③神崎グループ
あの後、僕は神崎さんから今日の昼休みに一緒だった裏アカ候補と思われる友達、名付けて神崎グループの詳細について説明してもらった。
あの場に神崎さんの他にいたのは四人。クラスの違いこそあるものの、いずれも同学年で女性徒だ。
一人目:
ツインテが特徴的な彼女はいつもご機嫌でテンションが高く、神崎グループ一のムードメーカー的存在なんだそうな。頭より先に体が動く思い立ったら行動せずにはいられないタイプで、件のカラオケも星野さんの提案から始まったとのこと。
神崎さんいわく星野さんはよくも悪くも脳天気だから、こんなねちっこい真似はしないよりだと思うと語っていたけど、人間裏の顔がどうなってるかなんて計れたもんじゃないから、そこはちゃんと僕なりに見極めていきたい。
二人目:
ショートボブヘアーで活発的な印象の彼女は、神崎さんいわく恋多き乙女らしく、恋バナが大好きで、学校内の恋愛ネタ仕入れには余念がないとのこと。
ちなみに根屋さん自体はあんまり男を見る目がないそうで、付き合っては別れるを何度も繰り返しているらしい。
その情報だけだと、裏アカでの誹謗中傷が男女の関係中心だったのもあり、根屋さんの逆恨み――と取れなくもないが、ま、今すぐ怪しいと決めつけるのは早計だろう。
三人目:
黒髪ロングで眼鏡を掛けた彼女はどちらかというと本が似合うおっとり目な文学少女系という感じで、垢抜けて騒々しい神崎グループにおいては何か浮いているように思えた。
が、神崎さんいわくああ見えてかなりの腹黒だそうで、見た目に騙されるなと強く念を押された。
その情報通りなら、一番怪しいのは新田さんだよね――となりそうだけど、流石にそんなドストレートすぎる展開なら、神崎さんはああも悩んでないに違いない。
四人目:
背中まで伸びた黒髪にはストレートパーマが当てられていて、肌は陶磁器のように白く、神崎さんと対象的な白ギャルという印象の彼女は、神崎さんの中学校からの友達とのこと。
ちなみに、昼休み神崎さんの席に座っていた他クラスの女子というのが彼女だった。
神崎さんいわく、一番の付き合いなのもあり、正直候補から外していいレベルだそうだが、第三者の僕視点から言わせると、だからこそ積年の鬱憤が募って――ケースは十分に考えられる。協力を頼まれた以上は、真相解明に向けて公平に判断していかないと。
説明を一通り聞き終わった僕は、参考にと「今の時点で神崎さんが一番怪しいと思うのは誰?」と聞いたんだけど。
「これがさーてんでさっぱりなんだよね。ま、ぶっちゃけるとさ、ちゃんとした証拠や確信なしに早合点で『こいつだ』って決めつけたくないんだよね。そのまがいなりにも友達を疑うことになるわけだしさ……」
と、歯切れが悪そうにそう返って来た。
そりゃ年柄ぼっちの僕には想像つかない複雑な葛藤が色々とあるんだろう。
それから最後に学校で用がある時はこっちで会話して欲しいと、神崎さんとラインを交換した。
確かに、教室での会話ってなると誰がいつ聞いてるからわからない。おまけに、プロレスラーと将棋指しレベルに接点なさげな僕と神崎さんが頻繁に会話してたら、それだけで奇異の視線を向けてくる人はいるだろうし。
にしても、まさか高校生活で初めて交換した連絡先が女子――それもカーストトップギャルであられる神崎蘭子さんになるだなんて。
人生って、ほんと何が起きるかわからないものだよね。たださ、きっと向こうは施設の連絡先程度しか思ってないのがやるせないけど。
そうして土日を挟み、迎えた次の昼休み。
校内に幾つかある自販機のどれかで購入したのであろう飲み物を片手に教室に戻ってきた神崎グループが、がやがやと談笑しながら神崎さんの席を中心に意気揚々と陣取った。
神崎さんは昨日と同じように、僕の机に腰を下ろす。神崎さんから漂う甘ったるい香水の匂いが鼻腔をくすぐり、頭がクラッときて心臓がドキドキだけど、ちゃんとやることを果たせるように頑張ろう。
僕はスマホを操作するフリをしてそっと聞き耳を立てる。あ、一応適度に手を動かしてゲームに集中してます感はしっかり出しておかないと。
「あーあ、どっかにいい男転がってないかなー」
最初に口を開いたのは、恋バナ大好きの根屋さんだった。神崎さんの席の手間に座った根屋さんがうな垂れるよう、神崎さんの机に顔を埋める。
「ふふっ、シホってば、口を開けばその手の話ばっかりなんだから」
新田さんが柔和な笑みを浮かべる。が、その反応がどうにも根屋さんとしては面白くなかったらしく、
「ふん、いいよねーノゾミわ。幼馴染みの親公認で格好いい彼氏がいてさー。もー前世でどんな徳つんだらそんな最強の幼馴染みが貰えるのよ。……なんかむかつくから、彼氏浮気しろビーム打ってやる。くらえ」
と、丁度みんなの中心に立っていた新田さんに向けて、根屋さんはふてくされた顔で暖を取るように両手をパーにして突きつけた。
「ふー。これで貴女は来週には浮気男に愛想をつかし、私と一緒にいい男捜しに繰り出していることでしょう」
「もー勝手に人の彼氏を浮気男扱いしないでよ」
一仕事終えたとばかり腕で額を拭った根屋さんに、頬をぷくっと膨らませた新田さんが両手をグーに目くじらを立てて抗議する。この人、いちいち仕草がかわいいな。
そんな二人の茶番を前に、神崎さんが腹を押さえてオーバーに笑った。
「あっはは。まーまーシホってば機嫌直しなさいな。そんな恋に恋するシホのために近々また合コンセッティングしてあげるからさ」
神崎さんが任せなさいとばかりに得意げな顔を作る。
しかし、そんな神崎さんの厚意に、根屋さんはどこか苦々しい顔で口を開いた。
「うー気持ちは嬉しいんだけどさー。ぶっちゃけこの面子でいくとさ、私見劣りするじゃん。いいなと思った人はだいたいレイコかサユリ目当てになっちゃうし。そんで妥協していった男でよかった試し一度もないしさー」
余り乗り気になれないと視線を明後日の方向に向ける。
あれ? どうも今の話を聞く限りだと、元情報の男を見る目がないって言うよりも、余りものに仕方なく向かって失敗してるって感じだよね。
――でもそれって、だいぶ話変わってきませんか神崎さん!?
「そ、そか。――んじゃ気を取り直して、今日は景気づけにぱーっとカラオケにでも行こうよ。あたしめっちゃ歌いたい気分だし」
神崎さんが賛同を促すように周囲を見回す。
「あ、ごめん。わたしは塾あるから今日はパスで」
と、軽く手を挙げた木村さんが凜とした態度で否定の意を露わにした。
「へ、塾……? ど、どしたのサユリ? いつになくノリ悪いつーか、今までは『塾ダルい』的な感じで、サボりまくってたじゃん。寧ろサボり時間の暇つぶしにサユリの方からあたしらのこと遊びに誘ってたくせに、ありえない」
間に木村さんの物真似を挟みつつ、何か悪いものでも食べたのかとばかり目を丸くする神崎さんに、木村さんは平然とした表情で言葉を紡いだ。
「まーそうなんだけどさー。ちょっと思うところがあってさ。勉強真面目頑張るのも悪くないかな的な。ってな感じでごめん。この埋め合わせはまたどっかでするから、今日のところは、四人でいってちょ」
手刀を作り、少しおとぼけ気味に謝る木村さん。
「そ。わかった」
神崎さんはつまらさそうに顔を他の人達へと向けた。
「シホ達は付き合ってくれるよね?」
「カラオケなら全然いいよー」
「私も大丈夫かな」
根屋さんと新田さんが軽快に賛同する。
「ありー。マミは? もちろんいくっしょ」
神崎さん達四人の視線が一斉に星野さんへと向く。
対する星野さんはというと、
「はぁ……」
神崎さんの前――僕の前の席に座っていた星野さんは窓の外を見つめ、心ここにあらずといった様子で気を重そうにため息を吐いたのだった。
「お、おーい。マミ? マミさんってば聞いてる?」
「へ……あれ、レイコ何か用?」
「『何か用――』じゃないでしょ。今日みんなでカラオケ行こうって話てたんだけど。もち、いくよね」
「カラオケかぁ……ごめん、うちはいいや。今日ちょっと用事あるし」
「えっ? 珍しー。あのカラオケ魔神のマミが行きたがらないなんて」
「そ、そうかな? ま、うちだってそういう日もあるってことよ」
「えー気になるなー。あ。もしかしてオトコとか?」
「そ、そんなわけないじゃん。シホじゃあるまいし。しょうもない用事だよ」
「しょうもないなら、別にあたしらに話してもよくね?」
「べ、別に何でもいいでしょ!」
神崎さんに粘り強く追及されていた星野さんが、解答をはぐらかすように大声で叫んだ。
その唐突な大声にビクついたクラスメイト達から、何事かとざわめく奇異の視線が神崎グループへと集中する。何だか僕まで当事者みたくなって、妙ないたたまれなさを覚えて肩身が狭くなってしまう。
「ご、ごめんレイコ。ただ、ちょっと今日はガチで用事があって……ほんと、ごめん」
罰の悪そうに顔を俯け、唖然とする神崎さんにただただ平謝りする星野さん。
……何ですか、このつっこみが交通渋滞起こしてそうな状況。神崎さんから聞いていた話とめちゃくちゃ食い違いがありますよね!
言いたいことだらけだけど、ひとまず――
あの、星野さんのテンションの高いムードメーカーって設定は一体何処へ?
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