第6話 里華の誤算



 ついにお笑いコンテストが始まった。トップバッターは福珍に化けている里華。

 誰もが固唾を飲んで見守っている。連日の福珍に化けた里華が無双したお陰で、今日もまた無双するのではと思っているからだ。


 そんな中、苦虫を噛み締めるが如く、困惑している者がいる。劉清だ。

 このお笑いコンテストで福珍が優勝したら、自ずと後宮内での序列が1位になる。つまり、合体だ。

 里華との合体を夢見て迎え入れた福珍と、何故か合体する羽目に。これは流石にいただけない。


 何とかして合体は阻止したいところだが、あの福珍の見た目からして、お笑いコンテストで優勝の可能性は高いと思われる。

 絶世の美女ならいざ知らず、醜女である福珍なら、存在そのものがギャグだ。ドッカンドッカン笑いが巻き起こってもおかしくない。


 一応、他の審査員には極力笑わない様指示を出しておいたが、相手があの福珍では焼け石に水。ドッカンドッカン笑いが巻き起こる事は不可避だと判断。


「…くそっ!何とかならないのか!?」


 万策尽きた劉清は何とか打開策を模索したが、一向にいい案は思いつかなかった。


 そして福珍による一人漫談が始まった。静まり返る会場の中で、福珍に化けた里華の声が響き渡る。


「隣の家に、囲いが出来たんだってね!」


へいベルハウスってやつだね!」



「「「「「……?」」」」」


 一同は静まり返った。え?何それ、と言わんばかりに。


 本来であればドッカンドッカン笑いが巻き起こるところ、一向に笑う気配が無い。

 余りにも高次元のギャグ故に、凡夫には理解出来なかったのだと判断した里華は、仕方ないので別のギャグを立て続けに披露した。


 …しかし、その全ては不発。ただ、ただ、滑り倒すだけであった。

 特に『お久し鰤大根!』や『ラーメン、つけ麺、私海鮮焼きそば!』などでは、ブリーザドが吹き荒れたのかと思われる程の滑り倒し。



 こうして、無双し続けた里華の連勝記録はストップし、完全なる敗北を喫するのであった。







「何なのよ、あいつらは!人の渾身のギャグを冷めた目で見下しちゃってさ!」


 部屋に戻ると、ブチ切れる里華。人生初のダダ滑りに憤慨中だ。


 そんな里華に、白猫に扮している福珍からツッコミ。


『あの…里華様…あれでうけると思う方がおかしいですよ?』


「何言ってるのよ!いつもならドッカンドッカン笑いが巻き起こるところよ!?こんなクソ田舎、笑いのレベルが低すぎて私のギャグが理解できないのよ!」


『いや、いつもの里華様の姿なら、そう言った発言をしても笑いを取れるかも知れませんよ?美人がギャグを言うってのは、ギャップがありますからね』


「なによそれ?まるで私にギャグセンスが無いみたいな言い回しじゃない!?」


『そりゃ無いでしょ?むしろ完全無欠の美女より、欠点があった方が好感は持てますよ?』


「うるさい!私は完全無欠の美女なのよ!こうなったらあいつら全員、笑い過ぎて腹がよじれるまで、私のギャグを聞かせて…」


『ちょっと待って下さい!目的が変な方向へと向かってますよ!?私と劉清様との合体はどうするんですか!?今日、合体出来ると思ってた、私の立場は!?』


「あなたの立場より、私のメンツの方が大切でしょ?滑り倒しておめおめと引き下がれるかっての!」


『ダメですよ!期限は一ヶ月しか無いのに、つまらないギャグにこだわってどうするんですか!』


「つまらないって言うなー!私のギャグは…」


 と、そこで里華が押し黙る。表の様子が何やら騒がしいからだ。


「何やら騒がしいわね?ちょっと福珍、様子を見て来なさい」


 確かに後宮内が慌ただしいので、白猫の姿の福珍が部屋から出て様子をうかがう。

 暫くして、情報を持ち帰った福珍が大慌てで報告。


『た、大変ですよ里華様!隣国から軍隊が攻めて来ました!それも二国から!』


「はあ?戦争だっての?一体何があったってのよ!?」


『一つはここから南の鈴羅りんら王国!もう一つは西から八源はげん王国!どちらも万の軍勢を率いて攻め込んで来た様です!』


「八源王国?ああ、あのハゲオヤジの国ね」


『え?知り合い何ですか?』


「八源王国のハーゲン王って、私に何度も求婚を迫る、ハゲたエロオヤジよ。齢、60を超えてるのに、よく私と結婚しようと考えるわよね?」


『…ひょっとして、里華様かこの国で劉清様との結婚をほのめかした事が原因って事は無いですかね?』


「ああ、あり得るわね。あのハゲ、自分以外の男と結婚するなら、そいつを八つ裂きにしてやるとかほざいてたし。この国にいる間者から私の事を報告されたら、軍隊を率いて攻め込んできても、おかしくは無いはずよ」


『やっぱり!』


「まあ、私も傾城傾国の美女だからね。こういうことが起きるのも、仕方のない事よ。でも、南から攻めてくる鈴羅王国の事は知らないわよ?そっちは完全に私の管轄外だし」


『…鈴羅王国の第七王女、鈴稚様はこの東上皇国の後宮にいるんです』


「鈴稚?どこかで聞いた名前ね?」


『里華様が鉄山靠を繰り出した相手ですよ!怒って国に戻って国王に報告し、軍隊を率いて攻め込んできたんですよ!』


「ああ、あの咬ませ犬の?やだ、それじゃ二国から攻められてるのは、私の責任ってこと!?」


『そうですよ!里華様が招いた事ですよ』


「まあ、今更慌てたってしょうがない。さあ、とっととずらかるわよ」


『ちょっと待って下さい!え!?逃げるんですか!?全てを放り投げて!?』


「当たり前でしょ?何で私達が戦争に巻き込まれなくちゃならないのよ!そもそも、ここにいる連中の心配より自分の…」


 と、そこで里華のいる部屋のドアが蹴破られた。


「福珍!貴様を逮捕する!」


 後宮の女警備兵数名が里華の部屋へと押し入り、そのまま捕縛。

 その身柄は劉清の元へと引き渡されるのであった。


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