友人と愚痴り合って
「バロンから連絡来ないし歩かない?」
「もうちょっと様子見よ」
相変わらず返事の無い友人を気にしながら、僕らはスーパーで買った飲み物を口にしながらスマホをじぃーっと眺めていた。
観光気分で階段を降りた時にもう一人の同士の存在を思い出した僕らは「仕方ない、様子見るか」と言って急遽目的地を近くのスーパーに移した。
寒くなってきたと言ってもまだ冷たい飲み物がすんなり喉を通るぐらいの気温なので、お互いにお茶やジュースを選び、滋賀県名物の赤いこんにゃくを観察してからレジでお金を払った。
「あいつがこんなに遅いのってあったっけ……」
「ないな……」
曇天の空にジト目を送りつつ、お茶のほろ苦さに現状を重ねて俳句でも考えようかと頭を捻ったが、特に何も思い浮かばずにペットボトルに書いてあった俳句を代わりに読み上げた。
元々駅に着いたらドタキャン王子の家に真っ直ぐ向かう予定だったので、いきなり観光しようと思ってもすぐ動けないのが現状であった。
観光する場合、大体目星があり、目的地に辿り着くまでを含めて観光と言える。しかし、今回友人宅に訪れるという目的はドタキャン王子の案内なくしては果たせない。住所が送られていると言ったが、実際は住所と言うにはあやふやで、建物さえもよく分かっていない。
「連絡も無いし歩こうよ〜」
「そうやな〜」
ドタキャン王子の痛烈な予定変更とバロンの音信不通にやる気が大分削がれていた僕らは、スーパーにあった小さな休憩スペースのカウンターに崩れていた。だが、人間不思議なもので、いざ歩き出すと足は勝手に道を踏み、口は勝手に冗談を言うようになる。
川沿いを歩く頃にはお互い大分回復していて、世間話しをしながら悠々と歩いていた。
「そういえばよしまる、ここってボートが多いね」
「そうやな、度々見るわ」
ふわりよろりと舞う枯れ葉の向こうで白い船が停まっている。船と言っても小型船が停まっている訳じゃなく、よく見ればそれはテレビでみたことがあるボートだった。
「ボートに何か書いてる。え~と、何とか大学?」
ボート部、というのも書かれてあった。
どうやらここ一帯はボート部の練習場らしい。他にも別の大学のボートや小型船、帆が張ってあるボートまであった。
隣に流れている川は琵琶湖に続いてるはずだが、頻繁に出てくる船の数に海にいるような錯覚が起きていた。砂浜なんてないけれど。
「琵琶湖ってボートが多いんだね」
「せやな。川の流れも穏やかやし面積も広いしな、向いてるんやろ」
「なるほどな」
静かな水面を眺めて深く納得した。ドタキャン王子もこのくらい穏やかなスケジュールを流してくれれば良いのに。
ある程度進むと、西洋の石積みで作られた小さな塔のような物が出てきたり、コンビニが現れた時友人がちょっと支払いって言って駆け出したりと様々な出来事が僕らを迎えた。
「……」
「よしまる? どうした?」
「……」
達磨のように際しい顔をするよしまるの視線を辿ると、仲睦まじいカップルが川を眺めていた。
夕日が水面を赤茶色に染めてとても素敵な光景だった。見れば、カップルの首に長い毛糸のマフラーが巻かれていた。
「嫉妬?」
「憧れとるだけやで」
表情も足すとそれを嫉妬と呼ぶんだけれどあえて言わなかった。
友人であるよしまるはついちょっと前人生で初めての失恋を味わった。会話から始めて遊びに誘い、食事も何回か行ったと良く自慢していた。けれど、タッチの差というもので、他の男が告白して恋人になったらしく、片想いだったことさえ悟られてなかったよしまるに意中の女の子が恋人報告してきたそうだ。
よしまるが大泣きしたのを見たのは後にも先にもこれが初めてのことだったので、励ますのに必死だったことを良く覚えている。
失恋後の友人に、素敵な相手が現れる、と言うのが苦しいとは思わなかった。
「……あ」
絵になりそうなカップルを観察していると、男性の方のパンツが見えた。見せパンなのか不注意なのか、そんなことを考える寸前だった。
「……ん?」
パンツの柄が衝撃的だった。と言っても僕にとって衝撃的であるため世の中ではどうなのかよく分からないが、とにかくその柄に驚いた。
青を基調としたパンツに、ストロベリー、ラズベリー、ブルーベリーとベリーがこれでもかと載っているのだ。
ロマンチックな光景に反したベリー尽くしのパンツに思わず笑ってしまった僕に、流石の友人も気にして「どうしたんや?」と声を掛けてきて、必死に口を抑える僕はとにかく友人の肩を叩きながら男の方に指差すのが精一杯だった。
「え? 分からんわからん、なになに?」
「くっくっ……、男の人の、パンツ見てよ。あれ、何が見える」
「え? え~っと……、苺、ブルーベリー……」
「あとラズベリーが載ってる」
「それがどうしたん?」
「苺ってストロベリーとも言うじゃん。ストロベリー、ブルーベリー、ラズベリー……、ベリーベリーパンツだなって」
「ベリーベリーパンツ……くっふ!」
時間を楽しむカップルの遥か後方で、ベリーベリーパンツに笑う男二人が僕達であった。
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