友人とお訪れて

 店から受け取った料理を食べ終わり、食後のデザートとしてアイスクリーム屋で買ったチョコレートミントを匙で突く。アイス屋の店員がオススメしたアイスを満足そうに頬張るよしまるに「ねぇ」と尋ねた。


「バロンから連絡あった?」


「いや……――」


 スマホを右手で操作しながら、咥えたスプーンを上下に揺らしている。


「無い」


「そうか」


 食べてる間に連絡が来るだろうと思っていた僕は、今だ既読の付かないトーク履歴を眺めて考えた。

 事故に巻き込まれた? それとも急な用事か、連絡はこまめな方だしな……。


「いつも通りの寝坊じゃね?」


「……あー、そうかも」


 バロンはドタキャン王子と比べればこそまだ許せる方だった。

 しかし、最近の遅刻は目立っていた。と言っても、約束の時間を大幅に遅刻したとかの話ではなく、遅刻した理由が目立っていた。

 例えば、山姥やまんばの如き形相の祖母に追いかけ回されただの、朝と夜が逆転してか昨日を今日と思い込んでメッセージを送ってきたり、良くも悪くも目立っていた。

 次に遅刻した時は何か奢らせよう。ちょっとした罰ゲームをこの時心の中で決めた。


「それじゃ、一時間経ったし行きますか」


「おう」


 そうして、僕とよしまるは石山駅へと向かった。

 路線をよしまるに説明されつつ案内してもらい、他愛ない話しで電車の待ち時間を消化し、車内のぬるい温度にまたぼぉーっとしながら、片道十分の電車旅は終わった。


「ここが石山駅か……」


 改札を出てうろつくと、青や白のタイルが敷き詰められた場所に訪れた。青々とした地面と対象的に空はもくもくと曇っている。


「あ、なんかある」


 近付いてみると、江戸時代っぽい服装をしたおじいさんの銅像が飾られていた。


「松尾芭蕉やって」


「聞いたことある!」


 銅像の名前を聞いた僕は、大して詳細な歴史を知っている訳でもないのに盛り上がっていた。

 知らない土地に訪れ偉人の銅像が迎えてくれたことに、今日が特別面白い日になると深く思っていた


「う~ん、おかしいな」


「……ん?」


 隣で唸る友人の手元を見て察した。


「ドタキャン王子から連絡が来てないの?」


「うん」


 途端今日一日が暗く憂鬱に感じた。

 ドタキャン王子から連絡が来ないということは、ドタキャンされる可能性が高い。いつものパターンを説明すると、約束の時間が過ぎて大体一時間から四時間ぐらいの間に連絡が来る。親と外食行くことになった、や、急に別の友人と遊ぶことになった等。待たせる側が納得するのに無茶がある理由ばかり。


「今日休みなんだよね?」


「履歴にもしっかり残ってる。約束の日も間違いなく今日やで」


「となると、寝てるか忘れたか別の用事を入れたか」


「他の奴と遊んでるか……」


 ベテラン刑事の様にすらすらと来れない理由を挙げて、この先起こる行動を予測し合う。


「そういえば前に、友達の家に回って泊めてもらったとか言ってたやんな、もしかしてこっちにいないんじゃないかな」


「あの一週間泊まり込んだ奴? ありえる」


 ある日胸を張りながらドタキャン王子が嬉しそうに語っていた話し。泊まられる側は気を使っただろうとその友人に同情したのを覚えている。


「後はあれかな、バイトが入ったとか」


「それは無いな、奴は夜にバイトしてるらしいから」


「そうなの?」


 バイトをしていること自体知らなかった。


「おう」


「ちなみにどんなバイト?」


「児童相談所だったかな、そこでバイトしてるらしいで。前に、女の子に馬鹿って言ったのを上司に告げ口されたらしくて、とっさに、『馬鹿って言ってません、アルパカって言ったんです』って言い訳したらしいよ」


「あいつ最低だな」


 子供に言ったのもそうだが、言い訳とその内容も最低だった。


「お、噂をすれば」


 よしまるは無表情のままスマホの画面に指を走らせて、恐らく本日の主役であろう人物と連絡していた。


「で、どうなった?」


「今別件で忙しいから十時まで待ってほしいやって」


「……はっ?」


 現時刻は三時。バロンを待っていたのもあって本来より一時間遅くなった。とはいえ、そこから更に七時間も待たないといけないなんておかしすぎる。

 というか、いつもの急なキャンセルではなくて待たせるのか。ドタキャン王子の思考は全然読めない。


「はあ。じゃあ観光して帰るか」


 ずしりと重い荷物を背負わされたかのような徒労感。憤りもあったけれど、悲しくも慣れていたので気持ちを切り替えるのは早かった。

 それはよしまるも同じだったらしく、近くにあった案内板を見てどこに行くか相談した。


「一応この駅の周辺調べたけど名所とかメジャー施設とか特になにも無いで」


「とりあえず滋賀県に来たんだし、琵琶湖見ない?」


「良いね。あ、ならこのルート歩くのどう。結構距離あるし戻った頃には良い時間になってるかも」


「良いね。じゃあ盛大にあいつの悪口を言いながら歩こう!」


「おう!」


 階段を降りスマホのナビゲーションを起動して歩き始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る