第122話 目が覚めて・・・
そしてユクトが全力でルナの身体に魔力を流してから10分程経った後。
「「パパ⋯⋯パパ!」」
どこからか聞こえてくる声により俺はゆっくりと瞼を開く。
「あっ! パパの意識が戻ったよ」
「良かったです! 目が覚めないから心配しました」
「良かった⋯⋯良かったよ」
俺の意識が戻ったからなのか
「ルナちゃんは⋯⋯ルナちゃんの身体はどうなった?」
近くにいないルナちゃんのことが心配になり、俺は身体を起こして周囲を見渡す。すると⋯⋯。
ルナちゃんの目は覚めていたがベッドに横たわったままだった。
「失敗⋯⋯したのか⋯⋯」
最後に全ての魔力を使って回路を広げたつもりだったが、あまりの激痛に俺は意識を失ってしまった。
必ず治すと言っておいてルナちゃんを元気にして上げることができなかったなんて。
俺は自分の未熟さに情けなくなり、怒りが沸いてくる。
「違います!」
突然ルナちゃんの叫ぶような声が部屋に響き渡る。
そして俺はこの声に違和感を覚えた。
さっきまでのルナちゃんの声は弱々しくか細い感じだったが、今聞いた声は⋯⋯。
俺はハッとなりルナちゃんの顔へと視線を向ける。
「はい、ユクトさんのお陰で身体は治りました。たぶん立つこともできます。だからその⋯⋯私が元気になった所をユクトさんに見て貰いたくて」
もしかしたらルナちゃんは、自分の身体の体調が良くなったことを見せるため、俺の意識が戻るのを待っていてくれたのか?
「見てて下さい」
ルナちゃんはベッドから起き上がり、そして地面に足をつく。その動作はゆっくりだったが、ルナちゃんの表情から見て苦痛な動作ではないことがわかる。
そしてルナちゃんはベッドで支えていた手を離し、少しずつだがしっかりと俺の方へと足を進めてきた。
「ほら、ユクトさんが私を助けてくれたから歩くことが出来ました」
ルナちゃんは嬉しそうに笑顔で、だけど目から涙を流しながら俺の方に向かってくる。
俺はルナちゃんのその姿を見て、出会って1日にもかかわらず不覚にも嬉しくて泣きそうになってしまった。
娘達の友達だから? 両親を殺された2人の境遇に同情してしまったから? もちろんその2つも理由の1つだが、1番は⋯⋯
ルナちゃんのこれまでの人生に、想いに触れて知り過ぎてしまったから、元気になったその姿を見て喜びもひとしおだ。
いや、もし
「私、歩いている⋯⋯歩いているよ⋯⋯あっ!」
ルナちゃんが不意に足に力が入らなくなったのか声を上げて地面に倒れそうになる。
「危ない!」
俺は慌ててルナちゃんに駆け寄り、何とか手が地面につく前に支えることに成功した。
「まだ身体を支えるだけの筋力がないんだ。無茶したらダメだぞ」
「ふふふ⋯⋯ありがとうございます」
ルナちゃんは注意されたのに自分の足で立つことが出来たのが嬉しいのか笑顔で笑っている。
「お姉ちゃん!」
そしてそんな俺とルナちゃんの元にサーヤちゃんが飛び込んできた。
「良かった⋯⋯本当に良かったよぅぅ」
「サーヤ⋯⋯今まで支えてくれてありがとう」
「ううん、いいの。私はお姉ちゃんが元気になってくれればそれで」
「私もサーヤがいたから今までがんばれたんだよ」
両親を亡くした中で2人ともよく頑張ったと思う。
そして目の前で美しい姉妹愛が繰り広げられているため俺は邪魔だと思い、一歩引こうとしたが⋯⋯。しかし2人の手がそれを許さなかった。
「ユクトさんどこへ行くんですか」
「いや、2人の邪魔をしたら悪いと思って」
「私とお姉ちゃんを救ってくれた恩人さんが何を言っているんですか。逃がしませんよ」
そう言って姉妹は俺の左右から抱きついてきた。
「ちょっと待って! トアもルナちゃんが元気になってすっごく嬉しいんだから」
「それは私も同じです。2人とも良かったですね」
そして今度はうちの姉妹も俺達の輪の中に入り、抱きしめてくる。
皆の中心にいる俺は前後左右から抱きしめられ少し苦しい状況だが、この誰しもが笑っている状況を向かえることができて、俺も自然と笑顔になるのであった。
そして皆でルナちゃんの身体が治ったことを祝福した後。
ルナちゃんは体調が良くなったことではしゃぎすぎてしまい、疲れてしまったため一度ベッドへと戻した。
サーヤちゃんをスラムから救い出し、ルナちゃんの身体を治すことが出来て良かった。だがまだ終わりじゃない。2人の両親の暗殺依頼をし商家アルトを乗っ取った奴がまだのうのうと生きている。
「セレナ、トア⋯⋯ルナちゃん達の様子見ててくれないか」
「わかりました」
「うん。トアに任せて」
「エゾルの所に行って決着をつけてくる」
コゼが捕まっていることがエゾルに知られると逃げる可能性があるため、とりあえず一度拘束した方がいいだろう。
俺はこの部屋にいる娘達やルナちゃん、サーヤちゃんに宣言し部屋を出て行こうとしたその時。
「私も一緒に行かせて下さい」
サーヤちゃんが真っ直ぐな眼差しでエゾルの元へ連れていってほしいと懇願してきた。
少々荒っぽいことになる可能性があるが、エゾルが屋敷の中にいるのなら案内のためサーヤちゃんが一緒にいた方がいいな。それに自分の両親を陥れた奴がどうなるか見届けたいという思いもあるのかもしれない。
「わかった。それじゃあエゾルがいる所まで案内してもらえないかな」
「はい、わかりました」
こうして俺達は商家アルトの夫婦暗殺、娘のルナちゃんサーヤちゃんを殺害しようと企てたエゾルの元へと向かう。
だがこの時の俺は、まさかエゾルが最悪の結末を迎えるとは夢にも思っていなかったのであった。
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