友人贔屓
無頼 チャイ
友人と集まって
電車の中、過る風景と人込みが、僕の記憶処理を活発化させているからか少しボーッとしていた。朝に飲む薬の副作用も相まってか、かなりボーッとしていた。
季節としては冷たい風が吹き始めた頃で、それでも残暑があり、まだ薄着でも動き回ることができるくらいの気温。青い葉もあれば紅く染まる葉もあり、枯れ葉のカーペットはよく見かけている。
と、そんなどうでもいい事を考えていると京都駅に到着した。
改札を出て右側の通路へと曲がり、お茶漬けの広告をじぃーっと見つめながらエスカレーターで下る。横断歩道を渡り大きなホテルの外観に感嘆としていると待ち合わせのイオンモールが現れた。
メッセージを確認すると、友人であるよしまるはフードコートとゲームセンターが両方面した通路にいると言う。再会する喜びに足取りも何となしに軽くなっていき、エスカレーターを一段飛ばしで上る程には元気に溢れていた。
友人がいる階に到着し、きょろきょろと辺りを見渡した。そいつを見つけるのに時間は掛からなかった。
「よお」
「よお」
通路に設置された椅子に腰かけた友人に気付き、僕は近付く。友人も嬉しそうに立ち上がり「久しぶり」と言うので「久しぶり」と返す。
それだけで何ヶ月も会ってなかった事さえ忘れて、また遊ぶんだなというワクワクした童心のような気持ちになっていた。
「チャイ、本当に久しぶりやな」
「うん、本当に。よしまるは元気にしてた?」
「俺は年中無休で元気やで」
「無休って、よしまるって休んでないの?」
「昨日行ったカラオケ店は忙しかったな〜」
「いや絶対歌って満喫してただろ」
と言って、力無い手の甲で殴ってやると笑った。
雑談と世間話しを僕らでしか分からないボケとツッコミを交えて話し合った。
そうして再会の感動を終えると、僕かよしまるのどちらからか今日の予定を確認し始めた。
「今日は滋賀の石山駅? に向かうんだよね」
「そうやな、あいつ元気にしてるかな」
「してるとは思うけど、相変わらず連絡くれないからな」
「やな、今回だって久しぶりにメッセージ来たと思ったら家に遊びに来てくれだもんな」
二人して難しい顔を浮かべた。
これから訪ねる友人は音信不通が絶えない奴で、メッセージを送ったら三か月後に返信を送るようなマイペースな奴だ。
一人暮らしを始めたからとかで、新居の内装の写真と共に住所が送られた。当然というか、僕ら二人は真っ先に文句を言った。いやいや一人暮らし以前に連絡しろよ、とか、メッセージや通話には出ろ、とか主に連絡関係で文句を言った。
不満をぶち撒けながらも、結局は集まる日程を組み、本人曰く都合の良い日に集合することとなった。
身内に甘い、とここで言いたくなるだろう。けれどしかし、真の目的は別にある。
「あいつにあったらどうするか決めた?」
「部屋の電力を限界まで使って電気代を増やす」
「地味な嫌がらせだね。僕は久しぶりに出会ったら一発殴るかな」
と、それぞれお互いの目的をニヤニヤと確認した。
そう、真の目的は仕返し。出会ったら不満を物理的にぶつけてやろうと言うのが本当の目的だった。
僕ら三人で訪ねて、友人の元気な姿を確認したらそこそこの悪戯をしてやろうという話しに落ち着いた訳だ。
無論相手が知ってる訳ないので、僕らの計画は順調に進んでいる。
「そういえば、バロンから連絡あった?」
「まだやな、朝から連絡はしてるけど」
「僕もメッセージは送ってるんだけど、既読が付かないな」
バロンは仕返し組のメンバーでこの集合場所に集まる最後の一人。
既読の付かないメッセージを見て思い悩む。
「まだ寝てるとか?」
「ありやな。それにあいつ遅刻魔やし」
「……確かに」
と、妙に納得した僕は、とりあえず通話を一回押して様子を見た。七回目のコール音が響くときには通話を終了し、とりあえず昼食にするかといって心配ムードを無理やり切り上げた。
「何食べる?」
「とりあえず見てから決めるか」
こうして僕らはフードコートを回った。じっくりと店を観察し、何が美味そうで何が安いのかを重点に置いて吟味する。
そうして、お互いレジからブザーを貰うと適当な席に腰を下ろした。
「で、今回会えると思う?」
「どうやろ、あいつツチノコ並みに出会いにくいしな……」
どういう訳か、これから会いにいく友人は会う約束をしているのに関わらず出会えないという不可思議な人間である。その不可思議さと最大の嫌味を込めてドタキャン王子と呼んでいた。
ドタキャン王子は当日に約束をキャンセルする教養を受けているようで、約束の時間が過ぎた一時間後にキャンセルを入れるという行動を取られ貴重な時間と裏切られ感に腹を良くたてる。約束毎に今日は信じようと挑戦して、本日が十回目の正直である。
「まあ流石に呼んでおいてドタキャンはしないやろ」
「……どうかな、正直僕は信じられない」
ドタキャン王子と謁見出来るか。これがこの旅の最大の難関であった。
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