第7話

 過酷な環境で2週間程過ごしたでしょうか?ようやくにして、保護室と呼ばれる独房のような場所から開放されました。T3と呼ばれるこの病棟の隅にある保護室から出たときの風景はとても広々と感じられました。僕はぐるっと1周病棟内を周ってみることにしました。病棟は保護室を除いて全部で20の部屋があり、内8つは大部屋と呼ばれる4人での相部屋、残りの12部屋が個室となっています。部屋の内外に患者さんがいますが、その様子はそれぞれです。寝たきりのような方もいれば、車椅子の方もいて、明らかにご様子がおかしな方もいれば一見普通の人と変わらない方もいます。普段、普通に生きていて精神科に入院するということは滅多にないことですから、ここでの様子は不謹慎ながら興味を感じるところがあります。とはいえ、環境は芳しくなく、所々の部屋では排泄物の臭いがします。保護室でない方々も僕と同様、排泄物をきちんと処理してもらえない方々なのでしょうか?病棟内を数周したところで私はすっかり飽きてしまいました。ふと目をやると目の前には若い女性が座って漫画を呼んでいました。僕は話しかけてみることにしました。


「こんにちは。何を読んでいらっしゃるんですか?」

「そこに置いてあった女囚人モノを読んでいます。」


 よく見れば顔立ちが整った可愛らしい女性です。容姿で決めることではありませんが、こんな綺麗な方も精神科に入院しているのだと僕は驚きました。歳は20代前半といったところでしょうか?この方もなにか理由があって入院していらっしゃるのでしょう。しかしながらそんな理由は他所に少し好きになってしまいそうな程目の前の女性の方はお綺麗でした。

 

「女囚人モノだなんて結構厳つい本を読んでいるんですね。」

「他に読むものないから。」


 目の前の女性はそう言って笑われました。確かに病棟をぐるっと周って思ったことには、この環境は保護室よりはマシですがロビーのようなところに大きなテレビが一台、面会室と書かれている部屋にテレビがもう1台あるだけで娯楽といっていいほどのものはなく、合計何平米あるかは分かりませんがさして広くもない病棟からはいかなる時も一歩たりとも外へ出ることはできません。唯一の娯楽といえば「人と話すこと」でしょうか。こんなこというのもなんですがこのような退屈なところへ私はまた舞い戻ってくるとは思いませんでした。話をすること以外に娯楽がないのでは仕方がありません。僕は目の前の女性と打ち解けるために自己紹介をすることにしました。


「確かに。ここには何もないですよね。あ、僕小森と言います。お名前をお伺いしてもいいですか?」

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