第119話 ルナの治療前編

 俺とサーヤちゃんはソイド達と別れた後、スラムを抜け出すため東へと脚を向ける。。

 そしてスラムを抜け出し、商家アルトへと向かっている時、俺はサーヤちゃんに両親暗殺の件を伝えた。


「叔父さんが⋯⋯信じられません」

「だがこれが真実なんだ。だからサーヤちゃんはスラムに行くように仕組まれた。それにサーヤちゃんの命が狙われたということは今頃お姉さんのルナちゃんも⋯⋯」

「そ、そんな! お姉ちゃんはベッドから動くことが出来ないの! もし誰かに襲われたら⋯⋯」


 サーヤちゃんは最悪のケースを想像したのか顔が真っ青になり、カタカタと震え出した。


「大丈夫⋯⋯お姉さんの所にはセレナとトアを向かわせているから」


 俺はサーヤちゃんを安心させるために抱きしめる。


「本当⋯⋯ですか?」

「ああ⋯⋯きっと2人がお姉さんを護ってくれているよ」

「ありがとうございます、ありがとうございます」


 セレナとトアなら大丈夫⋯⋯俺はそう信じてはいるもののやはり娘達が心配なのでサーヤちゃんと急ぎ商家アルトへと向かうのであった。



「お姉ちゃん!」


 サーヤちゃんは商家アルトの一室にたどり着くと勢い良くドアを開け、部屋の中へと入る。


「どうした⋯⋯の? そんなに慌てて」

「お姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃん!」


 サーヤちゃんは涙を流しながらベッドに横たわっているお姉さんに抱きつく。

 普段しっかりしているように見えるけどこう見ると年相応だな。

 もしかしたら両親が亡くなり、病気の姉を自分が護っていかなくてと無理をしていたのかもしれない。

 そう⋯⋯この娘はまだ10歳。本当はまだ大人が導いて上げなきゃいけない年齢なんだ。

 俺がおやっさんに導いてもらったように。


「無事で良かったよぉぉ」

「それは⋯⋯お姉ちゃんのセリフ⋯⋯よ。サーヤは大丈夫⋯⋯だった?」

「私はユクトさんとスラムの子達に助けてもらったから」

「お姉ちゃんも⋯⋯セレナさんやトアさんに⋯⋯護ってもらったのよ」


 俺は部屋の端に目を向けるとそこには1人の男がロープに縛られて床に転がっていた。


「この男は⋯⋯」

「コゼという名前で商家の主の側近のようです」


 こいつがサーヤちゃん達の両親を殺害した⋯⋯。

 だが今そのことを言うわけにはいかない。もしサーヤちゃん達がこのことを知れば、両親の仇であるこの男に何をするかわからないから。

 この男にはエゾルがサーヤちゃん達の両親殺害について言い逃れをした時の証人としてまだ生きてもらわなくては困る。


「セレナお姉ちゃんがバシッと倒しちゃったんだよ」

「何を言っているのですか? トアちゃんの活躍があったからです」


 どうやら娘達も頼もしくなったようだ。俺の心配は杞憂だったな。

 だが一つ気になることがあり、俺はベッドに寝ているルナちゃんに視線を向ける。


「初めまして。セレナとトアの父親のユクトです」

「えっ? あ⋯⋯その⋯⋯ルナ⋯⋯です⋯⋯」


 するとルナちゃんは何故か頬を赤くして顔を背けてしまう。


「お姉ちゃんどうしたの? 具合が悪いの?」


 サーヤちゃんがルナちゃんの体調が悪いと思ったのかベッドに駆け寄る。


「ち、違うの⋯⋯ユクトさんに見つめられて⋯⋯恥ずかしくて⋯⋯」

「そうなの?」


 ルナちゃんの言葉にサーヤちゃんはキョトンとしている。確かに女の子をジロジロ見るのは礼儀に反していたな。


「申し訳ない。少し気になることがあって」

「い、いえ⋯⋯わ、私なんかで⋯⋯良ければ好きなだけ⋯⋯見て下さい」

「それならもう少しだけ見ていてもいいか?」

「は、はい⋯⋯」


 俺は許可をもらったのでじっくりと


「な、何ですかこれは⋯⋯まさかパパはルナさんに一目惚れを⋯⋯」

「ルナちゃんは肌が雪のように白くて美少女さんだもんね」


 いやいやセレナとトアは何を言っているんだ。確かにルナちゃんは可愛いとは思うが娘達より年下の女の子に一目惚れするわけないだろ。


 だが今は娘達の言葉を気にするよりルナちゃんの体内の魔力に集中する。すると身体の節々で魔力の流れが悪く、詰まっている箇所が見受けられた。


「ルナちゃんは回復魔法をかけられると⋯⋯逆に苦しくならないか?」


「「「「えっ?」」」」


 俺の言葉にこの部屋にいる全員が驚きの声を上げている。


「な、何でそのことを知っているんですか。お姉ちゃんは回復魔法を受け付けないことを」

「ルナちゃんの身体の至る所で魔力が留まっている。そこに回復魔法の魔力を流し込むと余計に体内に魔力が溜まり、身体に痛みが走るはずだ」

「そ、それって⋯⋯病気じゃないって⋯⋯ことですか」


 俺はルナちゃんの問いに頷く。

 これは病気でもましてや毒でもない。どんな薬を使おうが治ることはないだろう。


「そ、それで⋯⋯お姉ちゃんは、お姉ちゃんの身体を治すことは出来るんですか! 私、そのためなら何でもします! だから、お姉ちゃんを⋯⋯お姉ちゃんを元気な身体に⋯⋯うぅ⋯⋯」


 サーヤちゃんは大粒の涙を流し、すがるようにしがみついてくる。


「パパ、私からもお願いします。もし何か必要なものがあれば用意します。だからルナさんを治して下さい」

「トアもルナちゃんともっと仲良くしたいし、一緒に遊びたい。パパ、トアからもお願い」


 今までに娘達からこれほど懇願されたことなどない。それだけでルナちゃんやサーヤちゃんが良い娘だということがわかる。


「私の症状は⋯⋯どんな⋯⋯お医者さんでも治すことが出来ませんでした。もう⋯⋯ずっとベッドの上で⋯⋯過ごすと思ってました。私は元気になる夢を⋯⋯夢を見ても⋯⋯良いんですか?」


 ルナちゃんはこちらに向かって右手を伸ばして来たので俺はしっかりと受け止める。


「任せてくれ。俺が必ずルナちゃんの身体を治してみせる」

「お願い⋯⋯します⋯⋯」


 ここまでお願いされて断ることなどできるはずがない。今まで辛い想いをしてきた姉妹の為にも、これから明るい未来を過ごせるよう大人である俺が道を作る。


「ただ、治療にはそれ相応の痛みがある。頑張れるか?」

「はい⋯⋯」


 ルナちゃんの返事はか細く小さいものだったが、その声には強い意志のようなものを感じた。


 そして俺はルナちゃんの両手を取り、魔力を集中させる。


「セレナ、トア、サーヤちゃん⋯⋯


 俺は三人に向かって忠告すると高めた魔力を解放して魔法を唱えるのであった

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