第124話 エゾルの行方(2)

 エゾルside


 コゼがセレナに倒された後、商家アルトの一室にて


「コゼが敗れた⋯⋯だと⋯⋯」


 エゾルはベップからコゼによるルナ殺害の失敗の報告を受け、信じられないといった表情でその場に崩れ落ちる。


「は、はい。そして倒れたコゼさんを縛るという声が聞こえてきたので間違いないかと」

「兄夫婦の件を嗅ぎ回っている奴もいるし、コゼまで捕らえられたとなれば⋯⋯私は破滅してしまう!」


 兄夫婦を殺害してせっかく手に入れた商家アルトを失うのか。何よりこのまま憲兵に捕まると罪を暴かれ、極刑になることは間違いない。

 エゾルは慌てて机の上にある金貨や金庫に入っている店の収益を袋に詰め始める。


「えっと⋯⋯エゾル様何を⋯⋯」

「ここにいたら私は終わってしまう⋯⋯あのお方の元へと向かうことにする」

「あ、あのお方とはどなたのことでしょうか?」

「この国の将来を背負う方だ。きっと私の罪もなかったことにしてくれるはず」

「この国の将来を背負う方ですか⋯⋯私はどうすれば⋯⋯」

「お前は普段通り仕事でもしていろ! 私は必ずここに帰ってくる⋯⋯より強い力を手に入れて」

「あっ! エゾル様」


 そしてエゾルは金になるものは全て持ち出し、ベップを置いて商家アルトを後にするのであった。


「急げ急げ、私はこんな所で終わっていい男じゃない。せっかく無能の兄を排除し、全てを手に入れることができたのだ」


 そもそも何故父親は兄を商家の主に指名したのだ。兄と共に父親の元で働いていた時、私の案を取り入れて店は大きくなり、兄弟でどちらが優秀だったかは誰の目にも明らかだったはず。

 それなのに父は後継者として兄を指名した。

 兄は誠実だったから? 笑わせるな! そんなものが何の役に立つのだ! 商家は良いものを安く仕入れ高く売ることが重要だ。

 誠実? そんなものはクソの役にも立たない。

 世の中金が全てだ。金さえあれば貴族と同じ待遇を買い取ることができる。


 エゾルは背中に金貨や金目の物が入った大きなバッグを背負い、脇目もふらず帝都の中央区画へと目指していた。


「あの方には多くの金を渡してきた。全ては今回のようなことがあった時のため。もし渋るようなら新たに金を渡せばいい」


 そしてエゾルは息を切らせながらたどり着いた先は⋯⋯帝都の中央にそびえ立つ1番巨大な建物だった。


 ユクトside


 俺は商家アルトを出て急ぎ中央区画へと向かっている。

 周囲の建物は薄暗い色に染められ、太陽は見る影もなく、辺りは夜の時間が訪れようとしていた。


「くっ! 間に合うか!」


 ルナちゃんの治療と気絶してしまったことを考えると既にエゾルは城へ入城してしまった可能性が高い。

 そうなると俺からは手が出せなくなってしまう。

 ラニやクラウくんに頼めば城の中に入れてもらえるとは思うが、これから揉め事が起きる可能性が高いため、2人の立場をこれ以上悪くしたくないから手を借りる訳にはいかない。

 ドミニクがエゾルを保護していなければ城から出てきた所を捕まえ、憲兵に差し出すだけだ。だがもしドミニクがエゾルの後ろ楯になっている場合は、当初の予定通り夜の闇に紛れて暗殺させてもらう。

 目には目をではないが自分の兄にしたことが返ってくるんだ。エゾルも文句は言えないだろう。

 奴がどんな選択をしようとサーヤちゃんやルナちゃんにした報いを受けさせる。

 1番最悪なのはこの帝都から逃亡されることなので、まずはエゾルの所在を突き止めることが先決だ。

 もし見つからなかった場合はまたズルドに頼むしかないか。

 だが出来ればこれ以上の出費はしたくないものだ。なにしろこれから莫大な金を使う予定なのだから。


 俺は一縷の望みをかけエゾルを探しに中央区画に足を踏み入れようとするが⋯⋯。


「やけに人が多いな」


 周囲を見渡すといつもと違う光景に俺は違和感を感じてしまう。

 普段ならこの時間は夕食時でもあり、人の姿はまばらのはずだ。

 だが目の前には混雑とまでは行かないが多くの住民の姿が見られる。

 しかもこれは⋯⋯皆中央区画へと向かっていないか?

 この先に何があるというのだろう。

 上手い屋台の店でも出来たのか?


 そして中央区画に入ろうとした時、異変が起きた。

 多くの人が立ち止まり何かに視線を送っている。

 何があるのかわからないが、どうやらこれが人の多さの原因のようだ。


 俺はエゾルを探さなければならなかったが何故か気になり、中央区画に向かうついでに、人混みの中心へチラリと目線を向けた。

 するとそこにあったものは⋯⋯。


 木で出来た立て看板と人の首が飾られていた。


「まさかこんなことになるとはな」


 俺は看板に書いてあるものを読むとラニやクラウくんに取って、最悪の結末になる内容であることを理解した。

 

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