第6話「Lullaby」
先を進んでいるとコロコロと景色が変わる。時間も場所も。
「相当不安定だな…」
目先には一つの扉が佇んでいた。真っ黒な扉からはすすり泣く
声が聞こえた。ドアノブに手を掛け、思い切って開いた。続いていたのは
長い道。逃げられぬように鋭い棘を持つ茨があちこちに張り巡らされている。
道の上を歩いていれば問題ない。そう、問題ないのだ。
「ッ!?」
「ルーチェ!!」
ルーチェの体が奈落の底に消えた。クロの手から彼女が伸ばした腕は
すり抜けてしまったのだ。
その少年に生まれながら片腕は存在しなかった。普通の人間が
持っているはずの腕を持たずして生まれてから人生は狂う。
母は、そのことで気を病み自殺。同時に父も気を狂わせ息子に
暴力を振るうようになっていた。
それから彼は成長し、父のもとを離れて孤児院で育ったようだ。
しかし環境が変化しても彼に対しての周りの評価は変わらない。
『化け物』
ルーチェは不思議で不思議で仕方なかった。どうして?片腕が無いだけだよ?
彼は悪いことをしてないのに…。
一人で過ごすようになった彼の耳に聞こえたのは子どもを寝かしつける
子守唄だった。ルーチェも聞き慣れている唄だ。
残っていたクロはここで立ち止まっている暇も無いと判断し、大きな鎌を
片手に歩き出した。夢喰という怪物。それは他者を拒みたいというロイドの
心が生み出した生物だ。
「まぁ、面倒なのは強さじゃなくてこの数と不死性だな」
鎌を振り回し、辺りを見回す。怪物は一度こそ倒れかけていたがすぐに
体を起こした。
落下し続けて、ルーチェはゆっくり着地した。不気味な場所で一人
顔を伏せて佇むロイド。彼はふと顔を上げた。暗い表情だ。
「良いなぁ、俺は腕が欲しい。腕さえ、あればあればアレバァぁァ…」
ロイドは立ち上がり、ルーチェの腕を握りしめた。
「この腕、僕に頂戴?」
「あげられない。この腕を手に入れても、貴方は本当の意味で
幸せになることは出来ません」
ロイドは歯を食いしばる。
「だけどね―」
ルーチェは表情を和らげた。
「私は、貴方が一番聞きたいものを知ってるよ」
「…は?」
ロイドが支配している空間は徐々に姿を変えていた。彼は何が
起こっているのか理解が出来ていない。それが自分の心の中で起こっている
変化である。しかし自覚できないのだ。
否が応でも彼は期待していた。初めて、あの人に母性を感じた時だった。
その時に耳にしたのは―。
ルーチェの歌声はロイドだけでなくクロの耳にも届いていた。
その声を頼りにクロはルーチェとロイドの居場所を探し出す。
あったのは光で先の見えない門。そこを潜ると、先には大空が
広がっていた。ルーチェの前ではロイドが目を丸くしてその場に
膝を折っていた。
「子守唄…」
その歌はアリアが口ずさんでいた優しい子守唄。
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