第2話 東上皇国の劉清
里華と福珍を乗せた生娘斗雲は無事、東上皇国へと辿り着いた。
「初めて空を飛んだけど、いや凄いわね」
あっという間に三千里離れた場所へと到着。その仙人としての力を見せつけられた里華は、素直に福珍の能力を称賛。
ただの醜女から、それなりに凄い醜女へと、考えを改め直すことにした。
「フッフッフッ!里華様、驚くのはまだ早いですよ!これでも私は仙人のはしくれ!他にも仙人独自のアイテムはありますから!」
そう言って福珍が取り出したのは、望遠鏡。脚立も取り出し、その場にセットする。
「これは遠くの物を見る望遠鏡と言います。人間の世界にもあるそうですが、コレはその数倍の距離を見ることができ、更には声まで聞こえる仙人独自のアイテムです!」
セットした望遠鏡を福珍が覗き込む。その先にあるのは都。劉清の治める国である。
「ああっ!いました!アレです!あそこです!私の未来の旦那様、劉清様です!」
福珍に言われて里華が望遠鏡を覗き込むと、肉眼では分からない程の距離にある、都の宮殿の窓に一人の男性が確認できた。
中々のイケメンだ。更には皇太子と、誰もが羨む身分。さぞかし、女の子にモテることだろう。
「あー確かにイケメンね。私の庵に来るイケメンの中では、そこそこの部類だけど」
傾城傾国の美女である里華に求婚を申し込むイケメンは、近隣諸国から選りすぐりのイケメンがやって来る。
そのイケメン達と比べれば、確かに劉清は見劣りする。だが、そんな事は福珍にはどうでもいいことだ。
「劉清様の事を悪く言わないで下さい!私の未来の旦那様なんですからね!」
「そこそこのイケメンって言ってるんだから、一応褒めてるでしょ?」
「とても褒めてるようには聞こえませんでしたが…」
「まあ、そんな事より劉清を落とす事の方が先でしょ?あんたがさっき見せた変化の指輪、それを使って劉清攻略の策を練るわよ」
都から離れた丘の上で、里華と福珍は劉清との合体に至るまでの策を講じた。
里華の策を聞き終えた福珍。なんとも不安げである。
「…あの…それで本当に劉清様を口説き落とせるのでしょうか?」
「まあ、あんたなら無理でしょうね。でも私は傾城傾国の美女、里華様よ?たとえ外見が変ろうとも、いい女である事は間違い無いのだから、問題無いわよ」
自身を完全無欠の才色兼備と信じて疑わない里華である。見た目が福珍になったところで、男を落とす事など造作も無いと、胸を張る。
それでも福珍には一抹の不安が残る。だが、他に頼れる者もいない。
仕方なく里華の策を受け入れ、二人は劉清のいる都へと出発するのであった。
◆
「何やら表が騒がしいな」
東上皇国の皇太子、劉清が部屋で書物を読み
皇太子の住まう宮殿やその近くで騒ぎを起こせば、良くて死刑。悪くて死刑と、当然の事ながら重罪として処理される。
だからこそ、普段の劉清は宮殿で静かに書物を読み耽る事ができるのだ。
だが、その日は違った。祭りでも無いのに多くの者たちが
「おい、執事。一体なんの騒ぎだ?先程から五月蝿くて読書もままならないぞ?」
劉清の呼びかけに執事は急いで原因究明にと、宮殿の外へと赴いた。そしてすぐに劉清の元へと戻ると、状況を説明。
「あの…劉清様…」
「どうした?何があった?」
普段、冷静沈着なる仕事っぷりに、劉清から厚い信頼を寄せられている執事が、かなり慌てた様子だ。
これは緊急事態かと、劉清も読んでいた書物を閉じ、執事の返事を待つ。
「その…もの凄い美女が…劉清様にお会いしたいと、来訪されました」
「おい、ちょっと待て。たかが美女がやって来ただけで騒がしかっただと?それにアポイントメントはどうした?面会の予約もなく、突然やって来た美女に私と面会しろというのか!?」
「…はい。取り敢えず、お会いすれば分かると思います」
アポイントメントの無い者を皇太子である劉清に御目通りさせる。有能な執事が取るべき所業では無い。
それでも執事は劉清への面会を独自の判断で決めたのだ。ならばその美女が、何らかの身分のある立場の者か、あるいは…。
◆
「突然の訪問に快く御目通りさせて貰い、感謝いたします。私は西方より劉清様の噂を聞きつけやって来た、里華と申します」
里華は頭を下げ、そして劉清を相手に、にこやかに微笑んだ。
「…あ、ああ。里華殿…私が皇太子の劉清だ」
なんとか、かろうじて、里華の言葉に対して返事をすることができた劉清であったが、それでも冷静さを取り戻す事は出来なかった。
執事が独自の判断で面会を承諾したのもうなずける。そう、余りにも美しいのだ。
人の身でありながら、まるで天女や女神が如く美しい。皇太子という立場にあり、多くの名のある美女を見てきた劉清ですら息を呑むほどの美しさだ。
特に隣にいるカビの生えた大福の様な醜女が、より里華の美しさを際立たせている。
傾城傾国の美女。まさに里華の為にある言葉だ。これ程の美女であれば貴族や王族が黙っているわけがない。きっと多くの上流階級の者が里華にアプローチした事であろう。
だが、そんな里華が自分の元へとやって来たのだ。男として王族として、これ程の
◆
里華の来訪を快く迎え入れた劉清は、酒宴を設けた。王族を迎えた時の様に、最高のおもてなしだ。
里華もそんな歓待に臆するそぶりも見せず、さも当たり前の様に受け入れた。
それは傾城傾国の美女、里華にとっては当たり前の日常なのだから。
劉清と里華、二人はたわいもない会話をしながら会食を進めた。そして食事もデザートが運ばれてくる頃に、里華から一つの提案が持ちかけられた。
「あの、劉清様…一つ、お願いがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「はっはっはっ!里華殿の頼みであれば、この劉清に断る術など持ち合わすまい!もし里華殿が海に沈んだ財宝を求めるのならば、私は刀で海を割り、深海に眠る財宝を手に入れよう!もし月の欠片を望むとあらば、月に槍を投げ、砕けた月の欠片を手に入れよう!ああ、里華殿の為ならば、この劉清に不可能などないと約束しよう!」
酒が回り、上機嫌の劉清が雄弁に語る。そんな劉清に里華も照れ臭そうに願い事を語り出した。
「私もそろそろ身を固めたいと、生涯を共に添える伴侶を探しておりました。そこで劉清様の噂を聞きつけ、こうして参ったのです」
里華の告白に、劉清は思わずゴクリと喉を鳴らす。これ程の美女が自分の伴侶に?想像しただけで劉清の鼻息は荒くなる。
「なるほど!里華殿は自身と釣り合う男をお探しだと?ならばこの劉清、里華殿の気持ちに応え…」
「…ですが、私はまだ劉清様の事を知りませぬ。願わくば劉清様の事をよく知りたく…」
それはベッドへのお誘い。大人であれば、そう察するだろう。劉清もまた、然り。更に鼻息は荒くなり、里華の誘惑に呼応しようとするが、話は別の方向へと向かって行く。
「こちらにいる私の従者、名は福珍と申しますが…この者を劉清様の後宮の一員として迎え入れて欲しいのです」
劉清とイチャイチャしている里華を、苦虫を噛みしめる様に睨み付けていた福珍だったが、突然話を振られて慌てて身を正す。
だが、それ以上に慌てたのは劉清だ。ベッドインだと思った矢先に、従者である醜女を後宮の一員にしてくれと頼まれるのだ。大きな肩透かしに思わず声を荒立てる。
「ちょ、ちょっと待って下さい里華殿!え!?この従者を私の後宮に!?」
「はい。この福珍は私の従者として長い事仕えて来ました。私の趣味、思考は手にとる様に理解してます」
里華と福珍は今日、出会ったばかりの関係である。勿論、長い付き合いなどとは大嘘だ。
自分は傾城傾国の美女だから嘘をつかないと、そう言っておきながら平気で嘘をつく。福珍はツッコミを入れたいところではあったが、グッと我慢する。
そんな福珍の事などお構いなく、里華は話を進めた。
「一ヶ月。一ヶ月だけでよいのですが、この福珍を後宮に住まわせては貰えませんでしょうか?福珍に、劉清様と私がお付き合いするのが望ましいかどうかの、判断を委ねたいと思いますので」
「…なるほど。従者に私の品定めを任せると?」
「ああ、勿論後宮に住まわせてもらえるのであれば、福珍と関係を持って貰っても構いませんが…」
「いや、それは無い!絶対にな!!」
カビの生えた大福の様な醜女と肉体関係なんぞ、劉清にしてみれば真っ平御免である。
だが、とうの福珍はその「断固あり得ない」とする劉清の態度に、心も体も震わせる。
「ふぐぅぅぅ…」
劉清が福珍に惚れる事など無い。そんな事は最初から分かっていた事だ。それでも惚れた異性から面と向かって拒絶されれば辛いもの。
福珍は目に涙を浮かべながらうつむき、体をプルプルと震わせている。
勿論、里華はそんな姿の福珍の事などお構いなく、話を進める。
「まあ、心変わりする事もあり得ますので、もし福珍の事を気にいる事があれば私の代わりに愛でて上げて下さいな。それでは明日から一ヶ月、福珍の面倒をお願いしますね」
にこやかに笑う里華は劉清の返事も聞かぬまま、そのまま福珍を後宮に迎える事として話を進めてしまった。
劉清も、後宮にカビの生えた大福がいることを一ヶ月間我慢すれば、里華と合体できるならばと、そのまま里華の話を受け入れる事に。
こうして、上手く劉清の元へと潜り込む事に成功した里華と福珍。
期限は一ヶ月。果たして本当に福珍と劉清は合体できるのか?
醜女によるイケメンリア充籠絡作戦がいよいよ始まるのであった!
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