第5話 福珍無双
後宮にて料理コンテストが開催された。イベントの発起人はもちろん、福珍に化けている里華だ。
優勝した者には序列のランクアップと言う、後宮のメンバーにとって喉から手が出るほどの報酬だ。
だが、後宮にいる者たちは、ある程度裕福な環境に育った者たちばかり。
貴族や他国の王族から派遣された、東上皇国の王族になるべき人材。それが後宮という存在なのだ。
それ程の立場の者の中で、料理に長けている者は稀である。自身で料理をするよりも、雇った料理人に料理を作らせるのが一般的だからだ。
料理コンテストが開催されても、活躍できる者はいない。それでも、このチャンスをモノにしようと、里華を含めた20名がコンテストに参加。
誰もが慣れない料理に四苦八苦。審査員は劉清と4人の貴族で行われるので、下手な料理など出せるわけもない。
一夜漬けの料理の腕を、必死になって奮っていた。
そんな中、たった一人だけ、難なく料理を作る猛者がいた。福珍に化けている里華である。
まるで身体の一部と思わせる程の包丁捌きで、みるみる食材は均一の大きさへとカットされ、鍋へと投下。
そして中華鍋を軽々と振り回し、強火の炎であっという間に調理完了。
出来上がった料理は早速、劉清達審査員の元に。とても
「う、うまい…」
一口食べた劉清が思わず声を漏らした。どんな料理を出されても、福珍の料理は低評価すると決めていたのにも拘らず。
劉清を含めた5人の審査員、全てが瞬く間に里華の料理を平らげた。それを見た里華は、満面の笑みを浮かべて釘を刺す。
「私のこの料理、低評価するなら構いません。ですが、里華様が認めたこの料理を低評価したとあれば、それ以上の料理を里華様に振る舞わなければならない事、御了承下さいね」
ぐうの音も出ない。劉清の考える事などお見通しである。
この料理を卑下して、それ以上の料理を作れる料理人など、少なくとも東上皇国には存在しないだろう。
ならば答えは一つ。正当に評価するしか無い。
「…他の者の料理を食べるまでもない。勝者は福珍の料理だ」
忌々しいと、露骨に顔に出しながらも、劉清は正当な評価で料理を認めるのであった。
◆
「ふふん!どう?コレが私の実力よ!?」
部屋に戻り、ドヤ顔の里華。福珍もそんな里華に驚きを隠せない。
『な、なんで料理ができるんですか!?どう見てもプロ級の腕前じゃないですか!』
「あのねぇ。私がただ、美女に生まれただけの女だと思ってるの?この美ボディを維持する為に、食事には人一倍気を使ってるのよ?薬膳を始めとした、漢方にも精通して、初めてこの美ボディは作られてるの?医食同源。それが美しさの秘訣よ!まあ、福珍が食事に気を使ったところで美しくなるとは思えないけどね」
『分かってますよ、そんな事!だからこそ、悔しいんですよ!美女なのに料理も出来て、女としてとても太刀打ち出来ない事に…』
「スッポンが月に向かって何をほざいてるのよ?言っとくけど、私は料理以外だって何だってこなせるのよ?伊達に傾城傾国の美女は名乗ってないからね」
『りょ、料理以外もですか!?』
驚く福珍。そして翌日から里華は、福珍の姿で無双する事となるのであった。
◆
料理コンテストを皮切りに、裁縫、髪結い、舞踊、生け花、蹴鞠、書道、弓道、カバディ、などなど、あらゆるコンテストで無双する里華。劉清を始めとした多くの者達がその手腕に舌を巻く。
「これで序列10位まで上り詰めたわね。あっという間に!」
自身の活躍に御満悦の里華。だが、福珍は納得が行かない。
『里華様は何者なんですか!?美女なのに、何をやらせても完璧じゃないですか!天は二物を与えずって言葉、何の為にあるんですか!?』
「まあ、私の美しさは天女にも
『ぐぬぬ…』
「まあ、そんな私のお陰であなたは劉清と合体できるのよ?少しは私に感謝しなさい」
『それはそうですが…』
「予定では明日の夜にでも劉清と合体のチャンスは訪れるからね。心身共に、準備を怠るんじゃないわよ」
『えええええっ!あ、明日ですか!?まだ、心の準備が…』
「明日は今までで一番、楽に優勝できるコンテスト。そう、私が最も得意としている…お笑いコンテストなんだから!」
『ひょっとして、里華様はお笑いのセンスまであるんですか!?』
「当たり前よ!完全無欠の傾城傾国の美女に、欠点なんかあるものですか!明日は劉清達に私の一人漫談を披露し、ドッカンドッカン笑いを取る予定だから、覚悟しておきなさい!」
『…確かにドッカンドッカン笑いを取れたら、劉清様との合体も現実味を帯びてきますね』
「あなたみたいな醜女じゃ、笑いを取れる芸人気質じゃないと、男には相手にされないからね。お笑いコンテストで優勝して劉清と合体。これが私の考えた最強のプランよ!」
『す、凄いです!流石は里華様!!私の容姿でありながら、劉清様と合体するまでの完全なるプランを組めるなんて!!!』
「まあ、確かに普通の女じゃ無理でしょうね。外見が醜女じゃ、余程の女でも無い限り、劉清と合体など不可能!それを可能にした私こそ…世界最高の女ってわけよ!」
やんや、やんやと、盛り上がる里華と福珍。だが、明日は確実に合体できると考えている二人であったが、そうは問屋が下さない。
満を持して挑むお笑いコンテストには、大きな落とし穴が待っているのだから。
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