第9話 策と策



 福珍に化けている里華からの策は、こんな感じであった。



「まず、鈴羅王国が攻め込んできたら、勝ち目はありません」


「ふざける!我が軍とて精鋭揃い!鈴羅王国などに一歩も引かぬわ!」


 憤慨する劉清だったが、里華は淡々と説明する。


「まず、王女である鈴稚とやらが、たかが鉄山靠を喰らっただけで国王と共に軍を率いてくるのは、おかしいんですよ」


「愛娘に鉄山靠を喰らわされたら、普通の親なら激怒するだろう?」


「はい。確かに、普通の親であれば。しかし、鈴悟王は普通の親ではありません。他国を侵略する為に虎視眈々と機会を窺う謀略家です。娘である鈴稚も外交交渉の一つとしてしか、見ていないでしょう」


「ならば何故、攻め込んでくる?娘を道具としてしか見ていない様な親なら、鉄山靠で戦争勃発などあり得ないだろう!?」


「ですから、鈴悟王が求めているのはきっかけです」


「きっかけ?」


「はい。後宮に送り込んだ鈴稚が妃になれば、労せずに東上皇国を乗っ取れる。しかし、それが叶わなければ、別の手段によって国を乗っ取る。今がまさに、それです」


「…つまり、鉄山靠は攻め込む為の手段の一つだと言いたいのか?」


「そうです。そして東上皇国に攻め込んでも勝てる算段がついたからこそ、こうして鉄山靠を理由に攻め込んできたのです」


「何故だ!?我らの軍とて鈴羅王国に引けを取らぬだろうに!それも篭城戦となれば我らが有利!兵糧の備蓄だってあるのだ!負ける要素など…」


「数年にかけて都に間者を送り込めば、城を落とすのは可能ですよ?」


「そ、それは…」


「こちらから軍を派遣し、手薄になったところを内側より城門を開け、兵糧に火を付ければ簡単に落城となるでしょう。その準備が整っているからこその、開戦です。無闇矢鱈に敵の軍に攻め込めば、帰る城を失い敗走する先すら失う事でしょう」


「ならば、どうすればいい!?お前には策があるのだろう!」


「策を申し上げるのは構いません。ですが一つ、お約束を願います」


「…なんだ?申してみよ」


「今回、二国からの軍を見事撃退できた暁には、後宮での序列1位を約束して下さい」


「おい!いま、そんな話をする時か!?」


「はい。とても重要な事になります。私も一ヶ月という期間の中で、必死になって頑張って来ました。それが報いる事ができぬのならば…」


「分かった!分かったから策を申せ!もちろん、まともな策であるのだろうな!?」


「私も劉清様との合体がかかっていますので、本気で行かせてもらいます」


「…そうか。合体しなくちゃいけないのか。…まあ、いい。それで?策とは?」


「まず、鈴羅王国に書簡を用意しましょう。内容は…」


 そこで用意された書簡に劉清直筆の文が書き込まれる。


「この書簡で本当に撃退できるのか?」


 心配する劉清に、里華は素直に答える。


「いえ、恐らくは二虎競食の計は見破られるでしょう」


「じゃあ、ダメじゃねぇか!」


「相手の軍には軍師がいるでしょうから、並の策では見破られるでしょう。ですから見破られた上で、敵がこの策に乗るように仕向けるのです」


「…つまり?」


「こちらから派遣する軍を…都の全軍をもって出陣いたします」


「そんな事をしたら都が陥落するではないか!」


「東上皇国の城壁は他の国の城壁と比べて、かなり高い部類になります。最低限の兵士…500名程の兵士さえ残しておけば、敵の侵攻も数時間は耐えられるはずです。もちろん、間者の存在もありますので、武力よりも信義の厚さを重視した兵を選出して下さい」


「…かなり危険な策だな。それでその後は?」


「全軍で出陣すると、兵士達に通達し、すぐに準備を進めれば、間者から鈴悟軍にその情報が伝わるでしょう。全軍を出陣させ、東上皇国が本気で戦う意志があるのだ、と」


 そして、その後の策を里華は劉清へと伝えた。聞き終えた劉清はしばし考えたのち、その策を採用。

 劉清は急いで出陣の準備を開始するのであった。


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