最終話「Luce」

「ねぇ、どうしてお腹が膨れているの?」


今、考えれば失礼な質問だ。だがそんな質問に対して心から嫌がる素振りを

見せなかった女性はそっと自身の腹を摩った。


「ここには私の未来と幸せが詰まっているの。君にもあげる」


そっと触れてみると胎動を感じた。腹の中の胎児が元気である証だ。


「せめて、この子だけは幸せでありますように…果ては貴方にも

巡り巡って幸せが訪れますように。神様、彼はもう十分に苦しみました―」


そう彼女は祈りを捧げていた。赤ん坊が生まれると彼女はその赤ん坊を

見せてくれた。ふっくらした頬を少し突くと赤ん坊は少しだけ声を

あげていた。


「この子はルーチェ、私の子」



夢の空間が崩落を始めた。彼が、ロイドがようやく眠りから覚めるから。

崩落する中、ルーチェはロイドに手を伸ばした。


「絶対に会いに行くから!!」


ルーチェの手を掴もうと自身も腕を伸ばした。


「僕が…俺が会いに行く!」


その返事を聞き、ルーチェは満面の笑顔を咲かせた。


「花畑の奥、青い屋根の家だよ―」




それぞれが目を覚まして一週間が経過した。

いつも見ているはずのアリアの写真が今日は妙に笑顔を

浮かべている風に見えた。


「ルーチェ様、お客様がいらしています」


夢の中での約束がついに果たされる。

扉の前にいたロイドは穏やかな表情を浮かべていた。


「家はどうなったんですか?」

「破門になった。家を継ぐつもりは無いし、居座る気も無い。だから―」


ルーチェの屋敷にいる使用人にロイドは目を向けた。使用人も

微笑を浮かべている。


「ここに住むことを許して欲しい」

「許すも何も、良いじゃないですか。ようこそ、私たちのおうちへ!」



ここに出てきてしまえば人間から死神の姿は見えなくなる。クロは

微笑ましい二人の様子を少しの間だけ眺めていた。


「ハッピーエンド、おめでとさん。そろそろ行こうか、アリア」

「…えぇ。もう未練はありません」


クロが先を行く。アリアは再び振り返り笑顔を浮かべた。


「―二人とも、お幸せに」



二人が消えたと同時に外に出て来たルーチェの頭上から何かが

降って来た。それを拾ったルーチェは目を丸くした。


「…お母さん?」


母が身に着けていた羽を模したイヤリングを握りしめ再び

空を見上げた。


「おやすみなさい!」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

不思議の夢のルーチェ 花道優曇華 @snow1comer

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ