第126話 エゾルの行方(4)

 ユクトside


「エゾルが殺された⋯⋯だと⋯⋯」


 首だけの存在となったエゾルが台の上に設置され公衆の面前に晒されている。まさか探し人がこのようなことになっているとは夢にも思わなかった。

 しかしサーヤちゃんとルナちゃんに取っては親の敵を取れたということになるが⋯⋯ラニとクラウくんに取っては最悪に近い結末となる。

 それはエゾルの首の横にある立て札に記載されていた。


 この者、商家の主を殺害し、その地位を奪っただけでは飽き足らず、その罪をなかったものにしようとしたため、ソルシュバイン帝国第1皇子の名の元に天誅を下した


 そしてこの立て札を見た周囲の者達からの声を聞くと⋯⋯。


「あの首は商家アルトの主のものだろ!」


 若い男性が声高く周りに問いかけるとそれに同調するように、周囲から声が上がる。


「確か半年前に夫婦が亡くなっていたわね。小さな子供2人を引き取って偉いと思っていたけど⋯⋯」

「まさか弟が兄夫婦を殺害していたとはな! こいつはとんだ腐れ外道だ!」


 この場からエゾルに対して打ち首にされるのは当然の報いだと非難の声が上がる。そして⋯⋯。


「それにしてもクラウ皇子暗殺の件もそうだが、ドミニク皇子は不当な行為を許さない人のようだな」

「真面目に生きている俺達に取っては有難い存在だ」

「クラウ皇子も良い方だと聞くが身体が弱いらしい。やはり皇位継承は長男であるドミニク皇子が即位するのが望ましいな」


 先日のクラウ皇子暗殺犯を始末したことも相まってドミニク皇子が民衆からも高く評価されているようだ。

 だが実際はクラウ皇子を殺害しようとしたのはドミニク皇子の可能性が高く、そしてエゾルが真っ先にドミニクの元へと向かっていたことで、2人は繋がっていたと考えると俺はとてもじゃないが周りの人達のように好意的には見ることはできない。

 それに先程から小綺麗な格好をした1人の若い男性が声高に周囲の人達を扇動しているように見える。まさかとは思うが⋯⋯。

 俺は若い男性がこの場から立ち去っていったので後をつけることにする。

 すると男性は帝都の中心へと向かい、そして城の中へと消えた。

 これだけでは断定出来ないが、おそらくあの男性はドミニクの手の者なのだろう。


「民衆を味方につけるための対策か⋯⋯」


 やり口は褒められたものではないが、皇位継承を得るための方法としては間違っていない。貴族を掌握し、そしてラニよりの民衆を味方につければドミニク側の陣営は磐石のものになる。

 どうやらドミニクは用心深い性格なのかもしくは完全にラニ達を叩き潰すつもりなのだろう。

 油断の1つでもしてくれればいいが⋯⋯やれやれ、ドミニクを打ち倒すのは楽には行かなそうだな。


 とにかく今はここにいてもやることがない。まずはコゼとベップを引き渡すため商家アルトに憲兵を連れて行かなくては。

 それとエゾルの結末をルナちゃんとサーヤちゃんに伝えなくてはならない。2人も両親の仇の最後を知りたいだろう。


 こうして俺は憲兵がいる駐屯所へと向かい、商家アルトへと戻るのであった。



「叔父さんが⋯⋯亡くなった⋯⋯」


 コゼとベップが憲兵に連れ去られた後、俺はエゾルの最後をルナちゃんとサーヤちゃんに話した。


 2人の表情からは何を考えているのかは読めない。

 両親の仇が死んで喜んでいる? それとも自分達の手で仇を取りたかった? もしくは罪を償ってほしかったのかどうかはわからない。

 だがエゾルが死んだという事実を受け入れないと2人はこの先の未来に進むことはできないだろう。


「これからどうすればいいのかな」


 サーヤちゃんがポツリと言葉を漏らす。

 ルナちゃんの体調が良くなったからといって親代わりであったエゾルが死んだんだ。子供2人だけで生きていくのは厳しいものがあるだろう。


「誰か頼れる親戚はいないのか?」


 俺の問いかけに2人は首を振る。


「それにお店のお金が全部無くなっていました。さっきベップさんから話を聞いて確認したらここから逃げる時に叔父さんが全部持っていってしまったようです」

「エゾルが金を?」


 しかし首が晒された場所には硬貨はおろか何も置いていなかった。まさかとは思いたくないがおそらく全てドミニクが回収したのだろう。


「叔父さんもいないし、もうお店をやって行くこともできないかも⋯⋯」


 仮にも商家アルトを回していたのはエゾルだ。他の店員達がどの程度商才があるのかわからないがお金があっても、もう店を続けるのは難しいのかもしれない。


「ベップさんもいない⋯⋯それに誰が叔父さんに手を貸していたのかわからないから⋯⋯怖いです」


 ルナちゃんは両手で自分を抱きしめ震えていた。

 店員の中にも両親を裏切った者がいたんだ。2人は誰を信用していいのかわからないだろう。店を始めることはおろかここに住み続けるのも恐怖でしかないのかもしれない。

 そしてそんな2人を見かねてか、セレナとトアがルナちゃんとサーヤちゃんを安心させるために抱きしめる。

 これはどうするかもう決まったな。


「とりあえず2人ともうちに来てゆっくり休んだらどうかな? 先のことはゆっくり考えればいいさ」

「「えっ? いいんですか?」」


 2人の声が合わさり、驚いた表情でこちらに視線を向けてくる。


「で、でも⋯⋯」

「私も賛成です!」

「トアも大賛成!」


 2人が躊躇しているところにセレナとトアが間髪入れずに賛成の意を示す。


「娘達もこう言っているしどうかな?」

「私達が行くと迷惑では⋯⋯特に私なんて歩くこともままならないし⋯⋯」


 初めて会った時から思っていたがルナちゃんとサーヤちゃんは大人過ぎる。これは両親が亡くなってしまったからなのかもしれないが、自分の気持ちを押し殺しているのが見てて辛い。親を亡くし、おやっさんに拾われる前の自分を見ているようだ。あの頃⋯⋯施設にいた時は、俺は周りに迷惑をかけず生きていこうとしていた。そのため自分の食べる分は自分の手で稼ごうと働こうとしたが、結局幼い俺を雇う所などなく、後で施設の先生にそんなことをしなくてもいいと抱きしめられたことがあった。


「ルナちゃん、サーヤちゃん⋯⋯2人はまだ子供なんだ。迷惑をかけていいんだ。確かにいつか自分達で生活しなくてはならない日が来ると思う。だけどそれは今じゃない。今は俺達は頼ってほしい」

「「ユクトさん⋯⋯」」

「それに同調魔法アライメントで繋がっている時に言っただろ? ルナちゃんのやりたいことを叶えてみせるって。もちろんこれはサーヤちゃんもだ」


 あの時の言葉に嘘はない。

 俺には両親が亡くなり、叔父に裏切られたこの子達を見捨てることなどできない。


 俺は自分の中の想いを伝えると2人は顔を合わせる。


 そして⋯⋯。


 ルナちゃんとサーヤちゃんは「よろしくお願いします」と言葉を発してくれるのであった。

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