第4話
私の家について知った人は皆、恵まれていると思うと思う。世間一般的にはそうだし知った人はみんなそういう反応だから。だけど、外から見える姿と実際は全然違うんだ。うちはものすごく厳しいし縛りも強くて。世間が思うよりもずっとしんどい。だから私には居場所がなくて。でも他に行く所もないからよく一人でカラオケに行ってるんだ。歌っていれば発散できるし、何より他の余計なことを考えなくて済むから。歌が私の拠り所なんだ。
「朝宮は最近どう?勉強進んでる?」
「んー、少しずつ…?塾も割と行ってるし。」
「そっか。」
市内中心部の大通り沿いのカラオケ店で、私は親友の高柳梨華と会っていた。梨華とは中学からの付き合いで、学年は梨華の方が一つ上だがお互い共通点があり理解し合えることから、先輩後輩などと変に意識をすることなくお互い親友として気さくに付き合ってきた。今は私が19歳に対し、梨華が20歳。お互いバイトの傍ら、進学を目指し浪人生として大学受験を目指していた。
「梨華はバイトはどうなん?」
「んー結構大変かな。覚えること多いし。私、あんまり覚えることが得意じゃなくてさ。言われたことは全部メモにしないと覚えられなくて。正直気にするし、落ち込むことも多いかな。職場の人が優しくて『梨華さんは書いて覚えるタイプなんだもんね。』みたいに言ってくれてるからなんとかなってるって感じ。」
「職場の人が理解してくれる感じなんじゃね。」
「まあね。」
理解か。理解してくれる居場所があるのはいいよなって思う。正直私にはそんな場所はないから、梨華が羨ましいな。
「あのさ、光代。私、今の職場で働きはじめて思ったんだけどさ。別に大学行かなくてもいいかなって。あ、いや、行きたいのは行きたいよ。だけどさ、正直お金も掛かるし何より私の実力じゃさ、全然届きそうな気がしないんだ。今、私には幸運にも理解してくれる職場があって、居場所があって。まずはそれだけで十分かなって思うんだ。私、働いてみて思ったんだけど、私以外の周りの人も結構器用でない人多いし、何よりみんな思いの外お金持ってないんだなって。結構そこそこで妥協しててさ。なんていうか、そんなんでいいのかなって。」
そんな梨華を見て、私は少し嫌気が差した。あんなに大学行きたいって言ってたのに。周りを見返してやりたいって言ってたのにあきらめちゃうんだ。
「大学はさ、正直通信もあるじゃん?学歴はいるから通信の大学は出ときたいしさ。それは頑張る。なんか思うんだけど人生には諦めて区切りをつけないといけない時があるんじゃないかな?光代もそう思わない?」
梨華の問いかけを私は真正面から拒絶した。私は、思わないかな。そりゃ、梨華は特に縛りもなくて自分の意思で大学に行きたいって思ってたからそういう風に言えるんだと思う。私は違うもん。親が医者、薬剤師、兄弟がみんな医学部に行ってるから私にも行けっていう圧力が強いもん。梨華がそんな風に言えるのは、諦めることが許されるからだと思うんだ。私の場合は、親が許してくれないもん。
「私の場合は親がどうしても縛ってくるじゃん。だから、どうしても私は頑張らないといけないんだ。」
私は、頑張らないといけない。けど、実際は頑張れない。トラウマが、あるから。
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