第7話 疫病神
「この疫病神が!」
劉清の元へと連れて来られた福珍…に、化けた里華。縄でグルグル巻きにされ、身動き一つ取れない。
そんな姿の福珍に、劉清が暴言を吐き捨てるのだ。福珍本人であれば、惚れた男からの暴言に号泣するところだろう。
だか、中身は傾城傾国の美女である里華なのだから、暴言など気に留めるそぶりすら見せつけない。
「疫病神とは、ひょっとして里華様の事ですか?確かに里華様が来てから、二国に攻められるのだから、疫病神呼ばわりは的を射てますが…」
「里華殿では無い!貴様だ、福珍!貴様が鈴稚を鉄山靠で吹き飛ばしてくれたお陰で、鈴羅王国が攻め込んで来たのだ!」
「これは異な事を。ならば里華様が鉄山靠を繰り出したら、同じ様な展開になるとでも?」
「里華殿が後宮で鉄山靠を繰り出すわけがないだろう!貴様の様な者と一緒にするな!」
「そうですね。里華様じゃないからこそ、鈴羅王国は攻め込んで来た。そういう事ですね?」
「…?どういう意味だ?」
「鈴稚とやらが、里華様に負けたところでわざわざ国元へと帰り、親である国王に泣きついて軍隊を派遣するなどあり得ません。里華様が相手であれば、完膚なきまでの敗北によって、その場に屈するでしょう。ですが、私の様な醜女に敗北したとあらば、プライドが許さなかったのです。親に泣きついてでも私に勝ちたい。それが鈴稚とやらの考えでしょう」
「それが分かっているのなら、話は早い。無駄に争いなど起こしても、何の利益もない。お前の首を鈴羅王国に届けて、戦争を回避する。さあ、その短い首を差し出せ!」
「私の首をはねたところで、八源王国の方は進軍を止めませんよ?何故、ハーゲン王が攻め込んできたのか、お分かりですか?」
「それはまだ確認中だが…」
「原因は里華様ですよ」
「なにっ!?」
「ハーゲン王は幾度と無く、里華様へとアプローチしていました。そして他の男に取られるぐらいなら、男を八つ裂きにしてやると、いつも息巻いてました。ほとほと疲れた里華様は劉清様の噂を聞きつけ、こうしてやってきた訳ですが…それがハーゲン王の耳に入り、こうして攻め込んで来たのでしょう。つまり、疫病神は里華様。私ではありません」
福珍の姿をしている里華は、スラスラと御託を並べて劉清に事情を説明。そう、それはまるで他人事の様に…。
「もし、八源王国の侵攻を止めたいのであれば、里華様を見つけて差し出せば宜しいかと。それでハーゲン王は引き上げるでしょう」
「いや、それは…」
頭に血が上った劉清であったが、里華の事を思うと流石に冷静さを取り戻した。
福珍の首を差し出したところで事態は好転する訳ではない。鈴羅王国は兎も角、里華の居場所を福珍しか知らないのでは、八源王国の侵攻は止まらないだろう。
いや、里華の居場所を知っていても、劉清はハーゲン王に差し出すつもりはない。劉清はすでに里華の虜。国が傾こうとも、里華の為なら戦争に発展する事も辞さないだろう。
思い悩む劉清。と、そこで里華は一つの提案をした。
「まず、私の身柄は鈴羅王国へと差し出して下さい」
「元より、そのつもりだったが、八源王国の方はどうする?」
「そちらは里華様にお願いいたしましょう。劉清様の為に人身御供となるのも致し方ないと、その身をハーゲン王へと捧げてくれるかも知れません」
「ふざけるな!私の里華殿を、あの様なハゲオヤジに差し出すものか!福珍、貴様の様な醜女と一緒にするなよ!里華殿は未来の私の妻!断じて!誰にも渡さぬからな!!!」
「…ならば、戦うしかありませんね。里華様の為に血を流すことも厭わないなら、他に手はありません」
「ふん。望むところだ!」
「しかし、二つの国と戦うとなると、被害は甚大になるかと思います。ここは一つ、我が計略で敵の戦力を削るのが宜しいかと思います」
「計略だと?」
「二つの勢力で争わせる…すなわち、二虎競食の計です」
里華は劉清へと戦争に対する策を進言。聴き終えた劉清も、その策以外に方法は無いと判断し、里華の秘策で戦いに挑むことを決意するのであった。
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