第3話
「私は頑張ったら頑張った分だけ、評価されて結果がついてくるものだと思っていました。知り合いが一念発起して会社での仕事を頑張ったら今の立場になれたという話を聞いて、自分も頑張ったらきちんと認めてもらえるものだとそう思っていたんです。」
僕は、思いを吐き出した後奥歯をぐっと噛み締めました。悔しさとともに現実を噛み締めているかのようでした。
「けれど、実際はとても難しかったです。確かに元々正社員は難しいと聞いていました。ただ、契約社員にはなれるからと。その契約社員については、給与が日給制だから万が一私が早退をした時に丸一日分、給与が出なくなってしまう。今のパートなら早退の場合は時給で出るからと。過去にしょっちゅう休んでいたことを言われたら、それ以上は僕からは何も言えません。ただ…。」
僕は、一気に吐き出しました。
「入社当初と比べて今は早退はもとより休むこともありません。万が一、休んで一日分給与が出なかったとしても、契約社員の方が時給換算でパートより多いし賞与もある。会社は私の生活のことを案じる言い方をしていますが、実際は契約社員にできない理由を付けているだけのように思います。一方で、部署の所属チームは正社員の方がリーダーなのですがその方は四六時中パソコンの前で一日中ネットサーフィンをされていて、それでいてどんどん昇進していっています。周囲の方は何度注意しても止めないからと言う理由で今は注意すらしていません。業務自体は私と隣の席の契約社員の方で全部と言っていいほど担当しています。その契約社員の方の仕事が回らなくて大変そうな時は私が余裕のある時に引き継いでやっています。現実は、そうなのに正社員の方は、言い方は悪いですがただそれだけでどんどん役職が上がっていく。私が担当した仕事を自分が担当したように見えるように日報で報告するようなその人が、ネットサーフィンをしていても昇進していく。正直に言うと理不尽で許せない気持ちがあります。許せない気持ちがある一方で、同時にこれが社会の現実というものだと思い知らされます。私に学歴があり、障害者でなければ違う評価になったのではないかとそう思わずにはいられません。」
最後は心の奥底にある本音をため息のようにして吐き切りました。
「私は、普通がよかったです。普通に学校に通い、普通に卒業して、普通に就職をする。そうした方が、周囲のみんなの輪の中に入れるからです。学校にも満足に行っておらず、学歴はぼろぼろ。職歴は今の職場を除いてなく、経歴の間にはブランクがある。みんなが当たり前に経験する過去が私にはなくて、みんなの輪に入ろうにも共通の話題がなくて入れない。中途採用だから新卒採用の方が社内で伝統的に経験することも経験していない。パートだから重要な業務は担当することはなく、仕事の話でも共通の話題がない。社内唯一の男性のパートというのも居場所がなく感じる理由の一つで。私は、本当に私は、色んなところに目に見えない壁を感じ阻まれて、前に進みたいのに進めなくて苦しい。でも、他人も会社も変えようがないから、それなら会社を去るしかない。それも分かっているから、会社を辞めようと思います。」
田山さんは一通り話を聞いて下さった後、
「小森さんは気にしそうだからいうけど、うちの事業所と辞める会社との関係性とか気にしなくていいからね。」
と声をかけて下さいました。
窓の外には粉雪が舞い、冬の寒さを感じさせました。
これが2019年の始まり。僕が実際に会社を退職する9ヶ月前のことでした。
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