第127話 長い1日の終わり
ルナちゃんとサーヤちゃんは最低限の荷物を揃え、俺達の家と向かう。
「それじゃあ行こうか」
「は、はい。よろしくお願いします」
そして今、俺の腕の中にはルナちゃんがいる。
まだ体調が良くなったばかりで足の筋肉もなく、歩くこともままならないので俺が抱きかかえて連れていくこととなった。
初め背中に乗せていくつもりだったが、ルナちゃんが前に抱きかかえてもらった方が安心だと言うことだったのでこのスタイルにした。
「お、重くないですか?」
「大丈夫だよ。むしろ軽いくらいだ。これからやりたいことをするためにいっぱい食べて運動しないとな」
「はい、がんばります」
「さっきも言ったけど俺もルナちゃんがやりたいことをフォローするから一緒にがんばろう」
「ユクトさんありがとうございます」
ラニ達が修行していた時のように運動した後に
辛い目にあったこの子達にはこれからの人生を幸せに歩んでほしいものだ。
そして俺達は商家アルトを出発すると⋯⋯。
「「「いいなあ⋯⋯」」」
突然背後から3つの声がシンクロして聞こえてきた。
「ん? 何か言ったか?」
「いいえ! 何も言ってません!」
俺の言葉をセレナは何故か必死な形相で即座に否定する。
「トアも後でパパにお姫様だっこをしてほしいなあって思っただけ」
「わ、私も⋯⋯はい。トアお姉ちゃんと同じです」
「えっ!」
トアはまだまだ甘えたがりの所があるからな。ルナちゃんを抱きかかえているところを見て羨ましくなったということか。
サーヤちゃんは両親も亡くなり、姉の原因不明の症状がなくなったことで緊張の糸が切れ、年相応の子供らしく不安になってしまったのかな?
そして何故トアとサーヤちゃんの言葉に対してセレナが驚きの声を上げたか謎だ。
「いいよ。してほしい時があったらいつでも言ってくれ」
「うん! じゃあパパが疲れていない時にお願いしよっか」
「はい。ユクトさんお願いします」
こうして俺は後日トアとサーヤちゃんにお姫様だっこをすることを約束させられてしまうのであった。
「あ、あの⋯⋯」
「どうしたセレナ?」
何故かセレナは身をひねり、モジモジし始めて様子がおかしくなっている。
「あっ! もしかしてセレナお姉ちゃんもパパにお姫様だっこしてもらいたいのかな?」
「いつも凛としているセレナお姉さんが?」
純粋な2つの目がセレナへと注がれる。
サーヤちゃんに取ってセレナが甘える姿は想像出来ないようだ。セレナはカッコいいお姉さんのように見えるのかな?
「わ、私は別に⋯⋯もう大人ですから大丈夫です」
「そうなの?」
「そうです。それより自宅でミリアとシルルさんが待っていますから早く行きましょう」
セレナは足早に俺とルナちゃんを追い抜いて先に行ってしまう。そして俺達も月夜が照らす夜の闇の中、自宅へと足を向けるのであった。
ちなみに後日、トアとサーヤちゃんを約束通りにお姫様だっこをした時、セレナが羨ましそうな顔をしていたので、俺はセレナにもお姫様だっこをするのであった。
「ただいま~」
ルナちゃんとサーヤちゃんを連れて自宅へと戻ると玄関にはミリアがいて俺達を出迎えてくれた。
「おかえり~って! パパがお姫様を連れてきた!」
どうやらミリアは俺の腕の中にいるルナちゃんを見て、お姫様と判断したようだ。
「ミリアお姉さんお久しぶりです」
「お姫様かと思ったらルーナンだ。あれ? 何だか顔色も良いし普通に話しているということはもしかして⋯⋯」
「はい。ユクトさんに治して頂きました」
「本当! さっすがパパだね! でも良かった⋯⋯本当に良かったよ」
ミリアは元気になったルナちゃんを見て目に涙を浮かべて喜んでいる。
うちの娘達に取ってルナちゃんは大切な存在だったということがわかり、俺は改めてルナちゃんを助けることが出来て良かったと安堵する。
「それでどうしてルーナンとサーヤンが家にきたの? あっ! 今日はルーナンの病気が治ったお祝いってことだね」
「それもあるが、とにかくまずは夕飯を作るからそこで詳しいことを話すよ」
「パパ⋯⋯トアも手伝うよ」
「わ、私も手伝います」
「いや、今日は俺が作るからサーヤちゃんはルナちゃんとゆっくり休んでてくれ。トアはセレナと一緒に2人が使う部屋の準備を頼む」
「すみません」
「わかった。セレナお姉ちゃん行こう」
そしてミリアにはルナちゃんとサーヤちゃんの話し相手になってもらい、俺は夕食の準備へと取りかかった。
そういえばシルルは⋯⋯俺はリビングの方に視線を向けると⋯⋯。
「私こんな綺麗な人初めて見ました」
「どういえばいいのかわかりませんが神秘的な雰囲気を持っていますね」
ルナちゃんとサーヤちゃんがシルルを見て、驚いた声を上げている姿が目に入った。
どうやらシルルは自宅にいたようなので安心した。シルルは家にいるとは言っていたがどこか危なっかしい所があるから心配だったが、どうやら杞憂だったようだ。
そして俺は手早く夕飯を作り食卓へと出す。
今日の夕飯はホロトロ肉のシチューとサラダ、パンに決めた。ただ病み上がりのルナちゃんに取ってパンは消化に悪いと考え、代わりに麦粥を用意する。
そして皆で頂きますの挨拶をし、夕食に手をつけると⋯⋯。
「えっ? なんですかこれ?」
「こんな美味しいもの今まで食べたことありません!」
良かった。どうやら今日の夕食はルナちゃんとサーヤちゃんの口に合ったようだ。
「お肉が柔らかくて凄く食べやすいです」
「このサラダのドレッシングもハーブの香りでさっぱりしていて美味しい~」
「ふふ⋯⋯どう? これがパパの料理だよ。パパのご飯を食べたらもう他では食べられないでしょ?」
ミリアは胸を反らし腰に手を当ててどや顔をしている。
「どうしてミリアが偉そうにしているんですか」
「それはパパとボクは身も心も1つだからだよ」
「なんか⋯⋯その言い方⋯⋯やらしい~」
「えっ? やらしいってどういうこと?」
今日も我が家の食卓は賑やかのようだ。ルナちゃんとサーヤちゃんも楽しそうに食事をしていて俺は少しホッとした。
そして食事が終わった後、俺は今日あったエギルについて、2人の両親について、ルナちゃんの身体についてミリアとシルルに話した。
「そう⋯⋯二人とも大変だったね」
シルルはそう言ってルナちゃんとサーヤちゃんの頭を撫でる。
「シルルお姉ちゃんありがとう⋯⋯」
「ユクトさんには本当に感謝しています。私の痛みも一手に引き受けて下さって⋯⋯」
「パパのあのような辛そうな姿を初めて見たので私も心配しました」
「もうトア達を不安にさせないでよ」
皆がそれぞれの想いを口にする中、ミリアだけ何やら考え事をしているようで会話に入っていないのが気になった。
普段なら会話の中心にいるようなミリアが1人だけ深刻な表情をしている。
「どうしたミリア? 何か気になるようなことがあるのか?」
「パパ⋯⋯」
突然ミリアはか細い声を上げ泣きそうな表情をする。
「ミリアどうしたの?」
思いもよらないミリアの変貌ぶりに皆困惑する。
「ご、ごめん。ルーナンの話を聞いていたら昔を思い出しちゃって」
「ミリアお姉ちゃん何かあったの?」
セレナとトアがミリアに寄り添う。
「パパ⋯⋯ボクって小さい時、ルーナンと同じように身体の調子が悪かったよね」
ミリアは確信めいた瞳で俺のことを見ている。
「えっ? ミリアお姉ちゃんが?」
「そういえば魔法で繋がっていた時にユクトさんは、同じ症状の娘を治したことがあると言っていました⋯⋯それって⋯⋯」
皆の視線が俺に集まってくる。これはもう誤魔化しようがないな。敢えて口するつもりはなかったがどうやら逃れることは出来なそうだ。
「そうだ。11年前、ミリアが3歳だった時に今のルナちゃんと全く同じ症状だったから
当時はすぐに体調を悪くしている原因に気づくことができず、特定するのに2年もかかってしまった。ミリアもまたルナちゃんと同様に生まれつきもった才能のせいで身体が魔力を制御することができず、ベッドの上での生活を余儀無くされた。
あの頃、ミリアの症状が改善した時は本当に嬉しかった。人生最良の日だったと言っても過言ではない。
だからこそ目の前のルナちゃんもあの時のミリアの姿が重なり、絶対に助けたいと思った。
「幼い頃の記憶でパパの苦しそうな姿があったけどボクの身体を治すためだったんだね。パパはボクを育ててくれただけじゃなく、健康な身体までくれた」
そしてミリアが胸に飛び込んできたので俺は優しく受け止める。
「大切な娘のためだ。例え命をかけてでも治してみせるさ」
「パパ! ありがとう! ボクはパパの娘で幸せだよ」
娘から自分の娘で幸せと言われるなんて親冥利に尽きる言葉だ。
そしてその言葉はセレナとトアからも発せられた。
「私もパパの娘で幸せです」
「トアもだよ」
ブルク村のみんなにも助けてもらったが男手一つで三人の娘を育てるのは大変だったが、そんな苦労も全て吹き飛ぶほど今の俺は幸せを感じている。
こうしてユクト達は商家アルトの夫妻を殺害したエゾル、コゼからルナちゃん、サーヤちゃんを護ることができ、夜が更けていくのであった。
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申し訳ありません。127話と128話を逆に投稿してしまいました。2022年4月24日16時20分に修正致しました。
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