第125話 エゾルの行方(3)
エゾルside
「はあ⋯⋯はあ⋯⋯私はアルト商家のエゾル⋯⋯だ。ドミニク様にとりなしてくれ」
エゾルはコゼを倒した者から逃げるため、必死になって走り城の入口まで辿り着く。そして入口にいる二人の門番が訪問者であるエゾルの前に立ち、その行く手を遮る。
「ドミニク皇子は今お食事中です。残念ですが御案内することはできません」
門番は当然のようにエゾルの言葉を拒絶する。だがエゾルとしては自分の身を守るためにもこのような所で止まる訳にはいかない。
「ドミニク様にエゾルが火急の用で会いたいと伝えるだけでいい」
「ドミニク様には予定のない来客は通さなくていいと許可を頂いています。正式なアポイントメントを取ってからまた来て下さい」
「ええい! それでは遅い! 私は急いでいるのだ。頼む! これで何とかしてくれないか」
そしてドミニクは門番2人の手に金色の硬貨を握らせる。
「ほう~⋯⋯そうだな。ドミニク様に取って大切な用事かもしれないな。念のために伝えた方が良いかもしれん」
「だがあくまでドミニク様に伝えるだけだぞ。お会いになれるかは保証出来ないからな」
「それでいい。至急話を伝えてくれ」
こうして門番はエゾルからワイロをもらうと城の中へ入っていった。そして門番が城の中へと入り5分程経つと⋯⋯。
「良かったな。ドミニク様がお会いになるそうだ」
門番の1人が戻ってきてエゾルに朗報を伝える。
「本当か!」
「ああ、失礼のないようにな」
「もちろんだ」
エゾルは門番の言葉を聞いて天にも昇る気持ちでニヤリと怪しい笑顔を浮かべる。
これでドミニク皇子に助けてもらうことができる。もし難色を示してきてもこの背中に背負った金貨があればどうとでもなるだろう。それどころかドミニク皇子の力を使って私のことを嗅ぎ回っている奴らを排除することさえ可能になるかもしれん。
ドミニクは意気揚々と門番に続いて城の中へと向かう。
そしてある一室に案内されるとエゾルは疲労した足を回復するため、ソファーに腰を掛ける。
「ドミニク様が来られるまでこの部屋でお待ち下さい」
「わかった」
エゾルはいつもと違って城の奥の部屋に通され少し戸惑ったが、人には聞かれたくない話をするためちょうど良いと考えていた。そして1分程時間が経つと突然ドアが開かれ2人の男性が部屋に入ってくる。
1人は鎧を着た騎士でもう1人は、背がすらっと高く筋肉質の身体をもち、王者の風格を漂わせるドミニクであった。
エゾルはすぐ様地面に膝をつき、部屋に入ってきたドミニクに頭を下げる。
「このような時間にお伺いしてしまい申し訳ありません」
「至急ということだったので会うことを許可した。つまらぬ用件であったら許さぬぞ」
ドミニクの少しイライラした口調にエゾルは焦りをみせる。
「ま、まずはこちらをお納め下さい」
エゾルは背中に背負っていたバッグから金貨の袋を出し、側にいる騎士へと献上する。
「ドミニク様がご贔屓にして頂いたおかげで、商家アルトは急成長を遂げることができました。これはいつもの献金ではありませんがどうぞお納め下さい」
騎士は袋の中身を確認し、ドミニクへと渡す。
「それで急な話とはなんだ?」
ドミニクの声が先程より若干柔らかくなり、エゾルは安堵する。だが余計な時間を取らせてしまうと再び機嫌を悪くしてしまう可能性があるため手早く要件を伝えることにする。
「その⋯⋯私は半年前に商家の主の座を手に入れるために兄夫婦を殺害しました⋯⋯」
「それはどういうことだ? 詳しく話せ」
「はい。実は――」
エゾルは実の兄を暗殺した経由をドミニクに包み隠さず話す。
「今、その兄を暗殺した者が捕らえられてしまいまして⋯⋯このままでは私の罪が明るみに出てしまうのは時間の問題です。どうかドミニク皇子のお力で解決して頂けませんか?」
一室に静寂が訪れ、エゾルは息を飲みドミニクの言葉を待つ。
「よかろう。私が
「おお! ありがとうございます。このエゾル、これまで以上にドミニク皇子に忠誠を誓うことを約束致します」
エゾルはドミニクが皇族の権力を使って自分を守ってくれると確信し、頭の中ではどうやってルナやサーヤを葬るかにシフトしていた。
「貴様のような忠臣を持って私は幸せだな。その命⋯⋯私のために役立てるがよい」
そしてドミニクは静かに立ち上がり、腰に差した剣を抜いてエゾルに突きつける。
エゾルはその様子に慌てふためき、恐れの表情を浮かべて腰を抜かしてしまう。
「どどどういうことですか! 私を守ってくれるのでは⋯⋯」
「私は問題を解決すると言っただけだ。貴様が死ねば全て問題は解決するだろう」
「ひぃっ! 助けてくれ! か、金ならまだある、アルトの全財産がこのバッグに入っている! だから命だけは⋯⋯」
エゾルは商家アルトから逃げてきて安心したのも束の間、実はこの場所が最も危険な場所だと気づき、必死に命乞いをする。
「その金は私の皇位継承を得るための資金として使ってやる。だが貴様の存在は邪魔だ。商家の夫婦を殺害した奴が近くにいると知られたら私のマイナスイメージになってしまうのでね」
「そ、そんなあ⋯⋯私はあなたに尽くしてきたはずだ。それなのに⋯⋯くそう! だ、誰かいないか! 私を助けてくれ!」
エゾルは自分の命を守るためになりふり構わず叫ぶが、誰も応えるものはいない。
「無駄だ! ここは離れにある一室で防音もしっかりしている。泣こうが喚こうが部屋の外に音が漏れることはない」
「ま、まさか⋯⋯初めから私を始末するためにここへ⋯⋯」
「貴様が商家の主を殺害して今の地位に着いたことは知っていたからな。そろそろ利用価値も無くなり、私の名声を上げるために生かしておいただけだ。そのような時にわざわざここに来るとは⋯⋯笑いを堪えるのが大変だったぞ」
そして我慢しなくても良くなったドミニクの笑い声が部屋に鳴り響く。
「き、貴様ぁぁっ!」
エゾルは背中に隠し持った短剣を抜きドミニクに向かって突き刺す。
だが武術が素人のエゾルの攻撃はドミニクに軽々とかわされてしまった。
「この私に向かって不敬を働くとは⋯⋯その命を持って罪を償え」
そしてドミニクは剣を横一閃になぎ払うとエゾルの首は簡単に胴体と2つに分かれ、その場で絶命するのであった。
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