第10話 伏兵



「どうやら劉清は本気で動く様だな」


 間者からの報告により、劉清が自ら全軍を率いて出陣すると、鈴悟王の元に報告が入った。

 ならば劉清の策に乗ったフリをして、自身の策を決行するまでのこと。


「おい、軍師!現在の戦局は!?」


 鈴悟王の呼びかけに軍師は静かに答えた。


「八源王国がおよそ五万。我ら鈴羅王国軍が四万。全軍を率いる東上皇国はおよそ六万の兵士数と思われます」


「ならば我らがこれより八源王国軍に向かって全軍で進軍を開始すると、劉清に伝達だ。ヤツの二虎競食の計に乗ったと思わせる為にな!」


「ははっ!」


 伝令兵が鈴悟王の指示に従い、迅速に劉清への書簡を用意し早馬を走らせた。


 それを確認した鈴悟王。続いては全軍へと指示を出す。


「全軍、八源王国軍に向かい進軍…すると見せかけ、軍を分けて進軍だ!闇夜にまぎれ、軽装歩兵一万で迂回しながら東上皇国へと進軍!一万の兵は伏兵として、手薄になった都を陥落させろ!」


 迅速に動ける伏兵として、軽装歩兵一万を選出して闇夜にまぎれて出陣させた。


「残りの三万の兵は数が減った事を悟られぬ様、散開して進軍。八源王国軍の10里手前にて集結して待機!伏兵による東上皇国の陥落の報を受けたら、ハーゲン王の目当ての里華とやらを差し出し、撤退を要求。後は陥落した東上皇国に我が軍を進軍させ、一万の軽装歩兵と合流。劉清の六万の兵も籠城戦にて撃退!兵糧の足らぬ六万の兵など、一週間と経たずに士気が下がり、使い物にならなくなるからな。あとは敗戦の将である劉清の首級を要求すれば、劉清軍は瓦解して勝手に自滅!うむ、我ながら完璧な策だ!」


 劉清の二虎競食の計に乗ったフリをし、自身の策によって東上皇国を狙う。

 確かに本来であれば東上皇国に勝てる戦だ。


 だが、劉清の元には福珍に化けた里華がいる。その里華の掌の中で踊らされてる事など、知るよしも無い鈴悟王は勝利を確信して高笑いするのであった。







「準備は整ったな?それでは全軍、進軍を開始する!」


 劉清の掛け声と共に、東上皇国から六万の軍が進軍を開始した。

 騎馬兵をメインとした突破力のある劉清軍。精鋭揃いだ。


 この軍が向かうのは、八源王国軍と鈴羅王国軍が対峙している戦場…ではなく、明後日の方角へと進軍を開始したのだった。


「あの、劉清様…こちらで本当によろしいのでしょうか?」


 一人の将が劉清に進言。だが劉清は迷いも無く答えた。


「構わぬ!我らが策にて二国を打ち倒す!その為にはまず、掃除をしないとな!」


「掃除…ですか?」


 詳しい情報は伝えられていない為、将は頭にハテナを浮かべながら首を傾げる。もちろん、どこに間者がいるか分からない為の箝口令だ。


 そして、そのまま真っ直ぐに劉清軍は進軍を続けるのであった。







 鈴羅王国軍の伏兵一万。軽装歩兵による進軍は、滞り無く東上皇国へと向かっていた。


「この先が東上皇国の都だ。間者による内部からの破壊工作が上手くいけば、難無く城門から中へと侵入し、都を制圧できる!もし、破壊工作が失敗に終わっても、敵の兵は数百しかいないと報告を受けている。我ら一万の兵であれば確実に陥落させられるだろう!」


 伏兵一万を指揮する鈴羅王国軍の将が、兵に説明する。我らの勝利は目前だと。確実に勝てる戦いなのだ、と。


 だがそんな将の発言を遮る様に、一人の兵士が声を上げた。


「前方より砂煙を確認!恐らく騎馬隊がこちらに向かって来ています!」


「なに!?まさか、我らの伏兵の存在に気付かれたのか!?」


 伏兵の存在がバレたのであれば、新たなる策を考えなければならない。

 将は万が一、伏兵が発見された時の為に、鈴悟王より授かった策を兵に指示した。


「我ら一万の兵を二分する!一方は敵の動きを封じ、残りの五千の兵は都に攻め入り陥落させよ!たとえ五千の兵でも敵の城壁は手薄!伏兵が見つかったところで我らの勝利は揺るがない!」


 将は士気を高め、進軍を再開した。見つからぬ様、ゆっくりとした進軍から、軽装歩兵の特性を生かした機動力重視の進軍に切り替えた。


 そして敵軍と対峙。そこで将は初めて現状を理解した。


「な、何だこれは!?」


 対峙している敵の数はおよそ六万。劉清が率いる精鋭騎馬兵だ。


 本来であれば鈴悟王が率いる軍に合流する為に、別のところへと向かってるはずの軍が、何故か伏兵と対峙する事に。そう、鈴悟王の策は読まれていたのだ。


 そして先頭にいる総大将、劉清が声を上げる。


「鈴羅王国軍は全軍、八源王国軍に向かって進軍したはず!つまり、貴様らは鈴羅王国の武器甲冑を纏う、偽鈴羅王国軍だな!?」


 劉清が伏兵達に向かって問いただすが、正直な事など言えるわけが無い。

 我々は手薄になった東上皇国を攻め入る為の伏兵です、と…素直に言えば同盟が嘘だった事になるのだから。


 返答に困る将に対し、劉清は言い訳を考える時間すら与えなかった。


「奴らは鈴羅王国軍に化けた八源王国軍である!さあ、殲滅せよ!全軍!突撃ーーーーー!!!」


 騎馬隊がメインの六万の兵が一斉に突撃を開始した。

 対して伏兵達は機動力を重視した軽装歩兵。戦闘力は騎馬隊のそれとは比べられない程に低かった。


 六万と一万の戦力差。更には騎兵と軽装歩兵という戦闘力の差。トドメと言わんばかりに、騎兵隊の突撃により伏兵達は陣形など組めぬほどの混乱状態に。

 戦いと呼ぶのが烏滸がましい程の、一方的な虐殺として戦闘は終結するのであった。



「次はこっちだ!全軍、進軍を再開するぞ!」


 劉清の号令により、劉清軍は鈴悟王が率いる鈴羅王国軍へと進軍を開始。


 劉清軍は殆ど負傷兵を出さずに敵を殲滅した為、士気は更に高まり進軍する。


 目指すは鈴羅王国軍の後方。そう、まるで八源王国軍との挟撃だと思わせる様な進軍によって、鈴羅王国軍へと合流に向かうのであった。


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