第3話「Grim Reaper」
「そうねぇ…ルーチェ、明日は早く起きると良いことがあるわよ」
「ホント!?じゃあ頑張って早く起きる!!」
「えぇ。頑張って」
母と子ども。アリアはルーチェの近くで子守唄を聞かせる。
透き通る声だ。ルーチェはあっという間に眠ってしまった。
母の言葉通り、ルーチェは何とか早く起きた。眠気と戦い
起き上がり窓を見て目を丸くした。
「雪だ!!ママ、雪が積もってる!!!」
「これが、アンタの幸せな記憶って奴か。良いねぇ、悪くない。
実に人間らしい記憶だ。母アリアは先月に死亡。ほほぅ、予知能力を
持つ人間の家系か。通りで上がうるさいわけだ」
男は不気味な大鎌を肩に担いでいた。
「年齢が年齢だし、やっぱり短いな。そして全てに母親の姿が
映っている。さぞ良い親に恵まれていたんだな」
「…!?大きな鎌…!」
我に返ったルーチェはゆっくりと後退る。後方には道が続いている。
大きな鎌を担ぐ青年もルーチェの意識が戻ったことに気付いた。
「おはようさん。良い夢は、見れたか?こっちは仕事でね、死神の
仕事は死に関係することさ。死ぬ日が来た人間のもとに来て死を告げ
死を与える係。死んだ魂を三途の川まで導く係。そして舟渡。
俺はそうだな…基本的に二番目の仕事だが時々、最初に言った仕事を
担うことがある」
そう説明しているときには既にルーチェが走り去っていた。男も
彼女の後を追うように距離を詰めていく。
「逃げられるかよ!余生のある人間は寿命を延ばせるが、限界ってのが
あるんだぜ?どれだけ逃げようと死神から逃げられはしねえ」
「嫌だ!私にはまだ、やることがある!」
ルーチェはそう叫びながら長い道を走るもスタミナが切れ始めた。
足が絡まり、ルーチェは転んだ。彼女の首に鎌があてがわれた。
「さぁ、その魂は俺が貰い受ける。ちゃんとお前の母親と同じ場所に
送ってやろう」
「私の魂は、そんな安くないですよ」
「そうさなぁ、命は金じゃあ買えねえなぁ。だけどそんなの
関係ねえよ。悔しいことに俺は今、仕事中でね。この夢にいる
奴らは既に死期が来た。全員俺があっちへ導く」
ルーチェはギュッと拳を握る。胸の前で握って祈る。
『彼女たちはまだ死ぬ人間ではありません』
ルーチェも、死神も目を丸くした。透けた体の女性。だがその姿は
見間違うはずもないアリアだった。
「待て待て、死んだ人間がここに干渉することは…否、できなくは
無いか。アンタの場合は常人とはちょっと違うからな。アンタは母として
娘を助けに来た。助けるために死神の前に立つ、それで良いかい?」
男はアリアを睨む。彼の顔は良く見えない。フードを目深に被っている
からだ。
『それもありますが、貴方の仕事を考えた上でここに来た。本当は違う
でしょう?ここにいる人々は死ぬ予定はない。だけどこの夢を手っ取り早く
終わらせたい。違うかしら?』
「え?え?どういうことですか?」
ルーチェだけには理解できていなかった。アリアと死神だけで話が
進んでいる。死神の仕事にこの夢は深くかかわっているのか。この夢が
死神たちの大事な仕事の大きな障害になっているらしい。それが話の
軸だ。
『ルーチェ、貴方は夢の持ち主を助けたい?』
「助けたい!だってこの夢、凄く哀しくて辛そうなんだ。それに苦しそう。
助けを求めてるのに、何もしないなんてことは出来ないよ」
アリアの半透明の手がそっとルーチェの頭を撫でた。
『とても偉い子。私はずっと守っているからね、愛しい愛しい私の
アリアが消えてしまった。死神の溜息が静まった空間に反響した。
彼はルーチェに手を差し伸べる。その手を素直に掴もうとは思えなかった。
「安心しろ。俺はもう、アンタの魂を取ろうとはしねえよ。その代わりに
お前にはしっかり、この夢を醒めて貰うぜ」
「はい。その、死神さん?名前は無いんですか?」
「名前か。そうだな…こんな身なりだ。クロと呼んでくれ」
死神クロ。ここは彼の作り出した空間らしい。走馬灯というものを
見させる世界だったという。少し先に行けばロイドとも会えるというので
クロと共にルーチェは先に進む。
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