第12話 攻城戦
「ハーゲン王様!散開しながら進軍していた鈴羅軍が集結し、東上皇国へと進路を変更!その数、およそ三万!我らとの交戦を避けている模様です!」
伝令兵からの報告にハーゲン王はニヤリと笑う。
「クックックッ!二虎競食の計に乗らぬか?ならば我らは進軍を緩めて、鈴羅軍の攻城戦の邪魔になるぬようにしないとな!」
ハーゲン王の指示を受け、軍師が全軍に伝達。進軍を緩め、鈴羅軍の攻城戦を展開させる様に仕向けるのだ。
そう、軍師の提案した通りの展開になっていた。
「我ら八源王国軍が東上皇国軍との挟撃になっていたら、軍を散開して乱戦に持ち込み、隙をついて劉清殿を捕縛。里華殿との人質交換で無事に里華殿を手に入れる。鈴羅王国軍が挟撃を避け、都に攻城戦を挑むなら、進軍を緩めて東上皇国軍と鈴羅王国軍との戦闘に。疲弊した双方を相手に漁夫の利を得る。ふむ…予想通りの展開となって来ましたな」
「このハーゲン王に策を弄するなど、百年早いわ!フハハハハ!」
確かに軍師の言う通りになっている。そしてハーゲン王は思い通りに事が進む事に、何の違和感も感じていなかった。
だが、その全ては里華の策の内であった。全ては里華の予想通りの展開であり、劉清に進言した策の展開、そのままなのであった。
◆
「何なのだ、あの福珍とか言う醜女は…?」
全てが福珍の言う通りの展開となっており、冷や汗を垂らす劉清。
見た目が醜女でありながら、文武に長け、軍師としての手腕も振るうのだ。見た目と中身とのギャップに驚きを隠せなかったが、あの傾城傾国の美女である里華の従者なのだ。寧ろ並みの女を従者にする方がおかしいと、自分を納得させる事にした。
「劉清様!鈴悟軍が都に攻撃を仕掛けて来ました!」
伝令兵からの報告に、劉清は顔色一つ変えずに呟く。
「攻城戦を挑まれても、負ける要素は無い。慌てずにこの速度を維持しながら、鈴悟軍に向かう。それよりも八源王国の動向に気を付けろ。福珍の進言によれば歩みを緩め、漁夫の利を狙うそうだが、戦局次第では早目に動く可能性もあるそうだ」
劉清は福珍の策をそのまま全兵に伝え、そのまま鈴悟軍へと進軍を進めるのであった。
◆
東上皇国の都へと、攻城戦を開始した鈴悟軍。だが、思い通りには事は進まなかった。
「こ、これはどういうことだ!?」
想像だにして無かった戦局に、鈴悟王は驚愕していた。
まず、当初の予定では、都に潜伏している兵に内部から城門を開けさせ、難無く都を手中におさめる手筈だったはず。
東上皇国の城壁は普通の城壁よりも高いため、数年前から兵を忍ばせるよる画策していたのだ。
だが、その兵に全くの動きが見当たらない。50名近い兵と内通者がいるはずなのだが、鈴悟軍の到着後も動きが無い。
それもそのはず、内通者などの存在は里華にお見通し。怪しい動きを見せる者を捕え、拷問の果てに他の内通者の情報をゲット。
劉清が六万の兵を率いて出陣し、その情報を内通者が鈴悟軍へと流した後に、芋づる式に内通者達を捕縛。今は牢屋にて裁決が下るのを待つ身である。
更に鈴悟王を驚かせたのは、内通者達の捕縛だけでは無い。殆ど兵を率いて出陣した筈の都に、何故か万の軍勢が守備兵として配置されていたのだ。これには流石に鈴悟王も声を荒げる。
「な、何故だ!?六万の兵を率いて出陣し、殆ど兵がいない筈では無かったのか!?」
殆ど兵を残さず出陣した劉清軍。その情報によって、鈴悟王は都へと攻め込んだのだ。だが城壁を守る、いない筈の兵が目の前で弓矢を以って応戦。矢が雨の様に降りしきる。
「くそっ!!どこで間違えた!?完全に劉清の手のひらの中で踊らされているではないか!」
矢を必死になって剣で弾き返しながら、鈴悟王は考えるが…その敗因は見えてこない。
と、そこで新たなる伝令がやって来た。
「後方より劉清軍が迫って来ます!」
鈴悟王は攻城戦にて、たかが三万の兵では陥落させる事は不可能だと判断。更には敵の手の内が全く読めない状況では、劉清軍との戦いに勝てる見込みもないだろう。
おまけに八源王国の存在もある。戦うと言う選択は、破滅以外の何物でも無かった。
「城攻めはやめだ!全軍、劉清軍へと向かう!」
城攻めの後方から襲われたら、ひとたまりも無い。かと言って逃走しようにも、劉清軍は殆どが騎馬兵だ。追撃によって壊滅もあり得なくは無い。
仕方なく攻城戦も逃走も諦め、劉清軍へと向かうのであった。
そして劉清軍と対峙すると、劉清より鈴悟王に怒りの言葉が浴びせられた。
「まさか我らとの協定を破り、都に攻め込むとは…これ程の愚王とは思いましませんでしたぞ!」
「いや、これは…」
「言い訳など御無用!すでに勝敗は決している!そなたの軍三万にて、我らの軍とで勝負になると思うか!?」
死に物狂いで戦えば一矢報いる事も可能かも知れない。しかし、
だが、そんな状況で劉清から一つの提案が持ちかけられた。
「鈴悟王よ!もし、命が惜しいのであれば、その方らの軍を我に差し出すがいい!」
「な、なんだと!?」
「八源王国には我がフィアンセの里華殿の身柄を渡す約束で、味方になって貰った。このまま八源王国と共に貴様らを殲滅しても、私はフィアンセを失う事になる!よってその方らが共に八源王国と戦うのであれば、今回の攻城戦については目をつぶってもよい!」
思わぬ展開。再び共闘して八源王国と戦おうと言うのだ。協定を破った鈴悟軍としてはバツが悪いが他に手は無い。
「…分かった。共に八源王国を打ち負かそう」
「では、人質として鈴稚の身柄をこちらに渡してもらおう。そして先陣を切り、八源王国軍へと突撃せよ!」
人質になる事を抵抗する包帯女の鈴稚は、父である鈴悟王からの命令により、無理矢理人質として劉清の元へと差し出された。
娘の命など、道具としてしか見ていない鈴悟王。本来であれば人質としての価値など無い。
それでも一度協定を破った事へのペナルティが必要なので、劉清も鈴悟王も納得した上で人質の受け渡しがなされたのだ。
そして鈴悟軍を先頭にした鈴悟、劉清軍が八源王国軍へと進軍を開始した。
「しかし…我らの軍は併せて九万。八源王国五万とでは、数が優位であれ勝算は…」
先陣を切り、死者と負傷兵が多数出るであろう鈴悟王は、戦闘回避を必死に考えていたが、良い案は思い浮かばなかった。
そんな鈴悟王の様子を見て、劉清は現状を正確に判断して伝える。
「我らは九万では無い。八万だ。六万の兵で伏兵を殲滅した後、一万の兵は馬から降りて歩兵として帰還。都の守備兵として活躍して貰ったのだ。余った馬には荷物を載せて率いたので、遠目には六万の兵に見えたがな」
「そ、そんなカラクリが…」
突然わいた守備兵の出所の種明かし。見事なまでの策であったが、もちろん策はそれだけでは無い。
「これより八源王国軍に突撃を開始するが、敵兵は統率を失い混乱状態に陥る。そこを攻めれば確実に勝てるだろう」
どの様な策かまでは語らなかったが、劉清の戦い方を見た限りでは確実に八源王国軍を混乱状態に陥れるのであろう。
これ程の男を相手に軽率に戦いを挑んだのは、まさに愚王の証だと、鈴悟王は恥じた。
そして少しでも名誉挽回する為にも、八源王国との戦いで奮迅すること固く誓うのであった。
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