかなりモテるんだから。そりゃあ羨ましがられると思うけどなー」
「はぁ。こう見えても何もどう見ても神崎さんはモテるに決まってますよね。少なくともクラスで一番の美人さんなのには間違いないんですから」
何で変なところで謙遜するんだろう。そう僕が若干呆れ顔になっていると、
「へ……ど、どうも」
何故か神崎さんは鳩が豆鉄砲を食ったような顔になっていて――かと思うと、恨みがましい視線で早口にぼそぼそと呟き始めた。
「マ、マジでなんなの。急な不意打ち卑怯じゃん。ほんとコイツといると調子狂うつーか――こほん。ま、冗談はさておき、何か考えといてあげるよ。流石に借りの作りっぱなしは癪だし。ちなみに、一応参考として聞くけどさ、リクエストとかある?」
「リクエストですか……あ、こういう時エロ漫画なんかだと、神崎さんのキャラ的にエロいお礼してくれたりしますよね」
これから神崎さんグループと関わることになる以上、今のうちからギャルのノリに慣れていた方がいい気がする。
そう思った僕は、自分なりに陽キャっぽい返しを考えてみたんだけど。
「…………すけべ」
返って来たのは腕をクロスして体を守るように覆った神崎さんからの、軽蔑するよな白い眼差し。
あれ、思ってたのと違う!?
そんなこんなで迎えた今日の昼休み。
「――ってことで、山代がいつもぼっちで寂しそうなので、何でもしてくれるのを条件にあたしらのグループに新メンバーとして加わえてあげることにしました。みんなよろしくね。仲良くするように」
いつものように神崎さんの席を中心に集ったみんなに向けて、神崎さんがまるで転校生の自己紹介みたく意気揚々とそう宣言した。
というか、そんな海賊船に憧れて船に転がり込んだ少年みたいな台詞、僕は一言もいってないんですけどね。
「よ、よろしくお願いします」
最初くらいはバシッと決めようと勢いよく口を動かしたものの、結局緊張から声が上擦ってしまった。
駄目だ。ギャル五人にじっと見つめられてまともに喉を動かせられる自信がない
「あんた、よりによってレイコに目をつけられるとか災難やなぁ」
神崎さんの席に座る木村さんが、僕の肩をぽんと叩いてどんまいと苦笑する。
「へー。何でもしてくれるってことはこれ、私らも自由にパシってもいいってこと? 山代だっけ? 私にイケメンの男紹介してくれない? ――っているわけないか。あんたぼっちだもんね」
からからと笑い、上下関係をはっきりさせるように僕のことをいじる根屋さん。この人、どうやら自分より上か下かであたりの強さが全然変わるタイプみたい。うへぇ。
「もーシホってばほどほどにしといてあげなよ。山代君がかわいそうでしょう」
悪ノリはよくないとばかり少し目くじらを立てた新田さんが注意する。
オ、オアシスがここに……。じーんと目を潤わせていると、
「騙されるなよいっくん。私だけは常識人――って顔してるけど、いっくんをパシリにすること事態は何も否定してないからなそいつ」
「ま、まーそれは、美少女と一緒にいられる代金として十分お釣りは来るんじゃないかな」
図星をつかれ、うっと顔を仰け反らせた新田さんが視線を泳がせ早口気味に弁明する。
前言撤回。この人も敵だ。
どうやら今のところ、僕が信じられるのは星野さんくらいしか――
「というかマミ、何そのいっくんってのは?」
「え、せっかくうちらのグループに入るんだからあだ名で呼んであげようと思ってさ。山代育真だからいっくん的な」
「何であんた、こんなぼっちのフルネーム覚えてんのよ」
「そりゃあ、覚えるまで返さないって勢いで身体に叩き込まれたから……」
あの、語弊を生むような台詞は……。
星野さんが照れくさそうにはにかむと、話を振っていた新田さんと根屋さんから軽蔑の滲む白い視線が飛んだ。
誰か助けて下さい。僕、ここでやってける自信ありません。
まぁなにはともあれ、星野さんはすっかり元気が戻ったようでほんとよかった。
それと星野さんには僕がこのグループにいる理由について神崎さんの方から先にちゃんと話が言ってるらしい。
隠し事をするのは苦手だけど頑張ると意気込んでいたみたいだけど――この人、天然みたいな部分あるから正直不安だ。
ちなみに学年の綺麗どころに囲まれた僕へに対する他のクラスメイトからの反応はというと、羨ましさなど一欠片もない憐憫と哀れみのこもった視線。ですよねー。
どうやら僕には神崎さんの裏アカ問題を解決するまでは平穏が訪れなさそうだ。
ま、こうなったのは、僕がでしゃばりすぎた結果ってのもあるから、素直に受け入れて前に進むことだけ考えることにしよう。
さて、星野さんが白だと判明した以上、次に怪しいのはこの前のやり取りで星野さんについで不穏な反応を見せていた根屋さんと木村さんだけど……かといって新田さんを外すってのも違う気がする。
昨日の夜、裏アカに新たな書き込みがあった。
『神崎麗子の服のセンスってマジでありえない。セクシーと下品をはき違えてるつーか、毎回かわいいだの似合うだのご機嫌を取らされる身にもなって欲しいよ。ほんと、毎回どれだけ自分の心を偽らなければいけないことに心を痛めていることか』
『まーどうせ将来は娼婦かAV女優だろうし、似合うってのはあながち間違ってないのかw あ、仕事は素っ裸でするから似合うもクソもなかったわwwww』
相変わらずな暴れっぷり。
ほんと、一周回って尊敬したくなるくらい。こんな人が普段は友達面して平気な顔で自分に接していると想像すると、そりゃ神崎さんも心穏やかではいられないだろう。
そういえば僕、神崎さんの私服姿を一度も見たことないけど、どんな感じなんだろうか。
と、想像を膨らませている僕の前で、
「さ。今日こそぱーっと景気づけに派手に遊ぶよー。急に用事が出来たとかノリ悪いやつはモチいないよねー」
神崎さんが勝ち気に笑ってみんなを見回した。
木村さん達は賛同の意を表すように軽く頷いて微笑する。
よかった。この前と違って今日は何もトラブルがなく終わりそう。
けど、この中にあの神崎さん憎しのパリピな裏アカの主が平然と混じっているというのだからほんと――
「もちろん。あんたも参加だからね」
「へ?」
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