第5話「Lonely」

翌日。再びルーチェたちは夢の中を歩き続けた。


「夢ってのは、願いを叶えることが出来る」


クロは公園に目を向けた。光の小人たちはこちらに気付き、手を振っていた。

彼らは近寄ってきてはルーチェに必死に手を伸ばしていた。クロにも、ルーチェにも

その姿は愛くるしく見えた。しかし一人だけ違った。彼の腕にしがみつく小人は

恐ろしい姿をしていた。


『ニゲルナァ』『イタイイタイ、ヨォ…』


―ロイド―


暗闇に射す光。ルーチェもしくはアリア


「…ルーチェ?」

「大丈夫?具合が悪そう。やっぱり今日は休もう」


白く小さな手はそっとロイドの異形の手を包んだ。だからロイドは

すぐに腕を引っ込めた。


「アンタのその腕…現実では存在しないんだな?」

「―ッ!?」

「え?存在しないって、隻腕って事!?」

「本来なら、そんな風な形にはならない。望んだ通りの腕が生える。が、

その形がお前の望んだ形状か?違うだろ」


クロは引っ込められた右腕を引っ張ろうと手を伸ばした。

するとクロの全身から血が噴き出る。息を呑んだルーチェ。目を丸くしている

クロ。顔を歪めたロイド。顔に巻かれた包帯が消え、素顔が露わになる。

醜い傷跡が生々しく残っている。


「見ないで、くれ…見ないで見ないで、見ないでェェェェェェ!!!!」


ロイドは二人の間をすり抜け、何処かに走り去ってしまった。その時に

夢の世界が大きく歪んだ。地面が割れ、危機を察知したクロはルーチェを

自分の方に引き寄せた。


「…雨?」

「天候も荒れてんな。だがようやく張本人が見つけられたな」


クロは何とも言えない顔をしていた。気分は良くない。ルーチェも同じだ。

見つけて救い出すと決めていたが、いざとなったら掛ける言葉が

見つけられなかった。


「あの腕は本当なら人と変わらない形で発現するはずだった。しかし、アイツの

感情で大きく変形しちまった。俺は死神、アイツからは安定しない死期が

見えていたから観察していたが…」


クロは目を伏せた。


「最悪の気分だ。人間の悪い部分が大きく膨れ上がったみたいな

状態だった」

「…」



一人、走り去ったロイドは足を止めてその場に崩れ落ちた。


「助けられる?ふざけんな…救えるわけがないだろ。あんな恵まれた奴に

何が、分かるんだよ…!」


地面を殴りつけたロイドの表情は憎しみ、悲しみに染まっていた。

それがこの世界にも反映されていた。ロイドはすっかり殻に閉じこもって

しまった。

一方のルーチェもどうするべきか迷いが生じていた。


「やっぱり人を助けるのは難しいや。だって、その人が本当に必要なものが

分からないから…」

「当たり前だ。俺だって人間が望むものなんて分からない」


クロは身を屈め、真っ直ぐルーチェを見つめる。


「言葉には力がある。言霊というんだ。アイツには物なんて必要ない。

必要なのは金で買えないものだ。このまま投げ出して、ずっとここに

閉じこもるか?」

「…!」

「お前は既に分かっているはずだ。彼にどう告げれば良いのか、何を

してやれば救われるのか。それは俺には出来ない。人間であるお前だけに

出来る特別なだ」

「―頑張ってみる。私、頑張ってみるよ。だからあと少しだけ、力を

貸してください。死神さん」


ルーチェは下を向くことをやめた。言ったからにはやらなければ、と

心を奮い立たせる。一番悲しいのはきっとロイド本人だから。


「貸してやるよ、俺の力全部な」


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