④一波乱を目にして
気まずさを引きずったまま予鈴が鳴り、神崎さんグループがどことなく曇った表情のまま各々の席に戻っていった後。
『で、どうだった?』
『まー聞くまでもなく言いたいことだらけだとは思うけど、とりま気付いたことばばーっとあげてってくれる』
自分の席についた神崎さんからメッセージアプリ、ライムのメッセが飛んできた。
前日の打ち合わせ通り直接神崎さんとコンタクトはせず、黙々とメッセを打ち込む。何だろう、傍目から見るとこれ、すごいシュールな絵面だよね。
『あの、聞いていた話と全然違うといいますか……思った以上に皆さんわかりやすく腹に一物抱えていましたよね』
果たしてあれで仲良しグループと呼んでいいのか不思議なくらいには、ギスってたと思いますよ。
『一番最初に星野さん。彼女、神崎さんから聞いてたキャラと全然違うんですけど。ムードメーカーどころか、一番ムードを壊してましたよね』
『それはあたしが一番知りたいくらい。マジわけわかんない。マミがカラオケ拒否るとか、今まで一度もなかったのに……』
デフォルメされた猫がずーんと気落ちしたスタンプが一緒に送られてくる。これが神崎さんの心境ってことなら、付き合いの悪さに苛立っているというより、純粋に友達に遊びを断られてショックを受けてるってことなのかな。
『根屋さんも神崎さんからの所感とは色々食い違いがあるように見えましたし、木村さんの急な心代わりの件もちょっと引っかかりはしますよね』
根屋さんの不満は裏アカにあった恋愛への僻みに通じる節はあったし。
木村さんだって言っちゃ悪いけどギャルには縁遠そうな勉強を理由にしているのは、捉えようによっては神崎さんと距離を置きたいという遠回しな意志表示なんじゃないかって考えられるよね。
一応新田さんだけは不審な点はなかったけど、彼女が腹黒キャラだというならまだ完全に白と言い切るのは早計かも。
まぁ、ことごとく神崎さんからもらっていた情報とは食い違いがある分、そもそも腹黒キャラってのも怪しく思えてくるけど。
『うっ……薄々感じてはいたけど問題は山積みかぁ……頭痛い。こんなこと今まで全くなかったのに。裏アカのヤツだけじゃなく、実はみんな水面下で少なからず不満ためてて、それがたまたま同じタイミングで爆発しちゃったってことなのかなぁ。仲がいいと思ってたのはあたしだけだった的な』
哀愁の漂う内容に、僕は思わずちらりと神崎さんの様子を窺ってしまう。
困り眉で覇気のそがれた曇った顔。それは周囲から傲岸不遜なクラスの女ボスと揶揄される彼女には到底似つかわしくないもので、
『それは僕にはわかりません。けど、神崎さんが信じなくてどうするんですか』
気付けば僕はそんならしくない神崎さんを少しでも元気づけたいとそう送信していた。
『うん、そだね。つーか山代ごときにこのあたしが心配されるとか、何かむかつく』
抗議するようなジト目視線の猫のスタンプ。
ちらっと横目で様子を窺うと、そこには心なしか気が晴れたように吹き出す神崎さんの苦笑した表情。
よかった。少しは元気になってくれたみたい。
『にしても、このペースでやり取りしてっとめっちゃ長くなりそうだし、後で直接話し合った方が手っ取り早そう。ってことで、とりま今日夜電話するからよろ』
締めに猫が『頼んだ!』と、ぐっと親指を立てたスタンプ。
クラスの女子と夜電の約束をするという、まるで青春ラブコメの一ページのような胸熱なシチュエーション。なのにどうしてだろう、ちっとも嬉しさを覚えないのは。
僕が『わかりました』と送るとメッセのやり取りはここで一旦中断となり、それから程なくして五限目の授業である現国が始まった。
先生の講義を話半分に流しながら、僕は今一度状況の整理をする。
神崎さんからお願いされて始まった、友達を装う裏側で神崎さんの悪口を憎しみの思うがまま好き放題呟く裏アカの犯人捜し。
その犯人はグループ内で楽しく遊んでる最中にも拘わらず投稿を行うような、大胆さとしたたかさを持つ愉快犯であり、最初はほんの些細な手掛かりを掴んで核心に迫っていく的な流れだったのに――フタをあけたら聞いていた話とは全然違う、怪しい人間祭りだった。
ムードメーカー(?)だった星野さん。
男を見る目がないのではなく、神崎さんといるからこそそうなっていた、劣等感を匂わせていた山根さん。
中学からの友達で一番気心しれた仲のはずが、急に勉強と柄にない理由で距離を取り始めた木村さん。
……新田さんだけはまだよくわからない。
或いは不穏な空気に便乗して、グループがバラバラになるよう追い打ちをかけたってことも――は、ちょっと妄想すぎるかなぁ? 仮にそうだったとしたら、そんな頭のキレる人間に僕何かが太刀打ちできるとは思わないんだけど……。
さて、振り返ってみてどうするかだけど、僕としては神崎さんと夜電話しても結局グダグダ討論したあげくどれも怪しくて手詰まり――みたいな光景が目に見えているような分、もう少し情報を入手しときたいところだ。極力犯人以外を疑いたくないと顔を曇らせていた神崎さんに、明確な今後の方針を提案する上でも。
というか一度関わった以上、モヤモヤのまま放っておけないってのもある。
うん、善は急げって言うしね。決めた。
今日の放課後は、一番情報と食い違いがあり挙動不審だった星野さんの行動を尾行して彼女の用事とやらを探ることにしよう。
昼休みの星野さんが終始上の空のだった理由が、この用事とやらに関係するのはまず間違いなさそうだし。
どの道遅かれ早かれ星野さんのキャラがぶれてる理由を解明しないことには、神崎グループは揺らいだままで、僕の昼休みに真の平穏が訪れることはなさそうだから。
僕自身の誓いに背く形にはなっちゃうけど、ちょっとだけ頑張ってみますか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます