第16話 傾城傾国の美女
後宮から福珍が姿を消した。福珍を嫌っていた連中は、その朗報を聞いて清々していた。
劉清も本来であればその内の一人となるところなのだが、里華との関係を考えれば清々している場合ではない。
「おい!福珍を探せ!いや、里華殿を探すのを優先に、だ!里華殿の居場所を知る福珍を見つけたら、拷問をしてでも居場所を吐き出させよ!」
里華との結婚を夢見ていた劉清。だが、預かっていた従者の福珍に逃げられたという事は、里華との結婚が破綻した事になる。
「くそっ!忌々しい福珍め!私と合体できなかった事を根に持って、里華殿との結婚を邪魔するとは!」
憤慨する劉清。本来であれば自業自得なのだが、相手があの福珍である。全ての非は福珍にあると、怒りの矛先を醜女にぶつけるのであった。
と、そこで執事が劉清の部屋へと飛び込んで来た。
「劉清様!大変です!!」
「どうした!?里華殿を見つけたのか!?」
「いえ、そうでは無く…民衆による反乱が起きました!」
「は、反乱!?」
劉清は悪政などとは無縁の政治を行なってきた。その為、国内にて反乱など起こる兆しなど、一切無かった。
そんな東上皇国にて民衆による反乱が勃発したとあれば、一大事だ。劉清は急いで窓から外を見るが、確かに都のあっちこっちで煙が上がっていた。
「どういうことだ!?一体、何があったのだ!?」
困惑する劉清に、執事が現状を説明。
「どうやら…里華様が扇動者の模様です」
「はあっ?里華殿が!?」
「里華様は劉清様に
「いや、ちょっと待て!それだけで反乱が起きたとでも!?」
にわかには信じ難い話だ。だが、それは紛れも無い事実であった。
里華はただ、劉清に傷付けられたと、町中で話ただけである。それによって民衆を扇動して反乱を勃発させる。常識ではあり得ない事をやってのけたのだ。
だが、それこそが傾城傾国の美女、里華の持つ力。本気を出せば国や城を傾かせる事など、造作もない事なのだ。
そして今回、里華の面子を潰した劉清がその標的となり、民衆の反乱勃発へと展開。
「ええい!兵はどうした!?」
「無駄です!反乱は民衆だけでは無く、多くの兵士も参加しています!」
一部の後宮に在籍する女兵士を除けば、殆どの兵士は男である。里華の扇動になびく者が殆どであった。
そしてほどなくして暴徒達が後宮へと流れ込み、辺りは戦場に。劉清はその中で命を落とすのであった。
いたるところで煙が上がる東上皇国の都。その上空にてピンクの雲、生娘斗雲に乗った二人が都を見下ろしていた。
「ううう…劉清様…」
愛する劉清がその命を落とした事に、福珍は号泣していた。対して里華は全く動じず。
「まあ、この私の面子を潰したんだから、仕方ないわよね」
「あの…本当にここまでする必要はあったんですか?あの扇動がここまで大きくなるなんて…」
「傾城傾国の美女が動けばこうなるのは当たり前でしょ?醜女には分からないだろうけどね」
「たとえフラれたとしても、命を奪うまではやり過ぎかと…」
「知るか。私は手加減が出来るほど人間は出来てないのよ。そんな事より報酬をとっととよこしなさい」
「…私は劉清様と合体はできませんでしたが?」
「確実に合体できるところまで御膳立てしたでしょーが!それでも合体しなかったのはあんたの責任!なに?ひょっとして、報酬の不老妙薬を渡さないっての!?」
確かに合体は出来なかったが、里華は傾城傾国の美女として、十二分な働きをした。報酬を払わない訳にはいかなかった。
渋々、不老妙薬を渡す福珍。それを引ったくるように奪うと、里華はその場で飲み干した。
「ふむ…確かに効果はあるみたいね」
全身に漲るようなエネルギーが行き渡る。不老妙薬、確かに里華を不老の身体へと変貌させた。
「笑いのセンス以外、何でもこなせる里華様が不老まで手に入れてしまった…」
究極超人。そう、呼ぶにふさわしい存在となった里華。そこで一つの提案がなされた。
「さて、この後はどうするか?」
「え?この後?」
「劉清は無理だったけど、別にイケメンなんて他にもいるでしょ?そいつらと合体する気はあるんでしょ?」
「えええっ!?失恋したその瞬間から次の男を」
「探す気がないなら、別にいいけど…」
「いや、探したいですよ!イケメンリア充と合体は私の夢ですから!って、言うか里華様、まだ私に力を貸してくれるんですか!?」
「普通の生活に飽き飽きしていたところよ?醜女としての楽しみ方も多々あるでしょうし、もう少し付き合ってもいいわよね」
そう言うと里華は変化の指輪で福珍に変身。生娘斗雲に二人の福珍が乗る事に。
「さて、それじゃあ…出発進行!」
「って、どこに向かうんですか?里華様!?」
「さあ?取り敢えず人の多い都に向かってみたら?人が多ければイケメンなんて沢山いるだろうからね」
「人が多いところだと…楽陽王国か趙安帝国か…」
「ああ、そう言えば楽陽王国はイケメン三兄弟ってのがいるそうよ」
「えええっ!?イケメン三兄弟!?」
「三兄弟なら、その内の一人ぐらい福珍の相手をしてくれるかもね」
「わっかりました!それでは楽陽王国に向かって出発進行!」
里華と福珍、二人の処女を乗せた生娘斗雲は、楽陽王国に向かって勢い良く飛び出した。
この二人のうち、どちらが先に生娘斗雲に乗れなくなるのか?
二人の処女による珍々道中記は、こうして始まるのであった。
第一部 完
珍々道中記! 猪子馬七 @chocobanana
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